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第4話:絶望からの光? カップルあみだへ

 いや、考える余地なんてないか、そんな分かりきったこと。


 ぼくだな!


 そんなのは当たり前だ。


 成功者と呼ばれる人たちが言うには、準備した者こそが成功を掴むという。


 まさに、ぼく!


 一年前からモテるために努力し、準備をし続けたんだから。


 高校一年の登校日から誰もいなくなった教室でつゆちゃんの机と床、ロッカーなどなど、たくさんのつゆちゃんの物をきれいにしたんだ。


 好きな女の子に対する気遣い、まさに紳士‼


 中学の時から好きな女の子だからな、つゆちゃんは。中学生からつゆちゃんの身の回りの物を綺麗にしなかった方がむしろ異常なのだ。


 とにかく、この「努力」と「準備」を、誰よりも積み重ねてきた、ぼくこそ、つゆちゃんからのチョコを、貰えるはずだ!


 プリントしか渡さない女どもは抜きにして……


 そんなことを考えていた。しかし、現実は違った——


 ——誰もいなくなった放課後の教室。


「どうして! どうして、誰もチョコレートをくれないんだー‼」


 ぼくは、目の前の机を、両手で思いっきり「バンッ!!」と叩きつけた。


 え? 絶対におかしいでしょ?


 なんで、ぼくがチョコレートを貰えないわけ?


 え? 女生徒のみなさん、もしてかして、今日をエイプリルフールと勘違いしていらっしゃいますか?


 今日はエイプリルフールじゃなくて、バレンタインだよ?


 こんな、ドッキリ企画なんてぼくは望んでいないよ?


 いや、一旦、落ち着けぼく。


 もうちょい待ってあげよう。


 もしかしたら、チョコレートを渡すのを恥ずかしくて躊躇っているかもしれない。廊下の隅のほうでバレンタインチョコレートを持ちながら深呼吸をして緊張を解いている五〇人の女生徒が今にも目に浮かぶ。


 だから、そんな彼女たちの為にも待ってあげよう。


 ——しかし、教室でいくら待とうが一人もここに来ない。


 おかしい……何かがおかしい……ぼくがチョコレートをもらえないなんて。


 一度、今日一日を冷静に振り返ってみよう。


 休み時間とか、誰もチョコレートを渡しに来ないから、いつもより女生徒の周りを行ったり来たりして目が合ったのにもかかわらず、誰もチョコを渡す素振りもない。


 それと! 授業後も黒板消しで人のために尽くすできる男アピールかつ黒板をわざとゆっくりと消して、誰かがぼくに気づくように仕向けたのにも関わらず、誰も見向きもしない!


 他にも色々とアピールをしたのだが、誰も反応なし。


 どういうことなんだ……


 ポツンと廊下側の自分の席に座っているぼくは絶望の悲しみに暮れる。そんな時であった。ぼくの今後の人生を劇的に変える会話が廊下にいる二人の男子生徒によってなされる。


『おまえ、チョコレートをもらえたか?』


『いや、もらえていないよ』


『おまえも貰えなかったか。だったらカップルあみだでもやるか?』


 カップルあみだ、なんか聞いたことあるなー。


 確か、バレンタインデーの日に彼氏彼女がいないうちの学校の生徒だけが参加できるサイトで、インターネット上のあみだくじでカップルを決める。強制的に付き合わなければならないし、別れることができないと聞いた。


 ぼくたち一年生と上の二年生が付き合うことだってあるってことだよね……嫌だな。


 同級生と先輩だったら個人的にだけど同級生の方がなんか知らないけど付き合いやすい。


 この気持ちわかってくれる人いる、いない?


 まぁ、それ以前にいきなり知らない人と付き合えってなるこのカップルあみだなんて全面的に反対だけどね。


 ましてや、好きな人がいるぼくが、好きでもない人と付き合うなんて無理でしょ?


 だから、カップルあみだを反対しているし、絶対にやらない。


『でも、知らない人と付き合うんだろう? そんなの嫌だなー』


 よくぞ言ってくれた。廊下にいる見知らぬ男子生徒Bよ。


 ぼくと同じ意見だ。


『いやいや、おまえ分かっていないなー。カップルあみだで可愛い女子と付き合えたりすんだぜ』


『いや、それでも……』


『ここだけの話、おまえの大好きな副生徒会長様が応募しているぜ』


『それ、ほんとかよ‼ 桃香様が参加してるって‼』


『ああ、このサイトで誰が応募をしているのか閲覧ができるんだ——ほら、見ろよ』


『うわ! ほんとだ‼ 桃香様が応募してる!』


 えー⁉ あの副会長も参加してるのかー?


 それは驚き。


 学園で一番可愛いと言われ、他校からも可愛いと評判があり、男子生徒から絶大の人気を誇る副会長は簡単にどんな男だって付き合える女。なのにもかかわらず、なんでカップルあみだに応募しているんだ?


 まぁ、どうでもいいか、そんなこと。


 あいつのことは嫌いだから。


 所詮、カップルあみだなんて子供のお遊び。


 ぼくが関わるべき世界ではない。


 すっかりとカップルあみだに興味を失くしたぼくは、今日の悲しみを胸に秘め、帰り支度を始める。


『他には誰が応募しているんだ?』


『他には——』


 次の瞬間、胸の高鳴りを抑えきれずぼくの心臓が破裂するんじゃないか、と思われるぐらい衝撃的な言葉が耳に入る。


『——一年二組の書記ちゃんが応募してるなー』


 え? 嘘?


 つゆちゃんがカップルあみだに応募を⁉


『書記ちゃんも可愛いよなー』


『こんなにかわいい子たちが応募しているんだから。応募しようぜ』


『だな、これは応募しないと損だ』


 廊下にいる男子生徒の二人の声が遠ざかっていく。


 ……つゆちゃん。


 ぼくはポケットからスマホを取り出して、カップルあみだのサイトを開いて画面をスクロールする。そこの応募欄にはたくさんのニックネームと本名が書かれていた。


 ぼくの指がピタリと止まる。


 四〇〇人以上の応募の中に、短い名前が書かれていた。


『つゆ』


 見つけた……でも、もしかしたら他人がニックネームで書いているのかも。


 不安に思いながら、つゆちゃんのプロフィール欄を読む。


『一年二組の、つゆです。生徒会役員で書記をしています。私は——』


 真面目で正直な自己紹介を書いているプロフィールを見ると、大好きなつゆちゃんで間違いないようだ。


 顔の頬が緩むのを感じる。


 つゆちゃんが応募していることを知ったぼくはあることを決意する。


「よし、ぼくもカップルあみだに応募しよう」


 さっきはカップルあみだに全面的に反対するとは言ったけど、つゆちゃんが参加しているのなら話は別だ。


 つゆちゃんが他の男子と付き合ってる姿なんか見たくはない。それに、ぼくが参加したらつゆちゃんとカップルになるのはほぼ間違いない。いや、『ほぼ』ではなく間違いない。


 だってぼくは超絶に運が良いから‼


 つゆちゃんとカップルになる確率が宝くじ当選よりも高いんだったら、つゆちゃんとカップルに絶対になれるでしょ!


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