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第35話 副会長の憂鬱の理由

「いや、なんでもない。そうだとしたらって言ったら何か気の利いた言葉が思い浮かぶかな、と思ってたけど、なにも思い浮かばらなかった」


 正直に答える。


 これでまたバカにされるか、呆れられるかもしれない。


 副会長は、一瞬、目を丸くしたが、やがて小さく、笑った。


「っふ、馬鹿じゃないの」


 彼女の顔は、少しばかり明るくなったように見える。


「さっきの話だけど、確かに、会長に『良い恋仲になれますよ』って言われたのはショックだったわ。でもね、別に今となっては少し気になる程度だから問題ないわ」


「そうなんだ。じゃー、なんでそんなに辛そうなの?」


 ぼくの推測は浅かったらしい。だとすると、一体何が原因なんだ?


「別にアンタに関係ないじゃない」


 再び突き放すような言い方。でも、さっきよりはましな声色だ。


「関係、ある」


 ぼくは、素直に感じたことを口にした。


「副会長がそんなに辛そうにしていると、ぼくまで……少し辛くなる」


 副会長が別に好きだというわけではない。


 ただ、なんでだろう。こんなにもつらそうにしている副会長を見ていると、今は、このまま放っておけないというかなんというか……


「なによ、少しって。少しならほっといたらどうなの?」


「少しだけど、君をほっておくことはできない」


 副会長はパッと顔をあげてぼくの目を見つめる。


「なんで、ほっておくことができないのよ?」


 副会長は、ブランコを漕ぐ足を止め、パッと顔を上げて、真っ直ぐにぼくの目を見つめた。


 その瞳には、驚きと、戸惑いが浮かんでいた。


「分からない。でも、できない。だから、頼むから教えてください。なんで、今、そんなに辛そうにしているのかを」


「……」


 ぼくは、無意識のうちに、頭を下げて頼み込んでいた。


「…………」


 副会長は、黙ってぼくを見つめている。その沈黙が、やけに長く感じられた。


「……頭を下げるとか、謝罪でもしてるの?」


「いや、全然違うけど……」


 いつもの意地悪な口調に戻った。


「知ってるわよ。ちょっとからかっただけだから」


「……それで、教えてくれないか? なんで今、辛そうにしているのかを」


 いつものぼくなら、『からかっただけ』に対して、なにかしらツッコみをいれていたと思う。だけど、その発言に対して、ツッコんではいけないような気がした。


 だから、からかいへのツッコミを飲み込み、再び真剣に頼み込んだ。


「はぁー……」


 副会長は、大きくため息をついた。


「……分かったわよ。言うわよ、言えばいいんでしょ」


 諦めたような、でも少しだけ観念したような声だった。


「おおー、教えてくれるのか!」


「まぁね」


 ぼくは黙って、副会長が話し出すのを待つ。


 副会長は、ブランコをゆっくりと揺らしながら、話し始めた。


「あれは、つい数日前の春休みのことだったわ」


 少し、遠い目をする副会長。


「わたしが、カップルが別れる項目を導入するために、生徒会で無理やり選挙ができるようにしたの」


 ちゃんと頑張ってたんだな。


 偉いぞ副会長。


「そうしたらね……」


 副会長の声が、少し震えた。


「会長が……会長がわたしに、こう言ったのよ」


 ごくり、と唾を飲む。一体、何を言われたんだ?


「『桃香副生徒会長のこと、ちょっとだけ、嫌いになりそうです』って言ったのよー!」


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