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6.寮

「疲れた~~」


リイナとフィオラは寮の部屋のドアを開け、フィオラはドサッとソファに腰を下ろした。

国立魔術隊の新入隊員は、ほとんどの者が入寮する。空きがない限りは二人で一部屋を使うことになっており、リイナとフィオラは配属先が同じであるためか、同部屋だった。


「っていっても今日もほぼお散歩だったけど」


「でも歩くのって疲れるよね」


「結構いいダイエットになってる気がする!」


二の腕をぷにぷにと触りながらフィオラが言う。

フィオラは今週知り合ったばかりだが、とても明るくて分け隔てない性格のようで、リイナはすぐに打ち解けた。少し天然なのかズレているところもあるようだが。


「そういえば、フィオラってどんな魔法が使えるの?」


ここ数日フィオラとリイナは一緒に行動していたが、魔法について特に話が出なかったのでリイナはふと疑問に思い聞いてみた。


「あー、えっとねえ。私の魔法は結構地味っていうか。あんまり役に立たないんだよね~」


えへへ、と頬をかきながらフィオラが言う。

人によっては自分の魔法を人に簡単に教えたくない人もいる。例外を除いて一人一種類の魔法が使えるため、魔法の特性によっては隠しておきたいこともあるのだろう。

無理に聞き出したいわけでもないので、リイナは別の話題を探した。


「そういえば、魔法情報部第五班の人たちって、どんな人がいるんだろうね?」


「う~ん、まだ会えてないもんね。ほかの班に配属された子に聞いてみたら、班につき十人くらいはいるみたいだよ。でも私たちの班は最近できたばかりだからそれよりは少ないかも」


第五班の班員たちは現在潜入調査の任務に就いているため、リイナとフィオラはまだ班長のオーレン以外の班員に会ったことがない。


「特別?に第五班に私たちを引き抜いた、みたいなことオーレンさんが言ってたけど、どう見ても私たち潜入調査向きじゃないよね?」


フィオラがリイナを見て言う。リイナとしてはフィオラがどんな魔法を使うのか知らないので、潜入調査向きかどうか分からないのだが、確かにリイナもフィオラも慎重に事を進めるタイプではなく、バレないように身を隠すといったことは苦手そうである。


「リイナちゃんなんて、何かがあったら隠れたり逃げたりするんじゃなくて突撃しちゃいそうだし」


「人をイノシシみたいにいうな」


アハハハ、とフィオラが笑う。


「リイナちゃん、普通にしてれば、見た目は儚げでお嬢様みたいなのに~、見た目とのギャップがすごいあって面白い」


リイナはムスッとする。よく人からそのようなことを言われるので少しだけ自覚はあった。見た目は銀色の長髪で細身なのもあってか、クール、大人しい性格と思われることが多いのだが、知り合いになって少しすると中身はゴリラだのイノシシだの言われるのだ。


「まだフィオラ以外にはバレてないから、ほかの魔術隊の人達には猫を被ることにする」


「絶対無理だって~」


リイナはこのままフィオラにからかわれるのも居心地が悪いので話を逸らすことにした。


「そろそろご飯食べに行こう」



***



国立魔術隊の寮には、食堂が併設されている。寮は女子寮、男子寮に分かれているが、食堂は共通の施設となっている。普段リイナとフィオラは朝、晩は基本的に寮の食堂で食事をとることにしている。まだ給料の低い新入隊員にとって、寮の食堂は無料でご飯にありつけるため、非常にありがたい場所なのである。


「おいしいね~タダでご飯が食べられるなんてなんて幸せなんだ~」


フィオラがニコニコしながらパンをかじる。今日の献立はパンとシチューに付け合わせの野菜、デザートにプリンもついている。


リイナはご飯を食べながら周りを見渡すと、食堂は若い隊員たちでにぎわっている。新入隊員と思われる人たちがグループになって楽しそうに会話している。


「ここの席、座ってもいい?」


急に声をかけられて振り向くと、赤茶色の短髪の男が声をかけてきた。明るいトーンの声で人懐っこそうである。


「空いてます~どうぞ」


フィオラが笑顔で頷いた。


「ありがとう。君たち、新入隊員だよね?」


リイナとフィオラが頷くと、人懐っこい笑顔を向けて男が言う。


「俺も新入隊員で、レオって言うんだ。魔法警務部に配属された」


フィオラが返事をする。

この男、レオは魔法警務部に配属されたのか、と知るとリイナは少しうらやましく感じた。


「そうなんですか!私はフィオラ、こちらはリイナちゃん。私たちは魔法情報部に配属されたの」


「え?そうなの?じゃあもしかして、この前の雷の子?」


(え、雷の子って何? もしかしてこの前の事件で私が魔物と戦ったことを知られている?)

レオの言葉にリイナは少し面食らった。


「そうそう、リイナちゃんがこの前の雷で魔物をやっつけたの~」


「え~君か、カッケー。大人しそうに見えるのに、すごいんだな」


レオという男が、目をキラキラさせてリイナのことを見てくる。


「なんで知ってるんですか?」


「有名な話だよ!配属初日から大事件だったじゃないか。新入隊員の女の子が魔物をやっつけたって、すごい話題になってるんだよ。しかも魔法警務部じゃなくて魔法情報部の女の子だって話で。

女の子少ないから、魔法情報部って聞いてもしかしたらって思ったんだよ」


そうなのか。今年の新入隊員は四十八名で、内女性は十人足らずだったと記憶しているので、すぐに分かったのだろう。

しかし、リイナの知らないところで噂になっているとは。つい先ほど猫を被っていこうと決めた矢先にこのようなことになり、出鼻をくじかれた形だ。

ただ、まだ遅くはない。誤魔化しはできるだろう。


「そんな、たまたまで・・・。魔物が襲ってきたので命からがら魔法を使ったら運良く」


伏し目がちに、小さな声で言ってみる。加えて、まるで怖いことを思い出したように、少しおびえた様子で自らの腕をかき抱いてみる。我ながらなかなかの演技派ではないか。

しかしフィオラが急に吹き出しそうな顔をするのでレオにバレないように睨んでおいた。


「そうだったのか。きっと怖かったよな、大変な思いをして可哀想に。でも運も実力の内って言うしな、魔法警務部の俺たちも負けてられないぜ!」


レオがフィオラの表情に気づかず、慰めるように言うので、もしかしたら猫を被りなおすことに成功したかもしれない。


「そういえばさ、今度新入隊員で親睦を深めようとパーティを開こうと思うんだけど、参加しない?」


そのお誘いはありがたい、と二人は思った。リイナもフィオラも、まだ新入隊員の知り合いが少なく、少し心細いところがあったのだ。


「ぜひ二人で参加します!」


フィオラが元気に答えた。


「じゃ、また詳細は連絡するよ」


ご飯を食べ終わるとレオはリイナとフィオラに手を振り立ち去った。


「猫被ったリイナちゃん、おもしろすぎるよ~笑っちゃいそうになるからやめてよー」


フィオラが噴き出して言う。


「ちゃんと猫被れてたでしょ?」


「被れてたのかなあ?レオ君が騙されやすいんじゃないかなあ。でも絶対そのキャラ長続きしないよ」


「まったく失礼な。これが本来の私の姿ですぅ~」


「絶対ちがうよ」


二人はずっと笑いながら、食べ終わった後もおしゃべりが尽きなかった。





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