11話
皿と食器が触れ合うカチャカチャという音だけが静かな空間に響いている。もちろん音を鳴らしているのは僕だけで、姫様はもう、それはそれは優雅に無音で食事をなさっている。
「居住区できたんだけどなんか希望とかある?風呂トイレ別3LDK駅近とか」
「えーっと、少々お待ち下さい……はい。理解しました。勇者様と二人で暮らせるだけの広さがあれば十分ですわ」
そうは言っても生粋の王族らしいからな。食事はできるけどそれ以外全部手伝ってもらう文化圏……いやそこら辺もまだ想像でしかないのか。認識をすり合わせるとしよう。
「そういえば。ここら辺の土地は王国とやらの貴族?領主?が治めてらっしゃるであってるのかな」
「そうですね。セリウス・ハーゲン子爵が治めてますよ。と言ってもここは辺境かつ緩衝地。貴族なので裕福、というわけにはいかないようですが」
言外に何を企んでいるのかと視線で問いかけられているが、特に企んでいる物もないのでもそもそとハンバーグを口に運ぶ。いやー、好きな味を好きなだけ楽しめるなんてダンジョンマスター最高だな。まぁ無い腹を探られても困るし話題を変えるか。
「ちなみに勇者は食べないの?」
「気楽にしてほしいと言っているのですが私たちと同卓するのは気が引けるみたいで……」
「……私は後でいい」
そんなことを言いながら硬い床に座り込んでいる。座椅子でも出してあげようかな。まぁこのベッドと玉座しかないコア部屋なる場所の出番もあまりなくなるだろうからそこまで整備しないでいいか。いずれここも僕の部屋として盛大にブラッシュアップしたいところである。
そうして話題が尽きたので貴族だけではなくこの世界の常識、周辺国の情勢などを一国の姫であるだけあって詳しい姫様にインタビューしつつ食事を終えた。よく考えたら食事中のおしゃべりもマナー違反だったかな。
「ごちそうさまでした。っと。で、居住区をとりあえずお披露目しようか」
「はい。しかし居住区というと……下ですか?」
うむ。この中央にそびえ立つ塔のような、カオススライムが崩さないでいてくれただけの柱を降りた先にある初めてダンジョンとして作った第一層。通称居住区である。正直町を整備するゲーム感覚でできるので少々調子乗って無駄に建物や公園などを増やしてしまったが、まぁ住みやすい空間にできたのではないだろうか。
「……マスター、どうやって姫様たちを降ろすんですか」
「そりゃメニューで……って、そうか。跳べないんだった」
ダンジョンマスターはダンジョンメニューによりダンジョン内の至る所へワープすることができる。何らかのゲーム的調整があり飛ぶまでに10秒程度動かないでいる時間は必要だが、上でも下でも勢力範囲とされている場所なら一瞬である。ついでに言うとリードはチュートリアル妖精という種族のためこのダンジョンメニューを弄れる本、ダンジョンブックと呼ぼうか。これの中に入れるので僕と一緒にワープしていた。
「じゃあ勇者が抱えて飛び降り……」
飛び……まで発音した時点で勇者の眼光が『お前姫様に無茶言ったら殺すぞ』モードに入ったのを察せられる光を放ったのでビビッてやめた。しょうがない。ここはコストもかかるけど交通インフラも多少は整えるか。この段階はまだ先だと思っていたのに。
「マスター、動く階段。エスカレーターのような物が一瞬現れましたがまさかコアルームにそんな物繋がないですよね」
規模を確認するため一度エスカレーターの最小範囲を出現させてみたところでリードの眼光が『お前ダンジョンマスターなんだぞ』モードに入ったので設置を止め魔力に戻した。便利だと思ったんだけどな。高層ビルとかの超上空エスカレーターって感じで面白いし。
「じゃあわかった。とりあえずコア部屋とは関係ない場所にエレベーター作ろう。これでいい?」
リードの顔が及第点と言っているのでエレベーターを繋ぐことにした。まぁこれからも下へダンジョンを伸ばそうと思っていたのでちょうどよかった。人間を誘致ならいずれにしてもエレベーターはあった方がいい……ってことにしておかないと悲しい気持ちになっちゃうので。
◇◆◇
「これはまた……空間転移か」
「君らがダンジョン内どこへでも空間転移できなかったからエレベーター作ったんだけどね」
「耳がぼーっとしますわね」
メニュー内には移動用空間転移陣なる物もあったけどエレベーターと比べてコストが100倍くらい違うんだもん。そんなの作るコストうちにはありません!上下水道整備しちゃったから。
とはいえ一本の箱を作ってその中を物体が通るということのテストができたのは大きい。エレベーターというのは名ばかりのなんか魔力で上下に動くマシーンではあるがこれができたということは縦横どこへ向かうにせよ移動という観点ではダンジョン内なら自動化できるということだ。
「それで……ここはどこの……」
「王国や帝国とは様式がだいぶ違いますわね。噂で聞く魔族の国とやらでしょうか」
「幾つか国深くまで攻め込みましたがこのような建築様式ではありませんでした。あの巨大な塔は……物見櫓か」
それは1つだけ建てて絶対に必要ないことを気づいてしまったビルです。勇者が魔王を打倒してるのはわかるけどさらっと国深くまで攻め込んだ話をしないで欲しい。怖いので。とりあえず3LDKなどと言っていたがお姫様だしなぁ、ということで一件大きめの家を用意しておいた。ここでどのように暮らすかは知らないが、一応不便がないように軽く解説だけしておく。
「慣れない家だと思うけど別に壊しちゃってもいいから適当に使って」
家自体をダンジョン内の施設という扱いにしている、つまるところリードの言うダンジョン化してあるので大抵の破壊は勝手に直るのだ。まぁ魔力を使うがこの家は別に特別高い物を使ってないので問題ない。断熱用の素材使った壁とかフローリングはちょっと高いけど。一番重要そうな洗面、及びお風呂の案内をする。
「この出っ張りを押すと水が出ます。こっちを押せば温かいのも出ます。」
「何故だ」
そういう仕組みなので……としか……。仕組みを解説するとボタンを押したら圧を感知したポンプスライム君ががんばって水を送り込んでくれるというだけなのだが。正直解説するところはもうほとんどない。机や椅子、ソファなどは置いてあるが電化製品などは当然置いていないし、現状保存する物もないであろうことから収納スペースはあっても収納家具は置いてない。
「止めるときはもう一度押せば止まります。ここは風呂。同じ仕組みで水とお湯出るから身体洗う時にでも使って。とりあえず今のところこれ以外なんも用意してないけど、不便だなと思ったところを教えてもらうためのテストケースとさせていただきます。ご飯は……まぁお腹空いたらこのボタン押して、というか緊急の用事は全部これ押して」
「わかりましたわ」
ご飯時は考えてなかったので新たにリビングに当たる位置の壁にボタンを追加設置しておいた。これは本来ダンジョンの罠であるアラートで、押すとこの罠と連動している部屋に通知が行くシステムなのだ。距離を問わないしコストも安い。インターホンみたいで便利。最高だ。
「マスターは既存の物を便利に扱うのが上手いですね」
「僕からしたらこれ以外の使い道が思いつかないくらいにはインターホンなんだよな」
いずれはインターホンとして各家の玄関にも設置しよう。
「……今更だけど姫様と勇者のフルネームって何?姫様はくりすてぃあ様?だっけ」
「はい。クリスティア・アウレリオン・エリュセールと申しますわ。……勇者様~?」
「……アレクスト・ヴァルケインだ」
姫様に促されてしぶしぶ名乗る勇者。いやかっこいい名前だ。そして相手が名乗ったのだから名乗るよねみたいな雰囲気が出ているけど僕まだ名前ないんだよね。何か気まずい空気を残してその場は後にした。




