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天邪鬼なダンジョンマスター ~うちって人類に貢献してるらしい~  作者: NotWay


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10話


 居住区に必要な物はなんだろうか。まぁ最低限のラインとしては地上と同じような環境を再現すればとりあえずは問題ないだろう。つまり自然、土、太陽、空気である。この辺土と自然は簡単だ。土は石やら鉱石に比べれば生み出す際のコストが低いのである。とはいえ居住区と呼ぶくらいなのだし道はコンクリートくらい敷きたい……うーん。

 でも別に地下で何かする必要はないんだから居住区はベッドタウン……寝るだけの場所としてもいいのかな?それなら土でも問題はないし、土台だけ固めてその上に建物をダンジョンの機能で建てればいいか。……いや、地上の事は把握できていないしそれを決めつけるのも早計か?別にダンジョンメニューからする建設ならサクッとできるわけだし今のところは空地を多めに用意しておいて最低限の施設を配備して地上の事も把握しておかないと。


 と言った具合に構想だけ広げて居住区を横に広げまくってしまった。ただ現代日本生まれとして街1つと言われると途方もない広さにしてしまいそうなところを、現状中世の村1つか2つ……人口規模で言うと数百人が住める程度の広さにしたのは褒めてほしい。それでも地下をぶち抜いた分すごい広さになったけど。

 

「ダンジョン内にいる魔物はほとんど友好的じゃない……というか普通に野生って感じ」

「何を期待しているのかわかりませんが魔物なんて基本そうですよ。スライムだってダンジョン産だから指示に従ってるんです」


 副穴の整備兼パイプの移動テストでカオススライムが魔物の元に殺到する。軍力9万は伊達じゃないのか、それともこの辺に住む魔物があまり強くないのかは定かでないけれど基本なすすべもなくうちのスライムたちの餌である。大した損害はないだろうが念のため確認しながら地上付近をうろつかせている通常スライムからの情報も、リアルタイムで更新されていくダンジョンメニュー内のマップを見て把握する。

 

「マスター何個目がついてるんですか」


 僕自身視線があっちにこっちにと忙しいのだが軽くこなしているように見えるのか。リードは少し呆れた様子で、ただ大幅に感心した様子でこちらを見ている。まぁダンジョンメニュー内の、それもデータ周りの操作性が優れているからだと僕は思うけれど。


「おっと、これは……第一村人発見かな?」


 魔物がいる地点にカオススライムを向かわせていると如何にも有り合わせの防具と武器ですと紹介している装備を持った人間3人組が、ダンジョン内にいる魔物を処理していた。彼らは一様にボロボロで栄養状態もあまりよさそうではない。これは勇者が言っていた冒険者……なのだろうか。にしてはだいぶ弱そうだけれど。今もイノシシのような魔物相手に何とかしようと頑張っている。カオススライム君ならこの程度ワンパンなのに。

 

「人間ですか!やってしまいましょう!」


 いつも通り過激な発言をする妖精さんは放っておいて、辛くも勝利した村人たちにスライムを差し向ける。と言ってもカオススライムではない。これぞ餌用スライム……倒した場合100%おにぎりをドロップする。ご飯を落とすのとここには食料がありますよと人類への餌アピールするだけの雑魚スライム。命名フィードスライムだ。なおメニュー内ではただのスライムである。


 メニュー越しでは音声は拾えないためわからないが、人数分のフィードスライムたちは無事にさっくりと倒された様だ。よかった。フィードスライムごときも倒せないようでは困ったけれどさすがに勝てるか。さてさて、あとはこれがどのような働きをするか待つだけだな。

 

 あ、おにぎりで思い出した。姫様たちにご飯出さなきゃ。食糧の自給自足ができるまでは僕が全部ご飯出さなきゃなのもつらいな。


 

◇◆◇


 辺境。忘れられた境界。王国やそれらと国境を隣接する国との緩衝地帯とされているこの貪欲の大穴近辺を指す通称である。そんな場所ではあるが王国の支配地であり、開拓が可能な場所であるが故に瘴気の影響がギリギリ届かない、ほとんど不毛の地に生活する村人たちもいる。彼らの祖先がこの場所へ如何なる理由を持ってして辿り着いたかはわからないが、領主からもほとんど見放されたこの場所は明日を生きるもぎりぎりであり、畑に植わる作物は根を張るので精一杯と言わんばかりに背が低く、貧相である。


 そんな場所でも村人たちは生きる術を持っていた。少ない作物を家畜に回し、野の恵みと合わせて何とか今日を生きのびる。しかしながら今年はそうならなかった。ただでさえ雨の降らないこの地域で、焼くような日差しが続き作物は十分に育たなかったのである。また、彼らを追い込むようにして忘れ去られた辺境の地のはずの村、そんな村の領主は税の取り立てだけは忘れずに迫るのである。


「仕方ない、魔物を捕って生きよう」

 

 そういったのは村にいる数少ない領主と、まだ年若く、体力のある若者たちだった。彼らは村が飢饉に陥ると、村のためにその身を危険に晒しながらも獣を捕りに向かった。今までも幾度かこの辺境の地は試練を与えてきたが、こうして勇敢なる者たちにより乗り越えてきた。村に住まう者たちも彼らの無事を願い、神に祈りながらも必死に仕事をした。


 


穴猪(あないのしし)だ!正面立つな!」


 狩人の掛け声と共に猪型の魔物を取り囲むように動く。穴猪は3mを超える巨体であり、その巨体を支える全身は筋肉の塊でもある。いくら革や鉄で急所を守っているとはいえその巨体でぶつかられるだけで人間など吹き飛んでしまうほどの力があった。だがそれだけにこの魔物を捕獲することができれば村人全員で食すことができる。その思いから村人たちは必死に巨体を槍で突き刺した。幾度かの攻防の末、勢いの乗った突進に掠ってしまった若者がいたがその隙に狩人が懐へ潜り込み心臓を貫き、もう一人が動きを止めた穴猪の脳天へすかさず槍を突き刺した。

 

「何とか倒せたな」「これでみんな食えんべ」「だな」


 無事に穴猪を討伐できた村人たちは笑顔でその巨体を何とか持ち上げ、村から運んできた手押し車に載せる。そうしてさて帰ろうかと歩を進めた時に、前方から粘性のある物がぼとりと落ちる音がした。その音を聞いたのは狩人だけであったが、顔を真っ青にした彼の様子を見てただ事ではないと感じた若者たちが息を潜める中、狩人はゆっくりと音の正体を確認した。


「……ただのスライムだ」


 安堵のため息を吐く。村でも稀にただのスライムは見るが、この生き物は弱く、核となる場所を槍で貫けば簡単に処理できる。

 彼らが警戒したのは瘴気を垂れ流す化け物、カオススライムであった。この貪欲の大穴と呼ばれる場所は彼らが想像できないほど奥深くまで続いており、深く潜れば潜るほど瘴気が濃くなる。この大穴を荒らすと奥底からカオススライムが溢れかえり、周辺を飲み込んでしまうと村では信じられていたからである。故に彼らが浅層とはいえ魔物を狩るのも深い覚悟がいることなのだ。


 「驚かせやがって。この」


 そういって若者が動きの鈍いスライムたちを槍で一突きするとドロドロとその形を保てなくなり、最後には土へ吸収されるように消え去ってしまう。ここまではいつも通りのスライムと同じ生体であるが、このスライムは違った。そのあとには透明な、かといって崩れない地下水に包まれた黒い塊のような物を生み出していったのである。


「なんだぁ、これ」


 若さゆえか物怖じしない様子でそれを拾い上げた若者。それは握りつぶそうと思えば潰せるほどには柔らかく、かといって今まで触ったことのないような材質であった。


「爺様なら知ってるんじゃねぇか?とりあえず帰るべ」

「ああ。血の匂いに釣られた獣が来る前に帰ろう」


 人数分落ちていたそれを穴猪と共に手押し車へ載せて、村まで運んで行く。幸いにもこの後に魔物やスライムなどが現れることもなく、彼らは村へ土産を持って凱旋することができた。村人たちは彼らが獲物と共に帰ってきたのを見ると笑顔で駆け寄り、口々に褒めたたえ、肩や背を叩き労った。若者たちもそう褒められれば悪い気分にはならない。笑顔で鼻の下を擦り、これくらい大したことねぇと大口をたたいた。


 その夜、解体された穴猪を食した彼らは村で一番長生きであり、それ故に一番物知りである年取った農夫、役職などはないが呼称するなら長老とでも呼ぶべき人に道中拾った不思議な物、そしてそれを落としたスライムの話をした。


「んなわけで、爺様ならなんだかわかるかこれ」

「ふむ、儂も初めて見るな」


 そう言って渡されたそれを持ち上げたり回したりしながらまじまじと見つめるが、今まで生きてきた中で商人が持ち込む物でも、騎士が持っていた物でも見たことがない物体であった。いくらか弄っているとそれが何層かの構造になっていることが分かった長老は、ボロくはあるがよく磨かれたナイフで半分に切り裂いた。すると黒い紙のような物の中からは白い粒、そしてそれに包まれたピンク色の肉が出てきた。


「初めて見る穀物。それにこれは……魚の身か?」

「へぇ、これが魚。初めて見たな」


 彼がはるか昔に見た魚の身はもっと薄茶色をしており、このようにピンク色の物ではなかった。となるとこれは生なのだろうか。その場合は食べられた物でないが、鼻を近づければ腐敗臭はせず、先ほど食事を終えたばかりなのに食欲をそそるような匂いさえする。


「食料のようだな……儂が毒見をするか」

「爺様が!?体力ある俺らが食った方がいいんじゃねぇか?」

「何、儂が倒れたらそれだけ食い扶持も減るからな」


 冗談めかして言った彼を止める間もなく、中の魚の身らしきものをほじくって食べると、彼は驚愕に目を見開き残っているそれを見つめた。


「どうした爺様、やっぱだめか」

「美味い……」

「はぁ?」

 

 それが美味な物であると理解した村長は穀物ごとかぶりついた。周囲の透明な水、膜のような物は保存するための容器だとわかるとこれを剥ぎ取り、黒い紙は食べられる物であると理解しそれもまた喰らった。小さなおにぎり1つを喰らうのに大した時間はかからず、全てを胃に流し込んだ後満足そうに一息ついた。


「これをスライムが?」

「ああ。大穴の浅いところに出てきた奴を突っついたら落とした。まだ2つあるぞ」

「それが本当だとすると……神の恵みかもしれんな」

 

 そこまで言われると食してみたくなるのが人の性か。狩人は遠慮して食べなかったが、若者たちはそれを長老と同じように半分に切り、膜を外し、齧り付く。そしてその味が誇張表現ではないとわかればさらに喜び食を勧めた。

 これだけ美味な物がスライムを倒しただけで得られるというのならば、飢饉に苦しむ村を救うことも、またこれを元手に商人へと取引をすることもできるのではないだろうか。そこまではまだ想像でしかないが、少なくとも危険な魔物と戦うよりは安全に食料を得られるかもしれない。彼らは深く神に感謝を述べるとともに、後日規模を増やして村の者を送り込むことに決めたのであった。

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