③ 旅
後日編集
自分にいい聞かせるように伝えると、二人は立ち上がり教会へ走った。荷物はリュックに入るだけしか持っていない。薄い毛布に母の服。それから形見の銀時計。これは母が祖母からもらったもので、離さず持っているようにと言われた。決して無くしてはいけないと。ピァはそれをいつものように首から下げると、先程もらった金貨と貯めていた少しのお金で、日持ちする食料を買えるだけ買って鞄に詰めた。シノァがそれを見て
「大切に食べようね。」
と言って嬉しそうに笑う。弟は姉との小さな旅に心躍らせていた。ピァはそんなシノァの手を優しく握ると、海側の北西を目指した。昔母が亡くなった時、修道女が家に来て質問したのだ、
「王城下と海岸沿い、どちらの孤児院に行きますか。」
と。そして今の状況ならば海岸沿いに行くしかない。
王城下街を過ぎると草原が続き、小さな小屋すらないこともあった。二人は岩場の陰に身を寄せ、薄い毛布と母の服に包まり方を寄せ合って眠った。買っていた食料も徐々に無くなり、最後のパンをシノァに譲ると、ピァは風の匂いを嗅ぐ。海の匂いがする。昔海辺に住んでいたからわかる。
「海が近い。」
「おねいちゃん。はい。」
シノァは何の迷いもなく半分にしたパンを姉に渡した。
「大丈夫。お姉ちゃんはおなかいっぱいだから。」
そう言ったがシノァは受け取らず姉の近くで半分になったパンをさらに半分にしてポケットに入れ残りを口に長く含めて食べた。ピァは受け取ったパンを再び鞄に直す。
「大丈夫、きっともうすぐだから。」
食料もお金も尽きてしまった。孤児院に辿り着かなければ飢えて死んでしまう。
海の匂いを頼りに進むも、なかなか辿り着かず今日も日が暮れる。二人は背の高い草の間を懸命に歩いていた。月が登り始めると辺りがちらほら青く光った。
「満月草だわ。」
ピァは立ち止まり、光る花を手に取ると空を仰いだ。今日は満月で月明かりが強いため、その花はより一層青い光を放つ。
シノァが不思議そうに眺める。ピァはシノァを抱きしめ、昔召使のバジルから聞いたことを話し出した。
「北の森には大層大きな狼たちが住んでいるんです。狼たちが人を襲うので、困った北の城の人々は神様に祈ったそうです。そうしたら神様は、月の光を吸収して咲く花を下さった。不思議なことに、狼たちはその花に近づけない。だから海を望む岸壁に聳え立つ北の城は、どこからでも灯台のように青白く光って見えるんです。満開のその花々が狼からその城を守っているんです。」
「狼は怖いの?」
シノァは丸い目でピァの顔を覗きこむ。
「わからない。でも犬より大きいみたい。」
ピァは不安そうに言うとシノァを抱きしめた。
夜も更けてこれ以上先に進むことが難しいと感じた二人は、背の高い葉を折り込んで小さなテントを作り母の服をその下にひいて毛布を被る。鞄の中には小さなパンが半分残っていた。それを小さくちぎってシノァに渡すと、シノァはさらに半分にしてピァに渡した。遠くから獣の遠吠えが聞こえる。それは大層物悲しく、暗闇が更に不安をかきたてる。このままでは二人飢えて死んでしまう。どうにかしないと。
朝日が上がってピァは足元の花を見た。バジルは岸壁に聳え立つ北の城にたくさん満月草が生えていると言っていた。花の道を辿り、潮の匂いを追えば海にたどり着くに違いない。
「夜遠くを眺めたら花が咲き誇る方向は見えたから。」
ピァはシノァの手を強く握る。
「海を見よう。きっと父さん母さんが導いてくれる。」
行く先々で小さな川が姿を現す。水を汲み川下へ歩みを進める。川の行先は海だ。
「波の音がするよ。」
シノァが金の髪を靡かせて、草原の終わりを見つめた。
そこには砂浜が広がっていた。海沿いを北に眺めると、しばらく続く森の向こうに岸壁の上にそり立つ城が見える。南は長く海岸線が続き、ぽつりぽつりと建物が続く。
「多分あれが北の城で、その前の森が狼の棲家。」
シノァが足元の貝殻を拾ってピァに差し出す。ピァはそれを受け取り空っぽのカバンに入れると、足取りも軽く近くの建物を指差し走り出した。
後日編集




