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8.潜入(2)

リイナとカイルが馬車に乗り込んですぐ、イーライとフィオラが馬車に乗り込んできた。

リイナは、手がまだカイルと繋がれていたことに気づくとすぐに手を振りほどいた。今回はカイルもあっさりと手を離す。イーライとフィオラには気づかれなかったようで内心ほっとする。

馭者にイーライが合図を送ると馬車はすぐ走り出す。ちなみにこの馭者は騎士団も団員が変装しているとのことだ。


「上手くいきました?」


イーライがカイルに問いかける。


「もちろん」


当然だというような顔で頷くと、カイルがポケットからパーティの招待状を取り出す。


「さすがカイルさんですね」


「そっちは?」


カイルがイーライに聞く。


「店の前で待機中に、この建物周辺を探索したのですが、地下に大きな空間があるようです。石板も未登録の魔力を検知しました」


イーライがそういうとフィオラが持っている石板を指し示した。石板に赤い光がいくつか点滅している。


「フィオラさんの魔法が役に立ちました」


フィオラがえへん、と自慢げな顔をしている。リイナはフィオラの魔法について知らないが、調査に役に立つ魔法なのかもしれない。フィオラが自身の魔法のことを先日、「あんまり役に立たない」と言っていたが謙遜だったのだろう。また今度魔法について聞き出そうとリイナは思った。


「招待状の日付は一週間後か。仮面舞踏会とか書いてあるぞ」


「最近流行っているようですよ。お金持ちの方々の趣向は、あまり理解できませんねえ。」


仮面舞踏会とは、その名の通り、仮面を被り素性を隠して行われる舞踏会のことだが、最近の金持ちたちの中で流行っているらしい。この国では君主制は百年ほど前に廃止され、民主的な共和制度に移行していて、その流れで貴族階級も公には廃止されている。しかし、世俗的には旧貴族に財力が集中していることが多い。いわゆる上流階級の社交界も旧貴族をはじめとした富裕層達の場として依然残っている。


今回の招待状も、表向きはクレスト商会が主催する、旧貴族をはじめとした上客たちとの交流を深める場のようだ。


「リイナさん、フィオラさん、ダンスは得意ですか?」


イーライが問いかける。


「苦手です」

リイナが即答する。フィオラも首をひねっている。


「フィオラさんはともかく、こいつがダンス得意なわけないだろ。戦闘にしか興味ないゴリラなのに」


カイルが言い終わらないうちにリイナが容赦なくカイルの脛に蹴りを入れた。


「痛てえ」


イーライはカイルを無視して続けた。


「来週までにお二人にはダンスを特訓してもらいます」



***



騎士団の本部に存在する、小ホールでは、むさくるしい騎士団に似つかわしくない優雅な音楽が流れている。


リイナは曲に合わせてステップを踏む。


「リイナちゃん、その調子!!」


フィオラの声援が響いた。その声に気を取られたのか、リイナの足がたたらを踏む。


「お前、下手にも限度があるだろ!」


リイナは絶賛ダンスの練習中であった。相手はリイナが苦手としているカイルである。

カイルは一応王都騎士団の六番隊隊長で、責任ある立場と聞いていたが、

ダンスの練習に付き合うなんて案外暇人なのか、とリイナは内心思った。


「大丈夫!切り替えだよ!」


フィオラが元気な声で応援してくるが、声が無駄にデカいので気を取られる。ちなみにフィオラは、イーライとダンスを踊ったところ、意外とそこそこ踊れることがわかり、練習を免除となったのだ。


(フィオラ、ずるい・・・)


恨みがましい目でフィオラを見ていると、カイルが手を引っ張る。


「集中しろ」


一番基本と言われている三拍子のワルツに沿って踊っているのだが、足を出すタイミングがどうも合わないのだ。リイナは運動は得意であるが、リズムが必要なダンスになると途端にできなくなる。リズムが取れないタイプの音痴なのであった。


「いち、に、さん・・・」


「お前、足ばっか見てないでこっちを見ろ」


集中しろという割に注文が多くてリイナはイライラした。


「集中してるんだから邪魔しないで」


最早ここ一週間で、リイナはカイルに対して敬語を使わなくなっていた。失礼な言動を多くされる上、年も一歳しか違わないので、敬う理由が思いつかないのだ。


リイナはカイルを見上げて睨みつけようとすると、リイナは足が絡まって躓きそうになった。


「わあっ」


地面にぶつかる、と思って目をつぶると、想定した衝撃が来なかった。

目の前に分厚い胸板がある。リイナはカイルに抱き留められていた。


「・・・」


つい無言になる。


きゃあ、と黄色い声があがった。フィオラだ。両手に手を顔に当てて、指の隙間からこちらを見ている。わざとらしい。


リイナは手を突っ張るとカイルから距離を取った。


「べ、別にあんたに助けてもらう必要なんてなかったから」


慌てたからか、リイナは柄にもなく、ついどもってしまい、最近世間で流行っている小説や舞台に出てくるような登場人物にありがちなベタな反応をしてしまった。余計恥ずかしくなって頬が紅潮してきたのを感じる。


「ツンデレかよ」


カイルが突っ込んだ。




***



「まあここら辺で良しとするか」


あまり上達の兆しが見られなかったリイナのダンスだが、諦められたのかカイルから合格をもらうことができた。すでに日が暮れかけている。


「あ、終わりましたか」


ちょうどいいタイミングでイーライが顔を出した。

イーライはフィオラと一回踊って問題なしと分かると、すぐ業務に戻っていった。カイルはほぼ半日ほどリイナのダンスに付き合っていたがやはり暇人なのだろう。ちなみにフィオラはただダンスを応援するだけであったがサボりではないだろうか。オーレンには言わないでおこう、とリイナは思った。


「良ければ、この後ご飯ご一緒しませんか?」


イーライがフィオラとリイナに聞いた。


「あ、すいません。すごく行きたいんですけど、予定がありまして・・・」


いつもであればイーライの誘いを断る理由はないのだが、偶々今日は予定が入っていた。先日、魔術隊の同期、レオに懇親会に誘われていたが、それが今日であった。


「お二人とも、そういえばまだ入隊されたばかりでしたもんね。懇親会楽しんでくださいね」


「あんま飲みすぎて醜態さらさないようにな」


カイルが憎まれ口を叩くがリイナはだんまりを決め込んだ。

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