14話
どうしてこうなってしまったんだろうか。俺たちだって元は王都で、そこそこ名の知れた冒険者だった。ただあそこは貴族による特権階級と差別意識が激しい場所だ。普通にやっていても報酬の半分は国に持っていかれるようなギルドに嫌気がさして、気づけば似たような境遇で集まっていたやつらと盗みを始めていた。
最初こそ調子は良かったがちょろっとお貴族様の懐で悪さすれば騎士団がやってきた。それから逃げて金か飯がなくなればまた襲っての繰り返しだ。とはいえ冒険者をやってた頃よりも金に余裕はある。気に入った女だって力で奪えるし、飯だって、盗賊とわかっていても売るような奴らがいっぱいいる国だ。そこまで苦労はしなかった。そんなことをしていたら一端の勢力になるくらいの人数になったし、盗賊だってわかっていても傭兵として雇われるようになった。扱いは騎士団以下だが、敵に回すより囲っていた方が安心だったのだろう。
「お頭、ちょいと気になる情報が」
ただ貴族の雇われになったことで襲える地域が限られてきた。戦争なんて言うのはいつでもあるわけではないので傭兵稼業も今は休業中。そしてその期間は盗賊に戻るがその間にお貴族様とその派閥のところを襲えばせっかくの旨い汁が啜れなくなる。流れの盗賊になった時さてどこを拠点にしようかという矢先に斥候役のラッカから何やら提案があった。
「なんでもハーゲン子爵領、それも貪欲の大穴近くにある村が最近景気いいみたいでさぁ」
「そりゃここから近ぇが……なんもねぇだろ。穴だぞ穴」
貪欲の大穴は貪欲と名のついているが別に穴に何か貯め込んでいる場所ではなく、欲深い物が捨てられる場所、もしくは何もないのに欲深い物が深くまで潜り帰ってこられなくなるという天然の罠みたいな地形だ。周辺の土地も水が不足して地面も枯れ果てているような。開拓地と言えば聞こえはいいが言ってしまえば流刑地のような場所だ。目立つものなど一切ない。
「そうですが、噂がどっちでも村ですから最悪そこを頂けばいいんじゃねぇかと。大穴付近の村なんて誰も気にしないと思いやして」
「まぁ確かに傭兵としてやっていくにしても拠点はいるか……よし、ラッカ。採用だ」
雨風しのげる洞穴や簡易の布で作った拠点を広げて移動しながら生活していたが、ここらで腰を落ち着かせるのも悪くはねぇ、なんてったって貴族様の雇われの身だからな。
そうしてやってきたこの村、辺境の村だけあって大したもんはなさそうだが、確かに村人の肌艶は悪くねぇ。飯を食ってる証拠だ。ラッカはラッキーでしたねなんて言っていたが本当にその通りだ。最近の俺たちはついている。
「抵抗する奴はさっさと殺せ!どうせ生かしておいても売れやしねぇ!後で家畜の餌にでも混ぜて好きにやりな!」
そう言いながら村を襲う。辺境の村に住む村人程度では場慣れした俺たちの相手にもならねぇ。魔法も碌に使わないやつらを切り刻み、焼き払った。逃げる先でもあるのか。それとも用意されているのかは知らねぇが半分以上が一目散に逃げだしたようだった。うちの雇い主と関係ない騎士団が差し向けられたら面倒だ。団員の一部をその場に残して残りを殺しに、女子供を奪いに行った。女は慰め物に、子供は売り飛ばせば金になる。資産を持ち出して逃げたやつもいるだろうからそれも奪う。村ってのは1個襲うだけで纏まった金になるのだ。
それがどうして、どうしてこうなったんだ!
「お頭!投石です!」
聞こえてきたを頼りに無我夢中で飛んでくる物を打ち落とす。勢いの乗った石は手に鈍い衝撃を伝えてくる。
「ギャァ!」 「ドルゴがやられた!」「下がれ下がれ!」「後ろから毒矢!?くそが!」
偶然大きな投石が頭部に直撃したのであろうドルゴが嫌な音を立てながら地面に倒れ伏した。それを見て一目散に逃げようとした奴が全身を焼かれ、焼けている仲間を踏み越えて逃げ出そうとした奴が目の前から消えた。おそらく穴の下に落ちたのであろう。穴の先がどれほどの深さになっているか覗き込む余裕なんてない。
「くそが!貪欲の大穴になんでこんな罠が!」
一部は魔力の伴う罠だ。魔法もろくに使えない村人の物ではないだろう。魔法とはある程度の訓練がいる、この辺境の村にそんな知識あるやつがいるとは思えない。そもそもいるのであればここまで逃げる必要はないのだ。
「お頭……提案が」
「どうしたラッカ。お前のせいとまでは言わないが責任の取り方があるみてぇだな」
「ひっ、ひひっ。あっしは魔法のかかった靴を履いてやして、1人くらいなら抱えてちょっと浮いて歩けるんでさ」
「なるほど、落とし穴も罠も踏まないようにしていったん下がるか。やるじゃねぇか」
怯えから出た小さな悲鳴隠すように笑いに変えたラッカの案は、ひとまず全員を置いて自分たちだけは去ろうという物だ。確かにこのままでは全滅の恐れがある。入口でこれなのだ、攻撃の仕組みはよくわからないがこれから先に進めばもっと苛烈な攻撃を加えられる可能性がある。それなら村に残している奴らを手元に戻して、大穴の外から村人をぶっ殺してやった方がましだ。
ああそうだ。もう金や女子供なんて関係ない。奴らの仕業か知らないが散々コケにしてくれた村のゴミどもは全員同じ……それ以上の苦痛を味わわせてやる。
「お頭!ラッカ!どこへ行くんで!」
俺たちが逃げようとしてるのを察しただろう他の団員が咎めるように、すがるように声をかけてきた。めんどくせぇ奴らだ。お前らはここでゴミどもが出てこないように時間を稼ぐのが仕事だよ。
「村に残してきたやつらを集める!すぐに助けるから待ってろ!ちょろちょろ動き回る方が罠踏むぞ!」
そう思わせないように声をかける。生き残ってたら戦列に加えてやるが……まぁ無理だろうな。罠を全て飛び越え、何とか入り口まで戻る。そのまま近くに止めてあった馬を走らせ、村まで戻る。ここからそう遠くない。今に見てろと息を荒くしながら村まで戻った。
「おい、なんだよ、これ……」
そこに村はなかった。道を間違えたはずはねぇ。時折俺たちと村人たちの通った跡を戻りながらまっすぐ帰ってきたはずだ。間違いなくそこは元々村があった場所のはずだ。それなのに目の前に広がるのは、大穴。ちらりと見えた穴の底ではあいつらが放ったのだろう炎が村を焼いている。いや、村だった物と崩落した地面。仲間に村人、全てが混じりあい、全てが焼けている。これは大穴なんかじゃない。そんなぐちゃぐちゃになった1つを飲み込んで咀嚼している化け物のでかい口だ。
理解の及ばない恐怖に足が竦む。なんだこれは。なんなんだよこれは!
「うーん、地上部分にいる生き残りのパターンは想定してなかったな。やっぱり軍師キャラは難しいや」
不意にこの場に似つかわしくない、気の抜けた子供のような声が響いた。思わず振り返ると、声の主どころか、背後にいたはずのラッカの姿もない。視線を前に戻すとほとんど同時に、俺の足元が比喩じゃなく崩れ落ちる。炎に照らされ踊る影が実態を得たかのように俺に纏わりつく。息を吸っただけで全身を襲う虚脱感。違う、こいつは、カオス……
「俺は、ついてるんだ。こんなところで、こんなところで」
その言葉を発する途中、俺の全身を闇が飲み込んだ。
◇◆◇
「おー、結構な魔力が入った。やっぱり盗賊殺しておいてよかったね」
「そうですね。鍛えてる方が魔力は多めに保有していますし、結構な規模の盗賊団だったのでウハウハですよウハウハ」
さすがに50年間で入ってきた不労所得に比べれば少ないが、それでも20万ほどの魔力は入ってきた。そりゃみんなダンジョンに人を招いて殺すよ。圧倒的に魔力入ってくるもん。リードがこいつ何ちまちま稼いでんだみたいな顔してたけどそれも納得だ。
さて、次の仕事だ。これから村人たちの保護と面談……どうしようかな、初対面の人と話すの苦手なんだよね。勇者も変な態度取っちゃったし、姫様も途中で興味なくなっちゃったし。
「リード、村人との交渉は……」
「さすがにやらないですよ?」
我が家の頭脳担当もこれには反対。そりゃそうだ。そうじゃなくてもリードには働いて貰ったので今回は僕が行かなきゃならない。はぁ、気が重いなぁ。
盗賊団たちを処分していた全罠の稼働を停止。回収して使用してない通路へ転送する。破棄することもできるがいつか使うかもしれないから取っておこう。うん。まだ使えるし。メニュー内では損傷度とか数値で表示されるが実際の汚れ具合を見たかったので直接現地へ行き確認することにした。数字はよくわからなねぇぜ。村人たちは盗賊団の増援が来ないか見張っていたようでこちらを岩の隙間や障害物の奥から見守っていた。それがなかったら罠の影響がそちらまで行っていたかもしれないので助かる。あ、もう村人がこっち出てきた。何話そう。
「あー、えーっと。あー……貴様らの代表者を出してもらおうか」
ごめんなさい、コミュ障なんです。助けてリード。




