第33話 お婆さんの証言と副会長の影
ほっと胸を撫で下ろした、その瞬間だった。
「まちんしゃい、ワシは聞いたぞ」
突如、ぼくたちの目の前に、ピンク色の派手な服を着た、腰の曲がったお婆さんが、杖をつきながら割って入ってきた。
「そうですか。こちらの方は何と言っていたのでしょうか?」
「『ぼくについて来たら、もっと飴玉あげるよ。一緒に楽しいことをしようね』と言うとったの」
はああああああああ⁉⁉⁉
なに言ってんの、このお婆さんんんん!!!!!
そんなこと一言も言ってないからね!
2人の警察官は、お婆さんの証言を聞き、さらに鋭い目つきでこちらを見る。
さっきよりも明らかに目が据わってる!
「聞き間違いーっ!!!!!! ものすごい聞き間違いだからそれーっ!!!!!!」
「なんじゃと、ワシの耳を疑っているじゃと?」
「疑いじゃなく、違うんです! 全然違うんです!」
「なに、ワシがスーパー可愛いじゃと?」
「言ってねーわ!!!!!! 耳が弱々じゃねーか!!!!!!」
「記憶力が良いって褒めてくれてありがとうじゃよ」
お婆さんは満足そうに頷いている。いや、全く褒めてないから!
これだけ立て続けにめちゃくちゃな聞き間違いをしているんだから、さすがに警察官も、お婆さんの証言は信用できないと判断するだろう。
しかし、2人の警察官は、依然として鋭い目つきを崩さない。
むしろ、目が座ってきている気がする。
「詳しい聞きたいので、同行をお願いします」
「え、なんで⁉」
「人がいない場所に少し移動するだけなので」
「ああ、はい……」
紛らわしい。お婆さんの言い分を信じて、警察署に連れて行かれるのかと思ったじゃないか。
なんだ、ただの立ち話の場所を変えるだけか。
――と、安堵したその時、視界の隅に、ピンク色のショートヘアーが見えた。
ショッピングモールの中から、副会長が出てくるところだった。しかも、一人。
絶好のチャンスじゃないか。
しかし、こんなタイミングで出てくるとは。
正直、最悪のタイミングだが、迷っている余裕はない。
今すぐ追いかけなければ!
「あの、用事があるので、ここを離れてもいいですか?」
「どのような用事でしょうか?」
「えっと、あのピンク——」
あのピンク髪の女の子を尾行します、なんて口が裂けても言えない。
しかも、ぼくは「ショッピングモールに用がある」と自分で言ったばかりだ。
「——の服をこのモールで買いたくて……」
ぼくは、咄嗟にさっきのお婆さんを指さした。
その服には、『キューティクル♡』とピンク色で大きくプリントされている。
警察官たちは、無言でその服を見た。
「……」
「……」
また、いたたまれない空気。
その空気の流れを変えるように警察官はお婆さんと子供に事情聴取の協力を感謝して送り出した。
そして、ぼくだけが残り、人があまり通らない隅の方に移動する。
「もう少しだけ話を聞かせてください」
「はい」
「お名前を教えてもらえますか?」
「さとしです」
「恋愛高校の何年何組ですか?」
「はい、恋愛高校、2年4組です」
「学校に連絡しますので、しばらく待っていてください」
「はい」
電話をかけて、ぼくが在籍しているか確認の電話が終了した後、警察官に注意された。
「駐輪場にこれからは使用してください」
「あ、はい、これからは気をつけます」
ようやく、ぼくの事情聴取は終わって解放されたけど、副会長を完全に見失ってしまった。
完全に見失った……副会長のヤツ、絶対に探し出してやるからなー!




