第31話 恐怖の防犯ブザーと母の教え
でも、めげない!
気を取り直して、他の人に——お、あの子なら!
「ちょっといいかな?」
7歳くらいの男の子に話しかけてみた。
無垢そうな瞳だ。
「なに~?」
「お兄ちゃん、今、困ってて助けて欲しいんだ」
「どうしたの~?」
「この自転車を人の邪魔にならないところで、ずっと持っていて欲しいんだ」
「うん~、いいよ~」
「おお、ありがとう‼」
「どういたしまして~」
「君にはお礼にこれをあげよう」
感謝の気持ちを込めて、自分のエナメルバックから飴玉を一つ取り出す。
「はい、これ飴玉。お兄ちゃんからのプレゼント」
少年は目にも留まらぬ早さでポケットに手を入れ、小さな何かを手に取り——
『ビビビビビビビビビビビー‼』
とんでもなく大きな音が辺り一面に響き渡る。
それに、反応して周りの方々が何事かとこちらに目をやる。
いや、これ、防犯ブザーじゃん‼
え、何しちゃってんの、この子⁉
「ストープ! ストープ! ストープ!」
「うん~」
ぼくの慌てっぷりをよそに、のんびりとした声で答えてから、ブザーを止めた。
周りの人は少し動揺したものの、また何事もなかったかのように歩き始めた。
「いきなり、防犯ブザー鳴らしてどうしたの⁉」
「お母さんに飴玉を渡す人がいたら、ブザーを鳴らしなさいって、その人は危ない人だからって」
「大丈夫だよ、ぼくは危ない人じゃないから」
『ビビビビビビビビビビビー‼』
またかよォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
またしても周りの人たちが立ち止まって、こちらに目をやる!
さっきよりも明らかに疑いの目が強い!
なにしてくれてんのこの子ォォォ!!
「ストップ、ストップ、ストップ‼」
「うん~」
防犯ブザーを止めたのはいいのだが、何人かの人が、すっごく怪訝そうな顔でこちらを見ている。
なんかぼくを不審者と勘違してる顔だよ、あの人たち……
この子に言わなければならないことがある。
「なんで防犯ブザーを鳴らした⁉」
「お母さんが『ぼくは危ない人じゃない』って言う人はもっと危ない人って」
単語一つ一つにこんなトラップが仕掛けられているのか⁉
母親の教育、レベル高すぎだろ⁉
感心したフリをして、ぼくはにっこり笑いながら言った。
「お母さんの言うことを聴くなんて偉いねぇ」
『ビビビビビビビビビビビー‼』
「ストップ、ストップー‼」
防犯ブザーが鳴りやむ。
……今度は何⁉ 何か失言したか⁉
偉いねって褒めただけだろ⁉
「防犯ブザー鳴らす要素、どこにあった⁉」
「ん~、ノリ~」
「ノリで防犯ブザー鳴らすなァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」




