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5.調査

「その手早く洗わないと腐るぞ」


先ほど隊員達によってたかって握手されていたリイナの手を見てカイルが言った。


「カイルさんひどいっすよ!人を病原菌扱いして」


隊員達が抗議するが、カイルに睨まれると口をひっこめた。


「明日から仕事に復帰するんじゃなかったんですか?」


イーライがカイルに質問した。カイルは今日退院と聞いていたが、騎士団の制服を着ている。


「退院したらやることが無かったし、身体も治ったんで出てきた。」


「さすが、仕事熱心ですねえ~、無理しないでくださいよ」


イーライが感心しつつ少し心配そうなそぶりで言う。イーライの言葉に特に反応せず、カイルは急にリイナに向き直った。


「ちょうどよかった。ちょっと魔法情報部に用があるから、案内してくれないか?」


「はあ」


リイナは前回カイルをお見舞いに行ったとき、少々カイルが面倒くさそうな性格だということを察知していたので、警戒していた。


「カイルさん、ぜひ!リイナちゃん、もちろん案内するよね?」


リイナが曖昧にしていると、フィオラが代わりに返事をした。フィオラが、せっかく助けてくれた騎士様の頼みなんだから聞かなきゃ!とばかりにリイナを頷かせる。

それにしても騎士団のカイルが魔法情報部に用があるとは、先ほどイーライが言っていた調査の件だろうか。



***



「カイルさん、いらっしゃい。後ろの方は、イーライさんだね、はじめまして」


魔法情報部の建物に案内してリイナがカイルと別れようとすると、カイルが第五班の部屋に案内しろと言うので、カイル・イーライの二名を仕方なく連れてくることになった。第五班の部屋に到着すると、第五班班長のオーレンがカイルを待っていたように呼び掛けた。


「オーレンさん、知り合い?」


リイナがオーレンに質問をする。

オーレンは丸い眼鏡をかけた三十四歳の男性で、忙しいのか髪の毛がいつもボサボサだ。リイナとフィオラは入隊してわずか数日ではあるがオーレンが柔和な性格であることから、すでに打ち解けていた。


「この前カイルさんとは仕事の関係で少しご一緒させてもらってね。今回も一緒に仕事をしてもらうことになったので、君たちもお世話になるだろう」


イーライも言っていたが、騎士団と一緒に仕事とは、なんだろう。先日、リイナたちが配属された第五班は、魔法情報部の中でも特別な組織とオーレンから聞かされていたが、何か関係があるのだろうか。


「これから少し重要な話をするからね」


そういうとオーレンはドアのカギを占める。それとともに、ドアに施された魔法陣が光り、部屋に魔術が仕掛けられたことが分かった。おそらく、盗聴防止の魔法陣が動いたのだろう。


「カイルさんたちは、誘拐、人身売買をしていると疑われる組織を調査してきた。クレスト商会というと聞いたことがあるかもしれないが、どうやらそこにに関係のある場所で組織的犯罪が行われているという状況証拠がいくつか出てきているらしい。ただ、クレスト商会自体が犯罪を犯しているという決定的証拠は今だ掴めていない。」


クレスト商会というと、ここ数年で急拡大した商会で、リイナも聞いたことがあった。ブライダル関係の商売をしており、ドレスやジュエリーの販売、また結婚式といったイベントの開催、ハネムーンを初めとした旅行ツアーを取り扱っていたように記憶している。割と高級路線で、クレスト商会の取り扱うブランドは年頃の女性の憧れの対象になっている。


「リイナちゃん案外詳しいねえ」


リイナの説明を聞いてフィオラはふんふんと感心した。フィオラはそういったものに興味が薄いらしい。そういえばフィオラと街を歩いていても、興味を示すのは装飾品よりも、屋台で売られている鳥の串焼きやアイスクリームであった。花より団子なのかもしれない。

ちなみにリイナ自信がクレスト商会に特別興味があったわけではないが、この秋までヴェルデリア国立女子魔術学校という女子学校にいたため、女性の好きな物の情報は自然に耳に入ってきていたのだ。


「君、意外とそういうの詳しいんだ」


フィオラだけではなくカイルまで意外そうな目をしてリイナを見てくる。

ドレスやジュエリーに興味がなさそうに見えるのだろうか、結構失礼なことである。


「どういう意味ですか、ふだん洒落っ気がなくて悪かったですねえ」


「いや、戦いにしか興味のない戦闘狂なのかと」


こいつは人のことをそんな風に見ていたのか。

しかし思ってても普通口に出さないだろう。リイナの中でのカイルへの好感度が、初対面の時からどんどん減っているのを感じる。助けてもらった時が百とすると今はせいぜい十くらいだろうか。


「カイルさん!すいません、この人は女性への対応がなってなくて」


イーライが必死にとりなしている。


「ははは、もう仲良くなっているようで何より」


オーレンは目が腐っているのか、とリイナは思った。どこをどう見たら仲良く見えるのか分からないのだが、そうのたまった後、話を続けた。


「我々、魔法情報部が秘密裏に調べてきた、未登録の魔力だが、その魔力が検出された場所がちょうどクレスト商会の商業施設であることが分かってね。しかし、調査に使った石板は開発中の魔術具であり、これを証拠に犯罪として検挙することはできない。また検出された魔力も、誰の魔力かということまでは分からないので、不特定多数の客のものではないかと言われてしまうと反論ができない。つまりあくまで状況証拠の一つに過ぎないということだ」


要するに、騎士団で調べていた組織的犯罪と、魔法情報部で調べていた犯罪が同一の組織で行われている可能性が高く、共同調査を行っているということだろう。


「まだリイナさんとフィオラさんは会ってないが、ほかの班員もすでに何人かクレスト商会の内部に潜入して調査をしている」


確かにそうなのだ。リイナとフィオラが魔法情報部第五班に配属されてから、オーレン以外の班員に会っていない。ものすごく多忙なのかと考えていたが、潜入調査をしているのであれば会うことはできないのだろう。しかし班員の顔と名前はおろか、何人いるのかも良く分かっていない。以前オーレンに質問したところはぐらかされたが、そのスパイ的な業務の特性上明かせなかったのかもしれない。


「今潜入している班員はみな商会内部の従業員として潜入していてね。リイナさんとフィオラさんには、客として動向を調査してほしい」


というと、リイナも覆面調査員として、クレスト商会の調査を行うということか。

やっと散歩以外の本格的な任務を与えられそうでリイナは少しだけやる気がでた。しかし、リイナは密偵のように、コソコソ動き回るよりも、派手に悪者をやっつける方が向いていると思っているので、役に立てるか不安にもなる。


「あくまで、まずは客として表向きの商売を見るだけだから、あまり気負わずに。なんならショッピングするくらいの気持ちで」


そんなに気軽にできる調査なのだろうか。ここ数日のようにお散歩するだけで終わるような調査ならいいが、さすがに違うだろう。まだ何も調査員としての技術や基本的な動作を知らないため、とても不安だ。


「一応我々騎士団も、変装して警備を行うので心配しなくていいよ」


イーライが安心させるように話を引き継ぐ。しかしその後に続いた言葉でリイナは非常にテンションが下がった。


「リイナさんはカイルさんと二人一組で。フィオラさんは僕と組んで調査することになっているから」


ええ。ただでさえ好感度が下がっている、面倒くさそうな男と仕事をしないといけないと思うと、リイナは急にやる気がなくなってきた。


「何か不満があるのか?」


不満そうな顔をカイルに見られていた。


「まあまあ。リイナさんとフィオラさんには、これから調査をする上でのイロハをしっかりと教えるから。問題なければ来週、作戦を実行しよう。」


オーレンがフォローするが、リイナはまたやけくそな気持ちに戻っていった。


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