17話
「魔王でいいよ。あと別に気安く」
「様は良いということか?……まぁ、うむ」
あ、この人今「よくわからねぇけどこいつにつっこんでも無駄なんだろうな」みたいな顔をした!僕だって自分の存在よくわかってないよ!ほぼ記憶ないし!
「まずは俺たちにこんな環境を提供してくれることに感謝する。ただ幾つか相談したいことはあるな。……正直こんな立場向いてないんだが」
「良いんじゃない?ルーカスさん向いてそうだよ」
村人たちも信頼してる感じがある。新しい指導者を欲しているというよりは、1つの共同体における知恵者を信頼しているという感じだ。
「俺は村から一度抜け出して王都で冒険者をしていた時期があるから、少しだけお上の事情に詳しいだけだ。心が折れて村に帰ったがな」
なんか姫様とかの態度にも若干の慣れあったもんね。こんなこと言ってるけど肝は据わってそうだしもしかして結構イケイケだったのだろうか。でもそんなに強そうではないんだよな。判断が難しい人だ。
「話が逸れたな。まずは食料問題だ。対して持ち出せてない上に村が焼かれたとなっては備蓄もほとんどないだろう」
「そこら辺はフィードスライムとかで察しがついてるだろうけど。僕が提供できるし、君らからしたら結構美味しい料理みたいだからいいんじゃない?」
「それは嬉しいが……食料ができるまで頼りっぱなしというのもな。それにあの食事に慣れた場合もう戻れん」
冗談半分本音半分といったところかな。頼りっぱなし……僕に食料を握られている状況が嫌とも取れるけど。
「単刀直入に聞こう。魔王様の望みってのはなんなんだ?住んで欲しいって言ってもそれだけの理由はあるだろ」
うーん、本当に住んで欲しいだけなんだけどな。それじゃ納得できないか。無条件の善意なんて信じられるような世界観じゃないか。
「とりあえず町が回ってくれればいいかな」
「……あまり変わってないな」
「僕が環境を整えるから、整えた先でみんながどうするか見たいっていうのかな……って言うのはちょっと嫌な言い方かな?他意はないんだけどね」
あまり上位者然とするのもよくないだろうけれど本心だからな。この感覚は住んでいる本人たちには伝わらないのだからしょうがない。
「はぁ……わかった。で、2つ目の相談だな。足りない物が多い。喫緊で言うと食糧もそうだが塩、布……今は大丈夫でも冬になったら火種なんかも必要になるな。木材やらも見た感じ……ないよな?森も後から生えてくるのか?」
「生やそうと思えば、うん」
「無茶苦茶だな。ふぅ、じゃあ木材や火種も最悪なんとかなるが」
冬ね。辺境の村、というかこの時代では結構深刻な問題なのだろう。安定した暖房器具なんてあるわけないしね。作ろうと思えばできるけど村人全員分というと確かに結構コストがかかる。なら暖炉みたいなのを作る方が安上がりか。
ていうか冬あるんだ外。
「前はどうしてたの?食料とか木はあっても塩なんて取れなかったでしょ」
めっちゃ内陸だし。海があったら僕の横向き拡張通路が水没しているだろうから。岩塩とかあったのだろうか。
「基本的にはそこら辺は交易でなんとかだったな。商業国家まで行くのにここら辺を通る変わり者の商人に、少ない魔物の素材やらを売って何とかしてもらっていた」
なかった。
「要はその商人と取引したいと」
「何か問題があるか?一応、ちょっと変わっているが信頼できるやつだ」
まぁ確かに町が回っているという状況を表すためにはこの町だけで完結させるのはちょっと違うか。
「いや特にないよ。こっちから出す物は?」
「従来通りなら魔物の素材、掘れるというなら鉱石だが……魔物の素材というのは、その……」
魔物の素材という言葉を出した当たりで言い淀む。ああ、僕が魔王だから魔物って配下、臣民みたいな存在だと思ってるのか。確かにリードレベルになればその感情は強いが正直カオススライム君であっても倒されて素材を売り払われても大した感慨はわかない。カオススライム君倒して売り払えるならそれはもうこんな辺境の村にいる逸材じゃないけど。盗賊の親玉を単騎撃破できる存在だぞカオススライム君は。
僕のたいして気にしてなさそう、というかピンと来てなさそうな表情を見て少しほっとしたように見える。
「うん。良いと思う。ただ条件として1つ……」
「条件……?」
外の人間を巻き込むことはちょうど考えていたので賛成だった。ただちょっとやりたいことがあってね。僕はこの程度の人口規模と魔力収入では満足してないのだよ。そのためにはダンジョン復活、かつダンジョンは利用できる物だとアピールしなくっちゃ。
◇◆◇
【貪欲の大穴】それをまるでのぞき込むような場所に建てられた小さな掘立小屋。おそらく一般人、いやどの立場の人間が見たとしても足元を不安視するだろう場所に男と女が机を挟んで向かい合っていた。場所など関係なく別にロマンチックな雰囲気などなく、かといって険悪な雰囲気でもない。とはいえ女、商人である【タリヤ・スヴァン】が男を見る目は獲物を見る猛禽類のように鋭い。それは本来商人たる彼女が隠しておかなければいけない野心である。
「さてルーカスさん?この前のこれについてはお聞かせいただけるのですよねぇ」
そう言って革袋から筒状の物を取り出す。軽く、水晶のように透明でありながらも琥珀色に揺らめいていた物を閉じ込めていた、ルーカスにはわからなかったがあのお方が言うには【ガラス瓶】という物。条件としてうちが提供する物の中に混ぜられたそれについてここまで鋭く探られるとは思っていなかった。なぜならルーカスも対してそのガラス瓶とやら、そしてその中身について知らないのだ。
「それはガラス瓶って言うらしい。まぁまぁ軽いし水を通さないが、衝撃を加えると砕け……」
「そっちじゃないのわかってますよねぇ、中身ですよぉ、中身」
衝撃を加えると砕けるという言葉を聞いてなお、強めに瓶の底を机に叩きつけた。ただしタリヤの腕力では割れるほどの力は出なかったのか。瓶を強く主張するという役割を果たすに至った。
「酒らしいが……そんな珍しい物だったのか?」
ルーカスが真剣に問いかけると、しばらく眼光鋭く見つめていた視線が何も知らないことを悟りため息と共にテーブルに落ちる。
「質問を変えましょうか……これはまた手に入れられる可能性がある物なのですか?」
「断言はできないが……おそらく」
ルーカスは顎を触りながら答える。その酒瓶を出した人物、人物?が言うにはこれは餌の1つであると。それならばこの商人、そしてその裏にいる存在はあの人がぶら下げた餌にしっかりと食いついた獲物であるということだろう。ならば間違いなく何らかの方法で再入手はできる。どれほどのコストがかかるかはルーカスでは知る由もないことだが。
「単刀直入に言いましょうかぁ。この酒瓶を得られるならぁ、向こう1年間の塩は提供させていただきますよぉ?」
「なっ……それは、その……」
「……だいたい察しましたぁ。これを得ることは恐らくそれほど苦労していなかった、または偶然だったんですねぇ」
「俺はそこまで詳しくないがそれほど、なのか?」
ルーカスの態度や言動から正確に状況を把握して見せたタリヤ、だがそれほど苦労しなかったというのも偶然というのも若干の誤解はある。これ以降正確にこの酒の価値を把握した魔王は酒瓶の出現方法を変えるだろう。実際にはルーカスが働きの対価として酒を望めば魔王は現状に満足しているので与え渡すであろうが。ただしルーカス自身それを知らず、さらには価値を把握してしまったために望むこともないのだが。
「これの中身を提供することで商業国家での販路が1つ増えるくらいにはぁ。まぁ鉱石もそうですけどぉ、大丈夫ですかぁ?荒れますよ、この辺」
「領主様は覚悟している、そうだ」
「その領主様っていうのはハーゲン子爵ではないのでしょうねぇ」
「それとその領主様からちょうどお達しがあった。『話があるからお通ししろ』とさ」
ルーカスは不意に立ち上がる。それは先ほどまで睨まれて、経済的圧をかけられ、狼狽えていた男の姿ではなかった。立場が逆転したわけではないのだが、その頬には驚かせてやろうといういたずら小僧のような笑みが浮かべられていた。
「お通し……というとぉ?」
「俺たちの町……ノクタルにさ」
第1章【チュートリアル編】
~完~
第1章終わりです。幕間などを少し投稿した後、第2章を書く際少しだけ期間空きます。よろしければ評価やブックマーク、感想をお願いします。




