足りない覚悟
俺がついた時にはもう遅かった。男は殺され、女も殺されそうになっていた。俺は間近で見ることしか出来ないでいた。一直線線で走って来たのにだ。俺は浮かれていた、俺はこの世界で活躍できると。転がっている死体を見て吐きそうになり、現実を感じる。すると突然大きな声が響いた。
「うあ〜〜〜ん、おと〜さぁん。」
女の後ろの馬車から男の子の泣き声が聞こえた。女を襲っている輩たちは、顔を見合わせる。
女が大声で必至に言う。
「どうか子どもだけは殺さないでください。何でもしますから。」
男の子の泣き声が止み、辺りは静まり返る。静寂の中、俺の後ろからザッ音が聞こえた。そこには真太郎さんが居た。
「えっと、今どういう状況ですかね。」
真太郎さんは場に近づき声をかける。
「助けてください、お願いし」
女が言葉を発している途中で殺された。
「うえっ」
俺は思わず言葉を発してしまった。
輩が俺たちの方を見た。
「おい、お前たち何しに来た。なかなかの上玉だな、わざわざ捕まりに来たのか。見たところ依頼を受けた冒険者って訳でも無さそうだしな。こりゃあ高く売れるぞ。」
頭らしき男が言うと、仲間も声を出し始めた。
「2人売れば全員で分けて身一年は遊んで暮らせますよ。」
「俺は黒髪の方が良い。」
「売る前に楽しませてくれ。」
併せて5人、しかも武器を持っている。俺は真太郎さんを見る。真太郎さんは俺と目を合わせると小さく頷いた。大丈夫だと励ましてくれたのだと思う。
「私たちは森に住んでいます。ここから居なくなるのなら手は出しません。」
真太郎さんが、輩に言った。完全にハッタリだ。俺たちにはどうしようもない。素手ならなんとかなるかもしれないが、斧や刀を持っている奴らに敵うはずがない。
「ほほう、どう手を出すんだ。まさか俺たちを殺せる気でいるんじゃないだろうな。お前ら捕まえろ。」
輩の頭が声を上げると男たちは俺たちに襲いかかって来た。
ダダダダダダダダダダダッとエアガンの音がなった。真太郎さんが撃ったBB弾が男たちに当たる。
「痛い、痛い。やめてくれ。」
男たちは次々に口に出したが、真太郎さんは撃つのをやめない。服が薄いため男たちの体はアザだらけになり、血が出ているところも多い。
「おい、お前たち怯むな行け。」
男たちは一瞬躊躇ったが、俺たちには再び襲い掛かる。
「宏基手を出せ。」
“創造”
俺の手に真太郎さんと同じエアガンが出てきた。
「撃て宏基。死ぬぞ。」
俺は真太郎さんに続けて打ち始めた。しばらく打ち続けると手下は次々に武器を落とした。
「わかった、今回は引こう。だが俺たちが殺した奴らの金目の物だけは持って行かせてくれ。」
真太郎さんが答えた。
「わかった。だが子どもは私たちのもとに来てもらう構わないな。」
「ああ。」
馬車から子どもが出てきた。1人かと思ったが、息を殺して泣いている14歳くらいの少女と今にも大声を出して泣きそうな10歳くらいの男の子が出てきた。
「これで良いな、金目の物を取るから少し待ってくれ。」
「不審な動きをしたら撃つからな。」
真太郎さんは子どもたちを後ろに体の後ろにやり、男たちにエアガンを向けたままにしている。俺も真似をして銃口を向けた。手にBB弾を撃たれ力が出ない手下の代わりに頭が荷物を持った。
「おい、ガキども金目の物はこれで全部か。隠してねぇよな。」
声を荒げて頭は言う。子どもたちは、涙を流しながら首を縦に振った。
「じゃあな、女ども。次会った時には殺すからな。」
輩は俺たちと反対の森の方に歩いて行った。男たちが見えなくなると、子どもたちは泣き出した。
「うあ〜〜ん、お母さん、お父さん。」
「ママ〜、パパ〜。」
子どもたちは息をしてない自分達の親にしがみつきずっと泣いた。