19話 幕間② 第一回ノクタルボードゲーム
「ではこれより、第一回深淵街ボードゲーム王決定戦を始めていきたいと思いまーす。わーぱふぱふ」
「どうしたんですかマスター、そのテンションは」
どうしたと言われてもいつも通り。これと言った理由はない。しいて言うなら勇者と姫様が『交易をするのだろう?それなら盤上で出来る遊戯の類でも仕入れてくれ。暇すぎる』と言っていたのでわざわざお金を出して買うくらいなら、作った方が安上がりじゃない?というわけでやってみたくなった。なお参加者は今のところ僕だけだ。今から勧誘しに行くところ。
「チェスを作ってみたんだけど。もしかしなくても一般的ではないボードゲームだよね」
「まぁ似たような物はあるかもしれませんけど、細かいルールなどは違いますよね」
勧誘1発目で失敗を察知した。そうなのだ。へけ。じゃなくて。
当然僕が知識にあるボードゲームは地球由来地球育ち地球の奴らだいたい知ってるみたいな物なのだけれど、例えば駒を取り合うボードゲームにしたって駒の動かし方や取った駒の扱いが変わるのもボードゲームである。なんなら将棋とチェスだって類似した動きはあるのに細かいルールは全然違う。それなのに地球と異世界でそんな同じボードゲームを使用だなんて思っても実力差が出すぎて面白くない。それでは最強決定戦にならないのだ。どうしたものかと歩きながら考えているととりあえず簡単そうなところから始めろと神のお告げがあった。
「というわけで運ゲー用意してきました」
「お前が何か思いついた時はいつも唐突だな魔王」
勇者と姫様のお家へ来ました。今回はとりあえず1から6まで書かれた四角やら1から13までの札を用意した。つまりはサイコロとトランプである。ボドゲから遠ざかったがとりあえずはこれを叩き台にして、ルールをすり合わせて行きたいところである。
「遊戯を要求したがスラム街の賭場で扱われているような物が出てきたな……」
「そういうのあるんだ。いやむしろ一番盛んな世代なのかな」
「平民ではそういったもので身を崩すお方も珍しくはないと聞きましたわね」
この時代の借金取り立てって現代の比じゃなさそうだ。国が助けてくれるものでもなさそうだし。
「それで何をする。対して賭ける物もない身だが私は強いぞ」
「なんだ、文句言ってたわりには意外とノリノリじゃん勇者」
「姫様にさせるには少々品が足りないが私は軍属だったからな。遠征時などで暇な騎士たちがこういった遊びで一喜一憂していた物だ」
「いや、勇者様は騎士時代あまり人とお関りになって……」
あ、勇者が落ち込んだ。う、うん。友達いなかったんだ。今はほら、僕たちいるから……友達と言われると怪しいところだけど。
「ちんちろとか?ぶっちゃけあんまりルールわからないけど」
「……知らん名が出たな。そういえばお前は生まれが違うから知識に偏りがあるんだったな。姫様は何かご希望は?」
「私もあまりそういったことに詳しくはありませんのでお任せいたしますわ」
「そうだな。ダイスポーカーでもするか。ルールはやりながら教える」
こっちの言葉は伝わらないけどあっちの言葉はわかる。なんというチート能力だ翻訳機能。偶然ポーカーに似たルールのゲームがあったのだろうがそれでもわかりやすくて助かる。とりあえず僕が用意した物なので不正防止として勇者か姫様が振ることになった。リードは見てるだけでいいとのことなので一旦ただ勝敗をつけるだけのお遊びポーカーだ。細かいところは違うが役の強さなどルールも地球と同じだった。とりあえずいっぱい揃えば勝ちってことである。
◇◆◇
「……魔王。一体どんなサマをした」
「人のせいにしないで欲しい」
「あの魔王様。いくら何でもこれは……」
5の5ダイス、6の5ダイス、6の4ダイス、本当に何もしていないのになぜか僕のダイスを振ると4つから5つ同じ目が出るのだ。勝負にならないし僕がほぼ手を変えないので何も面白みがない。勇者と姫様の顔が最初は笑顔だったのに段々と引きつってきたときはこっちの方が気まずかった。ちなみにルールは同じとのことでサイコロからトランプにしても同じだった。4カード、ストレートフラッシュ、ロイヤルストレートフラッシュだ。もはや怖いまである。僕が姫様と雑談しているときに勇者が(これは魔王の分……)と無言でカードを5枚引いた時にロイヤルストレートフラッシュが出たらしく、その時は勇者が怖すぎて小さな悲鳴を上げていた。
勇者が怯えている間に姫様は合点がいったのか納得したような顔をしていた。
「そういえばエリュシア様は自由を愛する女神様で遊戯などにも親しんでおられると経典にありましたわね」
つまるところ僕を送り出した神様からの加護のようなものであると?え、僕の特典って一回僕がボロ勝ちして爆笑した後続きの展開が退屈過ぎて爆睡したこの頭の上で寝ている妖精じゃなかったんだ。そう思っていると僕が色んな家に設置していた神棚のような物(リード監修)にあるご神体(手彫り、リード監修)から光の粒が発せられた。光の粒は空中に文字を描き、『なんもしてないよ』と放ち消えていった。
「……運が絡むゲームはやめようか」
「そうだな」
「え、あの。今神の奇跡が、え、勇者様!?魔王様!?今私たち神の!女神様が私たちをご観覧なさって!」
僕あの神様のこと従妹のお姉ちゃんくらいに思ってるんだけどすごいことらしい。同様に神の奇跡を貰っている勇者からしてもこれくらいならあり得るか……という展開だったらしいが、姫様だけは混乱し続けていた。
その後普通にチェスなどを現地にあるボードゲーム風へ改造した物を勇者と遊ぶことにした。ちなみに勇者はくそ弱かった。基本的に動きが直線的すぎるし強い駒を突っ込んで暴れさせることしかできていなかった。姫様に後々そのことを聞いてみると、『勇者様ご本人がその、そういう戦法を。それに親代わりの騎士団長様も豪胆な方で』と言いづらそうにしていた。そういえば強い駒一人で僕じゃない魔王を滅ぼした人だったよあの人。
そんなこんなで幾つか思いつく限りのボードゲームを、人を変え品を変え遊んでいた結果が訪れた。
「えー、では第一回ノクタルボードゲーム王は……ルーカスに決定しましたー」
「おめでとうございますわ」
「ふん、次は負けないぞ」
「えっと、なんで俺がこんな場に?」
途中段々とお互いの手が読めるようになってきた僕たちの間に、ある程度知識を持った村人たちを誘致して戦わせ、その優勝者と僕らが戦うことにしたのだ。知識があるとはいえ所詮辺境の村人。現代日本出身の僕やお貴族様どころか本物のお姫様である姫様。兵士たちがやっているのを盗み見たり騎士団長なる人から教えを受けた勇者が簡単に負けるはずないとタカをくくって見ていたところに現れた超新星である。
強いんだルーカス。いやルーカスさん。決して僕らが弱かったわけではないと信じたい。姫様に勝っていいのかな、ご無礼では?という顔を見かねた先に負けまくっている勇者と僕からのGoサインにより接戦を演じてからの姫様への辛勝は僕らのにわか仕込みじゃない本物の技を見た。やってた?そういう仕事。
優勝したルーカスさんには僕が作った宝石をあしらった特製のチェスボードと、最近生活レベルを現代日本人レベルからこの世界の貴族レベルに落としている村人たちには御馳走であるところのケーキを配布しておいた。村人たちの間ではボードゲームに強くなるととんでもないご褒美が貰えるらしいと今ブームを超え、顔を見合わせれば無言で懐からボードゲームを取り出す西部劇のガンマンのような世界が繰り広げられているらしい。面白そうすぎる。
ちなみに負けて悔しかったわけではないが負けっぱなしも信条に反するのでルーカスさんとはポーカーで勝負しておいた。
ふっ、ポーカーも研鑽を積むといいよルーカス。




