第8話:もう一人の侵入者
っげ、副会長……なんでこんなところに来ているんだ?
こいつも会長と同じで一度もここに来たことがない人間だ。
『桃香ちゃん、どうしてここに来たの?』
「んっとね~、わたしのカップル相手に会いに来たんだ~」
『ええええーーー‼ 桃香ちゃんの相手がここにいるの?』
「そうだよ~」
ぼくの心臓がドキリとした。
『許せん、そいつはどんな奴なんだ』
『桃香様とお付き合いするクズ男は焼肉の刑だ』
心臓に悪い発言がちらほらと聞こえるせいでぼくは余計に焦る。
もしかして、ぼくの正体がザーサイだってバレてる?
いやいや、カップルあみだのサイトで本名を使っていないんだからバレるはずがない。
とりあえず、教室内で刺激を与えないように空気になろう。
無心になれー、無心になれー。
『トコトコトコ』
副会長の可愛い足音は最悪の状況を想定した場所に止まった。
「こんにちは♪」
「こ、こんにちは」
ぼくはオドオドしながら目の前のピンクの髪がふわふわ揺れる女に答えた。
「初めまして、副生徒会長の桃香です♪ さとしくんだよね?」
「はい、さとしです。初めまして」
「さとしくん、じゃなかった。ザーサイくん、これから卒業までお付き合いよろしくね~」
まだ冷え込んでいる日だというのに体全体から嫌な汗が次々とでてくる。
ぼくの正体がバレてる⁉
というか、なんで名前を言い直した?
『ガチャガチャガチャ』
後ろのほうから尋常じゃない殺気を感じ、何かを組み立てる物音がしていた。
首を回して後方を見ると、男子生徒たちが大型の焼き肉用機械をすごいスピードで組み立てている。
『焼き肉、焼き肉、焼き肉』
やばいやばいやばい!
モテない男子たちが、呪文のように焼き肉って言ってるよ‼
絶対にぼくの身体で焼き肉パーティをしようとしているよ!
自分の命が危ない、そう思ったぼくは急いで前を向いた。
「副生徒会長、人違いですよ。ぼくはザーサイではありません」
すると、急に後ろから殺気がなくなり、物音がおさまった。
助かったよー、ぼくの命。
しかし、ぼくの心臓の鼓動は変わらず早いままだ。それは、まだ最悪の状況を抜け出してはいないと思っているからだ。
早くどっか行ってくれー、心臓に悪いよー。