15話
当然だが威圧的な態度を取られた村人たちは顔を見合わせて困っている。そりゃそうだ。あまりにも怪しすぎる。怪しい立場で全く間違っていないのだが怪しまれたくないと思っていたやつの行動ではないだろう。でも身体が勝手に!
幸いにも村人たちは僕が来たことに混乱しているようであまり威圧的な言動には動じていないようである。目の前に立ってるのに正体不明が役に立つ時ってあるんだと感心している。
……沈黙がきついな。村人側もここまでに逃げてくる途中で指導者と呼べるような立場の人間を失ってしまったのだろう。そもそも村というコミュニティが横の広がりを重視する場合代表者と言った存在がいない可能性だってあるのだ。
うん、言葉選びを間違えたな。別に適当に一番前にいる人を指せばよかったんだ。村人側は僕が黙っているのを出方を伺っていると考えてくれたのか勝手に相談し始めてくれた。ひとまずは年長者である狩人の役職についているらしい人物が代表者ということになった。ルーカスというらしい。
「それで……状況を飲み込めてないんだがあんたが俺たちを助けてくれたのか?」
「概ね合ってる」
助けたというかこの人たちの生活基盤を破壊してもらってから自分の資産に変換しただけなんだけどその辺はわざわざ言う必要もない。……文字にするととんでもないことしてるな、僕。
イマジナリーリード、通称イマジナリードが今更ですか?って呆れた顔をしている気がしたが、彼女はそんなことしない。チュートリアルに加えて頭脳を担当してくれている心優しい妖精なのだから。おいやめろ、チュートリアル画面で【今更ですか?】って表示させるな。というか思考を読むな。
助けてくれたようだけどこんなダンジョンに現れ盗賊を皆殺しにした男(本人談)、信用できるのか?というざわめきが村人たちの間で生じている。そりゃそう。しかも最初の発言が代表者を出せだし。
「疑問は尽きないようだけど立ち話もなんだし、とりあえず僕の家にでも招待しよう」
たぶん疑惑がもっと深まった。家にでも招待しようと言いながら穴の奥へ進もうとしてしている僕を見る目は完全に人間の姿に化けた化け物である。あながち間違ってないのが一番の問題だね!狩人さんと若者……要は最初にダンジョンへ来た3人組が僕についてきてくれるらしい。他はここで待機だ。命の恩人だし怪しいけどついて行くか……でも全員で行ったら何があるかわからないしな……1人だとあれだし……みたいなアイコンタクトが繰り広げられていたが気づかない振りをしておいた。
ちなみに僕専用の家という物はない。しいて言うならコア部屋がそれにあたるのだがあそこは物理的な移動をするには面倒な立地をしているし、そもそも心臓部らしいのでおいそれと招待する場所ではないのだ。というわけで壁ぶち抜いて~、穴掘って~、新しく設置したエレベーターに載せて~、居住区でございま~す。
「転移魔法……!?いや、太陽の位置がここら周辺とまったく違う……これはいったい」
「おっちゃん、俺らにもわかるように言ってくれや」
「おそらく凄腕の魔法使いなのだろうが、俺でもわからん……貪欲の大穴に研究室を構えた賢者か何かか?しかしそれにしては年齢が」
太陽っぽい光源はこの前付けた。最初はダンジョンメニュー内の【尽きない灯り】というオブジェクトを活用した眠らない都市スタイルだったのだが勇者から常に外が眩しい。昼夜の感覚がわからないと不評だったので、今は居住区を壁で囲んで、【疑似太陽】というオブジェクトを設置し仮初の昼夜を再現している。なんと疑似太陽、別にそんなに熱くもないし直視しても目を焼けるわけでもない。たぶん日光の成分とほとんど同じなので健康に悪影響はそこまでない。普通のダンジョンでは昼夜の感覚を狂わせるだけの、言ってしまえば尽きない灯りの高級版だ。設備やモンスターに比べれば1つでいいしメンテナンスもほとんど不要。魔力で言うと5000くらいだった気がする。一般盗賊を1人殺せば1個設置できる驚きの安さ、入手するなら今!
ちなみに居住区全体を壁で囲った方が高くついた。東京ドームってお金かかってそうだね。
街を少しだけ歩いて椅子と机くらい設置している場所……水道局でいいか。そこまで向かうことにした。歩いている途中建築様式が違いすぎることに驚いた若者たちが「あれはなんだ」だの「この建物は何に使うのか」だのをルーカスさんに聞いて困らせていたが彼の方も圧倒されていた。ふふふ、そうだろうそうだろう。
「とりあえずここが家……うん。家ということに今した場所。まぁまぁ座って」
「……失礼する。……ふぅ」
「なんだこれ。やわらけぇぞ」
「女の胸みてぇだ」
ロビーの接客用としていたソファとローテーブルに早速出番があったことに感動しつつ着席を促す。
人の家のソファを女性の胸に例えるな。彼らの精一杯の柔らかさの表現がそれだったのだろうけどもっと、なんかあるだろう。君らの代表者は呆れた顔をしているぞ。
「それで、招いて貰って感謝するが村の危機でな……なるべく早く村に戻りたい。もしかしたら生き残りがいるかもしれん」
「村はもう盗賊が火を放って全燃。盗賊は全滅させたけどざっと見た感じ生き残りはいないんじゃないかな?」
「そんな……」
「あとなんか崩落した」
「なんか崩落!?」
こっそり崩落を伝えれば流されるかと思ったけどそんなことはなかった。
ちなみに僕が村の跡地を崩落させたのは盗賊が村人を全滅させたタイミングでだからセーフ。そもそもそんなにいなかったみたいだけどね。盗賊の目的は略奪がメインで、殺しが目的ではなかったみたいだし。もしかしたらほとぼりが冷めたら出てくるかもしれない。なお村跡地。
「というわけで君らが帰るところはなくなったわけだけど、どうする感じ?」
「あ、ああ。その言葉を信じるなら親戚縁者を頼って近くの村に移り住むか領主様の住まう都、カルナックで仕事を探すかだが……厳しいだろうな」
「なんでさルーカスさん。都行けば仕事はあるべ」
「母ちゃんの兄ちゃんは近くの村で畑耕してるらしいぞ」
「こんな辺境にそんな余裕あると思うか?カルナックへ行けば人手が足りないというのはあり得る。が、だからと言ってよそ者に家と仕事道具を与える余裕があるかは微妙なところだ。分の悪い賭けになるな」
貪欲の大穴近くだからか瘴気の影響で作物も育ちづらいらしいし、そもそも村自体そんなにない。他国に行くにはちょっと遠いし関所もある。カルナックなる名前の街に行っても仕事があるかわからないと。いいね!
「ここで本題なんだけど、君たち村人にはここに住んで貰いたくてね」
「ここ、というと……この通ってきた街か?どこなのかはよくわからないがここの住民や領主様は……」
「今のところ住民はいない……ああ、いや2人かな。領主様は今のところ僕だけど、その2人の内どっちかにしてもらいたいなぁとも思ってる」
交渉事の質問にあやふやな回答をしてしまった。人間の街なので外見は整えるから内側は人間に勝手に回してもらいたい。僕がやりたいのは都市開発シミュレーションであって外交官やネゴシエーションではない、と言ってもたぶんわからないしなぁ。ロイヤルなお方にそこら辺はお任せしたいのだが……まだ未定。彼女何考えてるかわからないからちょっと怖いし。勇者の方がわかりやすいので恐怖感薄れてきたくらいだ。
「住民がいない?それじゃあ飯とか、服とか、鍛冶とか」
「そこら辺も色々やってもらいたいけど当面は不安だよね。まぁ支援するよ。そうだね、お茶でも如何かな」
かっこよく指パッチンをしてからメニューを操作してテーブル上に人数分のコーヒーとクッキーを用意する。【コーヒーセット】消費魔力たったの15!少なすぎる……神様は食料生成の数字決め直した方がいいと思うの。
いややっぱりやめてほしい。僕が無双できない。え?次回の世界会議で検討するって?そんなぁ。
村人3人は突如現れた器に動揺している様子だった。
「これは一体……」
「こっちのがコーヒー。苦い茶。こっちの方がクッキー。甘いお菓子」
そういって毒見ではないが自分の分を食べる。うん。砂糖入れよ。苦いわ。急いでメニューから砂糖を生成する。小さい陶器の壺と匙、そして壺いっぱいの砂糖が生成された。お値段なんと200魔力……神様もう調整した?ちょっと多くない?砂糖1gで1魔力かよ。
「これは砂糖。苦かったら入れてね」
「砂糖……貴族は茶などに入れると聞くが……」
「あんま!なんだこれ、ベリクスよりずっと甘ぇぞ!」
「このクッキーっちゅう奴もすげぇぞ!甘ぇしうめぇ!」
砂糖単品で舐めた若者とクッキーを貪る若者。うんうん、元気でいいね。ルーカスさんもその喜びように釣られたのかクッキーを食べて目を見開いた後、コーヒーを1口飲み静かに目を閉じた。
「こんなうまい物は初めて……いや、2回目かな。ちょうど最近食べたことがあるよ。これを出せる君は一体……」
おっと、早速フィードスライムの事に思考を巡らせるとは彼も中々頭が良い。本当に辺境の村人か?僕の中のイメージはこの若者2人なんだけどな。
「ふふふ、さてね……」
とりあえずここは含みを持たせておくことにした。別に僕がこのダンジョンにいる魔物からこれらを得ているということにしたっていいし、魔法で生み出してるとか、なんだって理由付けできるからね。そう思っていたら入口の扉が勢いよく開かれた。道場破りか!?と思い振り返ると勇者がいた。なんだ勇者か。
「おい魔王、帰ってきてたのなら言え。姫様に挨拶していけ」
「「「魔王!?」」」
「あ、勇者様。ばらさないでよせっかく交渉中だったのに」
「「「勇者様!?」」」
あ、村人たちの許容値が限界を迎えた。さてどうしよう。




