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第15話 : 新学期初日、ガラスの海と小さな闖入者

 新学期初日の朝。


 まばゆい光が差し込む校門前、掲示板の前にはすでに人だかりができていた。


 まだホームルームが始まってもいないのに、この賑わいぶりだ。


 ──そりゃそうか。クラス替えって、やっぱり一大イベントだもんな。


『やったー、わたしたち同じクラスね』


『今年は桃香様と同じクラスじゃない……俺の人生は真っ暗だ……』


『星川生徒会長と同じクラスだ、やったー』


 と、喜んでいる姿もそうでない姿もここではたくさん目にすることができる。


 まぁ、この人たちの気持ちは分からんでもない。てか、めっちゃ分かる。


 ぼくの運命がこのクラスのメンバーで決まるからだ。


 今回のクラス替えで3年生になってもほぼ同じメンバーとなる。だから、今回のクラス替えは何が何でもつゆちゃんと一緒になりたい。


 ちなみにこの私立学校は4階建てで中庭と裏庭合わせて7つ、隠れスポットもあるマンモス校で、1学年10クラスもあり、2年生は360人ほどいる。 


 とくかく、敷地もでかけりゃー、建物もでかい。


 そんなマンモス校にぼくが所属しているのは普通科で、クラスは4つある。その4クラスのうちに2クラスずつ理数系か文系に別れる。


 そして、ぼくが選択したのは文系である。


 つゆちゃん、1年の時は同じクラスだったけど、2年も同じクラスでありますように。


 そんな願いを込めながら掲示板前にいる人だかりの中をかき分けて、誰もいない一番前に進んで立つ。


 期待と緊張を胸に掲示板を見る。


 普通科の文系はどこだ……4組が文系で……


 上から順に名簿をみていく。すると、つゆちゃんの名前を見つけた! お、つゆちゃんは文系なのか! もしかしたら、ぼくも同じクラスになる可能性が⁉


 どうか、神様! 同じクラスになっていますように!


 願掛けをしながらズラーっとみていく——そしたら、『さとし』という名前があった!


 よっしゃー、ぼくは最高に運が良い‼


 思わずガッツポーズをする。


 やばい、めちゃくちゃ嬉しい!


 今年もよろしく、つゆちゃん。


 ところで、副会長はどのクラスになっているのだろうか?


 まさか、同じクラスではないだろうな? 


 と、思ったので4組のはり紙をサーっと見ると、いなかった。


 ふぅ~、良かった。『桃香』と書かれた名前はない。


 さぁ、自分のクラスにレッツゴー。


 ぼくが行くクラスは、3階にある。


 この学校はとにかく広くて、3階と4階に全学年のクラスがびっしり詰まっている。それでも空き教室がちらほら。


 毎度思うけど、どんだけでかいんだ、このマンモス校……


 春休みを終えて、久しぶりの学校を見ながら改めて、この学校の教室の充実さを考えていると、3階に到着した。廊下には意外にも人はあまりいなくて、スムーズに歩けた。


「えーっと、ぼくのクラスは——あった!」


 少し遠くの方に『2年4組』と書かれたプレートが見えた。


『パッリーン‼』


「ええ、なになに⁉」


『『キャー』』


 2年4組の廊下側の後ろの窓が突然と豪快に割れた。


 ガラスの破片が廊下に飛び散る。


 幸いにもその時には誰も廊下を通っていなかったので廊下には負傷者がいなかった。


 ただ、今の音で何事か、と驚いている隣のクラスの人が出てきてざわざわと廊下に集まる。


『いったい何が起きたんだ?』


『先生を呼んだ方がいいんじゃない?』


 不安そうな言葉が飛び交う中、ぼくは人だかりを『すんませーん、通りまーす』と言いながらクラスの中に入る。


 中の様子を見ると、ざわざわとクラスの中で話し合っている人たちの中、廊下側に小さい男子生徒一人だけいて、あわあわ、と慌てふためいている。で、周りの人は割れた窓ガラスから離れている。


 クラスの人たちを見ると、どうやらけが人はいないようだ。


 ふぅー、けが人はいないみたいで良かった、良かった。


 ところで、あわあわしているあいつが窓ガラスを割ったのかな?


 明らかになんかやってしまった感がある顔だし……


 廊下側の席に目を移すと、そこには、光の反射で輝いているガラスが廊下側の一番席あたりにちらほらとあった。


 あーあ、廊下側の席にガラスの破片が飛び散ってるよ……あの席の人、少し不憫だな。


 と考えてから黒板に貼られた席順をみる。


「ぼくの席、ぼくの席はっと——うっそ……」


 ぼくが廊下側一番後ろの席だった。 


 えー、学校初日でこんな幸先が悪いの? 


 自分の席が、ガラスの海になっている光景に、膝から崩れ落ちそうになる。


 なんでだ! せっかくつゆちゃんと同じクラスになれたのに、ぼくの席だけ、事故現場みたいになってるじゃないか!


 いや、ここはポジティブにいこう。


 暗い考えをすると、気分が落ち込むからな。


 ガラスの破片が飛び散ってる席で…良かった。


 もし、他の人があの席になっていたら…あまりの不運に絶望し、「この世はクソだ!」と叫んで、他の窓も全部割っていたかもしれない!


 そのあと警察沙汰になって、停学とかになっていたかもしれない!


 そう考えると、ぼくは…救世主だ!


 このクラスの平和は、ぼくの不運な席のおかげで守られたんだ! ぼくが救世主! なんて素晴らしいんだ!


 …って、無理があるだろ、このポジティブ思考! 誰が救世主だよ! ただの被害者だ!


 とにかく、このままじゃ授業も受けられない。自分の席をどうにかしなければ。


 ぼくは無言で後ろの掃除用具入れに行き、放棄と塵取りを取り出し、散りばったガラスの破片を集める。


 作業をしていると、可愛らしい男の子のような声がぼくに向けられる。


「ごめんだよ、ぼくちんが割ったガラスだから掃き掃除手伝うんだよ」


 可愛らしい声があった方に顔を上げる。


 すると、そこには先ほど慌てふためいていた男子生徒がいた。


 よくその顔を見ると、天然パーマの黒髪で身長は150センチくらいではないだろうか? 


 ランドセルを背負うと小学校5年生だとみんな勘違いしそうなくらいに童顔だし、背が低い。


 見た目からはちょっと活発で真面目な男の子って感じだ。


 こんな子が窓ガラスを割ったんだ、何をして割ったんだろう。


 まぁ、窓ガラスを割ったんだから手伝うのは当然として、てか、手伝うより先に掃き掃除くらい率先してしてほしかった。


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