第10話:本性暴露と裏庭の密会
東京湾に沈められるのは絶対に嫌だ。だから、ここは言うことを聞くしかない。
「いやー、トイレに行きたくなくなったなー!」
「あ、そうなんだ~♪ じゃー、話の続きしようね~」
「う、うん。そうだね……」
「それでなんだけどー、さとしくんがザーサイくんだよね? うそをついたら皆にメールを送っちゃう♡」
「ぐぬぬ」
表面上はとてもかわいい笑顔だけど、心の中は悪意の塊しかない。
こえーよ、その笑顔。
どうしよう、この質問……
ここは正直に答えるべきだろうか?
でも、正直に答えると、ぼくは後ろにいる奴らにすぐさま焼き肉にされる。
かといって、嘘をついたら東京湾行き。
高校一年生でこんなどっち選んでも詰みになる選択を迫られるなんて考えもしなかった。
っくそ、ぼくは一体どうすればいいんだ!
「さとしくん? 聞こえてる?」
あー、どうすればいいんだ?
どの道もぼくは死んでしまうじゃないか……
「聞こえてないみたいだね。じゃー、メールを公開して——」
「はい、ぼくがザーサイです!」
「あ、やっぱり、そうなんだね~♡」
「あ……」
言ってしまった……
ビクビクしながら後ろを振り返ると、そこには巨大な機械と道具が揃っていて、どす黒いオーラを放っている野郎どもの目はギラギラしていた。
さて、逃げるか……あれ?
なぜか、身動きができないんだけど……
下を見ると、ぼくの体はロープでぐるぐるに巻かれていた。
いつの間に‼
巻かれているロープから一本だけ伸びていて、それを目でたどっていくと昨日、出会った赤髪の子がいた。
やばい、やばい、やばい、焼き肉にされる‼
ぼくの人生、これで終わるの?
しかし、そんな危機的状況を救ってくれたのは副会長であった。
「みんな~、さとしくんは悪くないから許してあげて?」
『『『……』』』
「お願い、わたしに免じてさとしくんを許してあげて、ね?」
『『『イエスマム‼』』』
周囲を見回すと、後ろにあった焼き肉用機械がなくなっていて、ぼくの体に巻かれていたロープが解かれていた。
ふー、助かった。もう少しで焼き肉になるところだった。
でも、なんでこいつはぼくを助けようとしてくれたのか?
副会長を馬鹿にしたあのメールを読んだのなら、ぼくを潰してもいいはずだ。それなのにしなかった。
なぜだ? 何が目的だ?
臓器か? 臓器が目的なのか?
ただ、焼き肉にして食べても勿体ないからぼくの臓器を売るつもりなのか⁉
ゆっくりと顔を上げ、副会長に向き直り、危機に備えて構える。
だけど、副会長は意外にも優しい言葉を投げかけた。
「一緒にご飯を食べましょう♪」
「あ、うん……」
そうして、クラス中の生徒からジロジロと見られながらぼくたちは昼食をとった。そして、副会長に言われて五分後に裏庭のひとけのない草むらに待ち合わせになるのだが——
——遅れてしまった。
「マジあいつ、あり得ないわ。約束時間を一〇分も過ぎてるし。昼休みが終わってしまうじゃない」
日の光が当たる裏庭の茂みで、独りしゃがんでいる副会長は親指を噛みながら、ブツブツと文句を言っていた。
「やっぱり、焼き肉にしてもらえば良かったかしら、もしくはわたしのファンに東京湾に沈めてもらうべきだったかしら、ブツブツ」
物騒なことを言う副会長。
おいおい、ここの学校の生徒は人権という言葉を知らないのではないのだろうか?
もう一度、小学生からやり直して道徳の勉強をしてもらいたいものだ。
「あー、もう! あいつのメールを公開してやる‼」
ポケットからスマホを取り出して、ものすごいスピードで文字を打っていた。
やばい、公開されたら東京湾にお墓が一つ増えてしまう‼
「お、お待たせ!」
「シーーー‼」
「ん?」
鼻に人差し指を立て、こちらに手招きをする副生徒会長。
とりあえず、静かにして茂みにいる副会長のもとに行き、隣にしゃがんだ。
「おっそい‼ わたしがどんだけ待ったと思ってんのーー‼」
理不尽極まりないことを言われたので反論してやる。
「いや、だって仕方がないだろう⁉ 副会長と教室で別れたあと、教室内にいる野郎どもがぼくを捕まえようと必死に追い掛け回すから逃げ回っていたんだよ‼」
「そんな野郎どもなんて、ボコボコにすればいいじゃない!」
「無茶を言うなよ! よく分からないナイフのような鋭利で襲い掛かってくる輩に立ち向かうことができるか!」
「頑張んなさいよ!」
「コイツ……」
他人事だと思って……
まぁ、山ほど言いたいことがコイツにあるから、その話は置いといてやろう。
「それになー、どうして昼食が終わってからぼくと一緒にここに来なかったんだ? そうしたら待ち合わせをしなくて済んだのに」
「そんなの、アンタと一緒に歩くのが嫌だからに決まってるじゃない」
「……」
コイツ……ぼくの命がかかっているのにもかかわらず、よくそんなことが言えるなー……おまえの行動のせいで人の命が失いかけてたというのに……
色々と言ってやりたいが、今はやめておこう。
聞きたいことがたくさんあるんだから。
「で、おまえはどうしてここに呼び出したんだ? いや、それよりもさきに、さっきから言葉遣いが荒いけども、キャラ崩壊してんぞ?」
「うっさいわねー」
「いつものキャピキャピはどうした? 学園アイドルの名が廃るぞ?」
「キャラじゃないわよ。愚民どもに優しさを提供しているだけよ。おかげで、わたしに貢ぐATMがいっぱいできたわ」
「考えが最低だな‼」
「ふん!」
ただの性悪女だった。
まぁー、そんなことは昔っから知っているけどな。
「アンタこそ、陰キャぼっちのくせによく喋るじゃない?」
「ぼくは陰キャぼっちじゃない。紳士な陰キャぼっちだ!」
「どこが紳士な陰キャぼっちよ! 紳士要素、皆無じゃない!」
「おま!」
言ってはならないことを言いやがった。
鼻くそでも投げつけてやろうか?
いやいや、落ち着け、ぼく。紳士は鼻くそを投げつけたりしない。
ここは、大人の振る舞いをするか。
ぷんすか怒っている学園アイドルに本題を切り出した。
「で、本題に入るけども、どうしてぼくをここに呼び出した?」
「そうだったわ。アンタがごちゃごちゃ言ってるせいで、忘れてたわ」
コイツはいちいち、なにかを言わなければ済まない性格なのだろうか?
反論しても話が先に進まないので黙ることにした。
「あそこを見なさい」
「ん……あれは!」
彼女の指がビシっとさす方向には生徒会長と黒髪天使のつゆちゃんが木の下のベンチで座っていた。
どうして、あそこにつゆちゃんが?
あー、あんな近くにー、うわー、なんか見つめ合い始めたよー!
ダメダメダメダメ‼
「ちょっとアンタ、あのカップルを見てどう思う?」
「近年お目にかからない最低最悪のカップルだと思う。だから、さっさと別れるべき」
「アンタ……」
目をパチクリさせる副会長。
なんだ、ぼくの発言で失望したか?
「……よく分かってるじゃない!」
「何が?」
「あのカップルはさっさと別れるべき、そう思うのよね?」
「当り前じゃないか。あの二人が別れないと不幸になる人がいる」
特にぼくとか。
「そう、まさにそうなのよ!」
「お、おう」
なんでそんなに喜んでいるのか分からないけど、良かったね。
「アンタと初めて意見があった気がするわ」
「お、おう」
「でも、こんなゲス野郎と付き合うことになるなんて、わたしの人生最大の汚点だわ」
ぼくはツッコまない。だから、話を進める。
「そもそも、なんで副会長はカップルあみだに参加してんの? この学園での人気度を考えれば男なんて誰でも付き合えると思うのだが?」
「アンタにしては、ちゃんとした意見を言うじゃない」
「あ、そうですか」
アンタにしてはって……おまえとちゃんとちゃんと話したのは今回で初めてだからな。ぼくの何を知って言っているんだ?
「そう、アンタの言う通り、わたしはカップルあみだに参加しなくても、そこらの男どもと付き合うなんて造作もないわ。だけど、たった一人だけ——」
副会長は少し悲しそうな表情でつゆちゃんカップルを見ていた。
「——わたしに振り向かなかった殿方がいたわ……その方がカップルあみだに応募したからわたしも応募したのよ」
「あー、もしかして、副会長は会長が好きなの?」
バッとこちらに振り向いて、赤くなっていく顔に口をパクパクとさせて動揺をしていた。
わっかりやすい表情だなー。
「……そうよ」
悔しそうに下を向き、会長が好きなことを認める副会長であった。
「いやいやいや、そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ。実はぼくだって好きな人がいてだなー」
「書記ちゃんが好きなんでしょ?」
「なんで分かったの⁉」
「そんなの分かるわよ」
「誰にも言っていないのに」
「いや、アンタの好きな人は分かりやすいから」
「そんなに分かりやすい?」
「分かるわよ。アンタ昼食の時、どんだけ書記ちゃんを見てんのよ」
「え? そんなに見てた?」
「見てたわよ、鼻の下伸ばしながら」
「やめろ、ぼくはそんな人間じゃない」
「そうかしら?」
「副会長こそ、チラチラと会長を見ていたじゃないか!」
「あ、あれは、会長がいたから仕方がなく」
見てたんだ……テキトーに言っただけなのに。
コイツは学園アイドルとして畏怖されし存在とか言われているらしいけど、中身はぼくと一緒なのでは?
……コイツと一緒なのは嫌だな。そうあれだ、コイツが似ているのは何かあればすぐに人を焼肉にしようとするやべー奴らと一緒だ。人権意識がないところとか、同じ感じだよね。
「そんなことより、話が脱線したわ」
「そうだっけ? 何の話をしてたっけ?」
「アンタをここに呼び出した話よ」
「あ、そうだった。なんでぼくを呼び出したの?」
「会長カップルを破局させるための話し合いの為よ」
「はぁ? 何言ってんの?」
「わたしに協力をしなさい」
「気持ちは分らなくもない。いや、むしろ分かる。でも、そんなことできないでしょ? 普通のカップルだったら破局をさせることはできるけどカップルあみだのカップルは別」
カップルあみだによれば、卒業までは付き合わなければならないというルールがある。
それに、あみだのカップルを邪魔してはならないというルールもあるようだ。
「破局させようとしてみろ。もしも、バレた時を考えただけでもおぞましい。罰金だけじゃ済まなさそう」
「そんなことはないわよ。回避ができる方法はあるわ」
「そうなの?」
「そうよ。ちゃんとルールを読んだかしら?」
「読むわけねーだろ!」
「ちゃんと読みなさいよね!」
「じゃー、おまえ、あの六法全書みたいな規約を全部読んだのかよ?」
「もちろん、読んでないわ」
「お前も読んでねーじゃねーか!」
「全部は読んでないだけで、ちょっとは読んだんだからね! アンタとは格が違うのよ、格が!」
「でたよ、この開き直り!」
「うるさいわね、だったら証拠を見せてあげるわ!」
副会長はスマホを取り出し、カップルあみだのサイトを開いて、ここを読みなさいと言って指でトントンとする。
その文章にはこう書かれていた。
『79.1項 定期改定:本規程は、特定の時期(例:二月十四日及び九月一日)において、定期的な改定の機会が設けらるるものとする』
「これが何か?」
定期改定があるからといって何があるというのだろうか?
「忘れたのかしら。カップルあみだの運営は生徒会がやっているのよ。わたしが規則の変更をしてカップルを別れられるようにするのよ」
「おおー、それは素晴らしい!」
「ふふ、そうでしょ。絶対に会長カップルを破局させてやるんだから!」
茂みに隠れていて周りには見えないからといって、その悪だくみを考えている顔はやめた方がいいぞ、おぞましいオーラと顔が怖い。
これを言ったら、副会長が反論して話が長くなるから言わないけどね。
ただ、副会長の言葉を聞いてふと良い案が思い浮かんだものがある。
「カップルを別れさせるよりも交換の方がいいんじゃない?」
例えば、ぼくと会長が交換できたらぼくたちの最終目的は完了する。良い案だと思い言ったのだけれど、副会長は顔を横に振る。
「それをしたかったのだけれど、できないわね」
「え、どうして?」
「少し前まではその規則が適用されてたけれど、大きな問題が起きてたらしくて禁止になったわ」
「それなら禁止事項を変更したらいいんじゃない?」
「禁止事項にある厳重注意だけは四年後に変更が可能になるの。交換の禁止項目が入れられたのは去年よ」
「それってぼくたちの学校生活では絶対に変えることはできないじゃん」
「厳密にいえば変更できるけれど難しいわ。だから、変えられないと思っていいわ」
「それで、破局の許可を項目に入れようとしているのかー」
「そうね」
「でも不思議だね。破局をしてもいいって項目をすでにあってもいいのにないなんて」
「あったわよ。だけど、ちょうど四年前に作られたから変更が可能ってわけよ」
「あー、なるほどね」
やっと合点がいった。だから、破局をさせるわよって言ったんだ。
そうか、そうか。そうしたら、あのカップルを壊せるのか。
茂みからベンチに座っているつゆちゃんカップルに視線を向ける。
これならあのカップルをぶち壊せる。
ぼくは心に誓った。
……
あのカップルを
…………
ぶち壊す、と。




