第26話 東京湾と萌え萌えキューン
帰りのHRが終わり、帰り支度をしていると、隣の席の伊藤壮馬がぼくの肩を掴んだ。
「さぁ、約束の7日目が終わったから今から東京に行こうか」
おいおい、遊びに誘う感じに言われたんですけど⁉
え、あれだよね、約束のやつとは、1週間以内に副会長と会話ができる場を提供するってやつだよね?
東京湾に沈めるってやつだよね?
でも、もしかしたら本当に遊びに誘っているかもしれない。
てなわけで、遊び先を聞いてみた。
「え、もしかして、今から東京に行って、テーマパークに行って遊んじゃう?」
「んなわけねーだろ!」
「あー、ごめんごめん、あれって実は東京じゃなくて千葉県にあるんだよね。県名を間違えた、ごめん。じゃー、千葉のテーマパークに行こうか」
「ちげーわ! 東京だ! テーマパークじゃない!」
「え、違うの? 東京と言ったら……メイド喫茶か‼ ぼくはあれ行ったことがないから一度行ってみたかったんだよねー。萌え萌えキュンだよね、あれやってみたい。ちょっとやらせてねー。萌え、萌え、キューン♡」
「ちげーわ‼」
見事なまでの萌え萌えキューンをちげーよ、と言われて一掃された。
「ごめん、ぼくのポージングが違うってことだよね。メイドの初心者がイキってごめん」
そこに前の席にいた一丸が、真面目な顔で、なぜか会話に参入してきた。
「さとしちん、全然ダメなんだよ。萌え萌えキュンはこうやるんだよ。ぼくちんの見ていて」
一丸は軽く準備体操をして大きく一呼吸して、動き出す。
「萌え萌えキューンだよ♡」
……その瞬間。
「下手くそか! すっげえ期待して損したわ!」
間髪入れずに、壮馬はツッコんだ。
たしかに。
ぼくも正直、一丸が自信満々に手本見せるって言ったから、上手くポーズをやると思った。
でも、おそらく小学生よりも下手だ。
「違うんだよ。ぼくちんの萌えキュンは『ご主人様、おかえりなさいませ』から始めると成功するんだよ」
「知らねーよ! そもそも、俺はそんな話をしたいんじゃない。別の話だ」
「そうなの?」
一丸は頭を傾ける。それに対し、ぼくは話の成り行きを見守る——フリをする。
「そうだ。おまえには関係ない話だ」
「えー、ぼくちんも混ぜてよー。東京に行くんだよね?」
「そうだ」
「じゃー、ぼくちんも東京に行かせてほしいんだよ」
「おまえはダメだ。俺たち2人で行くやつだ」
「え、もしかしてなんだよ……2人はお付き合いを——」
「んなわけねーだろ‼ 俺は桃香ちゃん一筋だ」
「じゃー、ぼくちんも東京に行くの混ぜてほしいんだよ」
「ダメだ」
「お願いだよ」
「しつこいなー。何とか言え、さとしも……あれ?」
「さとしちんいないんだよ」
「あいつ、逃げやがったなー‼」




