第65話 君の本当の気持ち
さっきよりも言い易くはなった。
なったのだが……
いざ、好きな人を聞くとなると、なんだか緊張してくる。
ぼくがつゆちゃんのことを好きなのではって思われると、どうしてか足がすくむというか、なんというか……
いや、つゆちゃんのことは好きなんだよ、好きなんだけど、実際につゆちゃんに誰が好きなのかを聞いて、わたしのことを好きなんだ、この人、と思われるのはなぜか怖い。
その後の関係にひびが入るから怖いのか。
はたまた、好きだと知られたら、ぼくと話してくれないと、ぼくが勝手に思っているからなのか。
今のぼくには何を怯えているのか具体的には分からないが何かに怯えているのは確かである。
しかし、お怯えているからといって誰が好きなのかを聞かないって訳にもいかない。
わざわざここに来てくれたわけだし。
ここまでぼくのことを思って話しやすい状況を作ってくれたわけだし。
それにこのことを聞かないと、ぼくは票集めに集中ができないだろう。
だからぼくは、勇気を振り絞る。
そして、つゆちゃんの方に顔を向けて、
「つゆちゃん」
「はい」
つゆちゃんがこっちを振り向いてくれた。
その時、さらさらと横に長い黒髪がフローラルな香り一緒にぼくの鼻に入り込む。
めっちゃいい匂い! つゆちゃん、その香り100点満点です‼ あと、ついでに言っておきますけど、声の方も美声で100点満点です。
全世界の人が同じ評価を下すだろうなー……いかん、いかん、ちゃんとつゆちゃんに話をするんだ。
真剣さを取り戻すと、ぼくは言葉遣いのことなんて頭から離れてしまっていた。
「つゆちゃん、お願い事があります」
「はい」
「つゆちゃんの好きな人を教えてほしいです」
「……え⁉」
「お願いします」
あたふたと動揺するつゆちゃんに深々と真剣に頭を下げて懇願する。
「えっと……」
頭を上げて彼女に目を合わせる。
「どうしても、今後のために知りたいんです」
「そ、それは……」
なにかを覚悟をしたのか、つゆちゃんは一度、顔を横に振って、あたふたとした態度はなくなり、真剣な面持ちでこちらに向き直る。
「さとしさん、大変申し訳ありませんが私の好きな人を言うことはできません」
「そうですか……」
「申し訳ありません」
「いえいえ、謝らないでください、つゆちゃん。ただ、つゆちゃんの為になるかなって思って聞いただけですから」
「わたしの為……ですか?」
「はい」
「好きな人がいるか、いないかをさとしさんが知ると私に何かあるのでしょうか?」
「厳密に言うと、今のカップル相手に不満があるなら別れることができるって話なんですけど」
副会長が今回、カップルあみだの相手と別れるようにするため選挙をすることを知っているだろう。現に、生徒会の方でアンケートを取っているからつゆちゃんが知らないはずがない。
「そうでしたか……」
「それで今回の選挙なんだけど、実は副会長と別れたくて始めたのもあるけど、つゆちゃんのためでもあるんです」
「そうなのですか?」
「はい、つゆちゃんが会長と別れたいというのであれば、このまま賛成票を集めるため頑張ろうと思います。でも、つゆちゃんが会長のことを本当に愛しているのであれば——」
本当はつゆちゃんと誰かが付き合うのは嫌だ。
そんな姿を想像もしたくはない。
なぜか分からないが会長とつゆちゃんが付き合うのは特に嫌なんだ。
だけど、つゆちゃんが会長と付き合いたいと言うのであれば、ぼくに言うことは一つしかない。
幸せになってください。
もちろん、そんなことを言いつつも頭の中では『さっさと別れろー』、『ぼくと付き合えー』って考えるけどね。
「——ぼくはこの選挙に全力で取り組むことはしないと思います」
これは本心だ。
もちろん、この選挙の結果で副会長と別れられるというのはあるのだが、つゆちゃんが別れたいと思っているのであれば、ぼくが選挙に取り組む熱量は変わるだろう。
だって好きな人が困っているんだから。
ぼくの真剣さが伝わってなのか正直につゆちゃんは打ち明ける。
「正直に言いますと、わたしは今のカップルに不満はありません」
「そ、そうなんですね」
そうか、ぼくたちみたいに嫌々ながら付き合っているわけではないんだ。
そしたら、ぼくはつゆちゃんを応援しないといけな——
「ですが、好きな殿方は別にいます」
「え?」
急に顔色が変わり、慌てふためくつゆちゃん。
「もちろん、星川生徒会長は好きですが、尊敬をしていて好きだと言うことでして、恋愛的な好きではありません。星川生徒会長はとても素晴らしい方と思っていまして——」
「ふふ、そうなんだ。別に好きな方がいるんですね」
「は、はい……」
可愛らしく頷くつゆちゃんは顔を真っ赤にしながらも答えてくれた。
たぶん、ぼくの真剣な質問には答えようと努めてくれたのだろう。
ああ、その一生懸命な姿をずっと覚えているよ、つゆちゃん。
あの時に助けられた時と同じだ。
ぼくが迷った時、助けてくれたあの時のように。
ありがとう、つゆちゃん。
いつも真摯に答えてくれてありがとう。
心の底からそう思う。
「つゆちゃん、ぼくの質問に答えてくれてありがとう」
「さとしさんのためになったのなら嬉しい限りです」
満面な笑みで答える姿はやはり、どの世界の人よりも美しく綺麗だなって思う。
「つゆちゃん、美しいね」
「……⁉」
「あ……⁉」
なんてことを口走ってしまったんだ。
隣にいるつゆちゃんが顔を伏せて頬を赤らめているじゃないか‼
どうしよう……何か言わなければ。
「あ、あの夕日が美しいよね、つゆちゃん」
「え、あ、はい……!」
ごまかすことに成功はしたのであろうか?
こちらに顔を向いてくれない……
妙に気まずい空気になってしまった。
違う話題を……
あ、そうだ! まだ重要な話をしていない!
「そうだ、つゆちゃん。もし、つゆちゃんがよければ、ぼくたちに投票をしてくれないかな?」
「えっと……」
こっちを見てくれた。
「もちろん、つゆちゃんにはこちらに票を入れて欲しいって思っているけど好きな方に投票してね」
「はい。本当はどちらに投票しようか悩んでいるところです」
悩んでいる?
それなら第1回目のアンケートはどっちに入れたんだろう?
「つゆちゃんは1回目のアンケートでどちらに投票したか聞いてもいい?」
「私が投票したのは星川さんです」
「そ、そうなんだ……やはり、会長のことが好きで……」
「え、えっと……さっきも言った通りですが、星川さんが恋愛的に好きだから投票をしたとかではなく」
「あ、そうだったね」
なら、どうして投票をしたんだろう。
「星川さんに投票をしてほしいと頼まれたからです」
「あー、そうだったんだ」
「はい」
大収穫だ‼ とっても良い話も聞けた。
「つゆちゃん、今回話ができてよかったよ。票集め頑張るよ、ぼく」
「はい。私は、お手伝いはできませんが、さとしさんのことを応援しています。ファイトです」
ズッキューーン‼
ガッツポーズをするつゆちゃんが今すぐに悶絶したいくらいに可愛すぎる。
うわぁ~、幸せだよ~。
つゆちゃんに応援されたよ~。
めちゃくちゃ幸せだよ~。
「もう、全身全霊を込めて票集めに取り組みます‼」
敬礼ポーズをしたらクスっと笑われた。
笑うつゆちゃんも可愛い。




