第57話 楽な選挙と不穏な影
「島沖くん、今回の選挙の話だけど、わたしに票をいれてくれないかな?」
「……ぼくは賛成に票を入れることはできない」
足を一歩踏み入れる副会長は相手の裾を掴み、うるんだ瞳で一言訴える。
「わたしに票を入れてくれないの?」
か弱く守ってあげないと今にも崩れ落ちそうな声、かつ、あまーい声。赤く頬を染める男は今にも頭を縦に振りそうだ。
なぜ入れないの、と理由を聞かず、ただただ訴えるだけ……すごいな、副会長。
こんな方法で票を獲得するのか。
これは票をもらえたな。さすがは女性の中で学校一人気者。
「もしも、ぼくにキスをしてくれるんだったら命に代えてもこの票は桃香様に捧げるよ」
「う~ん、わたしたちがお付き合いできたら、そういうのしてもいいかも?」
上目遣いで問いかける副会長は、さすがは男の心をつかむ天才だと思った。これならこの男もイエスというのではないか?
しかし、ぼくの予想とは裏腹に考えもしない方向へと話が進んだのだ。
この男子生徒は何も返事をしないままずっと副会長を見続けていた。
本気の眼差しとはこういうものだろう。
「もしキスの約束できないんだったら、ぼくは桃香様に票をいれることはできない」
うそー、あの男まさかイエスと言わなかったぞ。そのまま票をいれてもいい、と言うと思った。
でも、副会長ならこの状況でも簡単に覆すことはできるだろう。
なんたって男心を余裕で掌握する副会長なんだから。
「うーん、約束できればしたいけど——」
「まったー、桃香様」
突然、横から待ったの声をかける男が現れた。
「こんな奴の票なんか集めなくていいですよ。俺が票を入れますよ」
桃香様って言っているところをみると、この男は桃香ファンのようだ。
「桃香様、もし俺とお風呂に入ってくれる約束をしてくれるんだったら票を入れますよ」
おっと、何を言っているだ、この男は?
女性に向かってそんな発言をだすとはなかなかの奴だ。
さすがは恋愛高校の男といったところか。やべぇー奴だ。
「んーっとそれはー……」
桃香の顔が一瞬引きつっていた。
さすがの桃香もキモイことを言われて焦っているようだ。
完璧美少女も顔を人前で歪めてしまうことがあるんだな。
「俺は命をかけて票を入れようとしているんだ。それを約束してくれないんだったら票を入れることはできないなー」




