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第1話:バレンタインデー、開幕!

 ホームルーム開始まであと五分。教室は、まるで祭りのように騒がしい。


「キャー! モテ男くーん‼ チョコレートを受け取ってー‼」


「もちろん、いいともっっさ!」


 無駄に語尾を強調するモテ男はキザっぽく、頭をかきあげながら、取り巻き女子たちのバレンタインチョコレートを受け取る。


 キザだなー、あいつ。


 うっわ、チョコレートを五個も貰いやがったよ、モテ男の奴……


 あのキザ男のどこがいいのかさっぱり分からん。


 紫色の髪の毛に身長は高校生の平均的、顔は微妙にシュッてしてる。確かに微妙にかっこいいかもしれないけど、あそこまでモテる要素はないと思う。


 いや、モテ男が羨ましいとか思っていないんだけどー、思ってはいないけど、気にしちゃうよね?


 気にしちゃうのは紳士で、陰キャで、ぼっちなのが原因なのかもしれない。


 このぼく、さとしといえば、自他ともに認めるぼっちな男なのだ。


 教室でバラ色の声がしている一方、隅の方では二人の男子生徒がブツブツと喋っていた。


「い、いいな……モテ男……ぼ、僕もチョコレートを貰いたいなー……」


「無理だよ……僕たちには……」


 あの二人は確か……ザ・陰キャ代表、陰男と鶏男。


 ぼくよりもさらに深淵なる陰キャの部類に入る奴らだ。


「だ、だけど、チョコレートを貰えるのなら、貰いたい……」


「気持ちは分からなくはないけどさー、僕たちはモテ男のようにチョコレートを貰うことができないよ……」


 彼らの視線はモテ男と取り巻きの方を向く。


『キャー、モテ男くん、カッコいいー‼』


『モテ男くんが髪をかきあげたわー! キャーー‼』


『男が髪をかきあげるだけで、キュンっとくるのに、モテ男くんのようなイケメンが髪をかきあげたら幸せ死をしちゃう! もう、モテ男くん、マジ天使!』


 その光景を教室の隅で見ていた陰男は鼻で笑う。


「ふっふっふっふっふ……見つけたぞ……モテの真理……」


 この時、陰男の目がまるで何かに憑かれたように変わった。


「か、髪をかきあげる……あれだ……あれこそがモテの秘技……!」


「ど、どうしたんだ、陰男?」


 不気味に思った鶏男は恐る恐る尋ねる。


「さ、さっき、女子たちが言った言葉……あれにヒントが隠されていたんだ! 実践したらチョコレートを貰えるんじゃないかな?」


「ど、どんなことだよ……? まさかとは思うが……」


「モ、モテ男のように髪をかきあげること。あれをやったらチョコレートを貰えるんじゃないかな?」


「そんなはずないだろう」


「……」


 しばし、二人の間で沈黙が流れたあと、陰男は何かを決意したかのように頷く。


「僕は髪をかきあげようと思う。ぼ、僕は今までチョコレートを貰ってこなかったんだ。だから、こ、今度こそ貰いたいんだ」


「やめとけよ。恥をかくだけだって」


「ぼ、僕は挑戦をするよ!」


 いつも否定的な意見を言う鶏男の助言を無視して陰男は勇気を振り絞って髪をかきあげた。


 しかし、最前線のモテ男に夢中の女性たちは誰も見ていなかった。


 それでも、陰男はチョコレートをもらうために、何度も、何度も髪をかきあげた。


 なんか地味な奴って存在感ないのかな、と二人を見て考えていたら、


『あれ? 後ろの隅の方で……』


 陰男に、ようやく気付いてくれた女が現れた。


 おっと、気づいた!


 女性の声につられて、陰男の方を見る何人かの女性。


 おっと、陰男に注目が集まっている!


 さて、陰男はどうしているんだろう?


 パッと陰男に目を向ける。


 興奮しているのか陰男の鼻息が荒くなりながらも髪をかき上げている。


『なに、あの陰キャ、キッモ!』


『マジきもいんですけどー、ちょっとハゲてるしー。うけるんですけどー!』


 ディスられて、陰男の顔が、みるみるうちに涙目で歪んでいく。


 やめて、やめてあげて、ディスるのをやめてあげて。彼はただ純粋なだけなんだ。チョコレートが欲しいがために頑張っただけなんだ!


 陰男があんなにも勇気を振り絞ってアピールをしたのに最後の結末が不憫すぎる。一生涯の黒歴史を作って終わっただけじゃん。



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