スキルを使う側
つまるところ宏基の話では、俺たちは少女になって俺たちのいた世界と異なる世界に来てしまったらしい。普通は死んだりするらしいのだが、俺たちには死んだという記憶がない。どういう経緯で来てしまったのか、宏基もわからないらしいのである。また、何故少女であるのかも宏基はわからないらしい。死んでいないのに姿が変わるということも謎である。俺たちは共に夢ではないことを確認してさらに考えた。すると宏基がボソッと言った。
「ステータスオープン」
その声に反応してか宏基の目の前に画面のようなものが浮かび上がった。
「やった、真太郎さんやりましたよ。こういうのは大体ステータスを確認できるんですよ。」
俺は改めて素の世界ではない事を悟ったとともに夢ではないのかという疑問も再び込み上げてきた。宏基は画面のようなものを見て言った。
「真太郎さん、スキルがわかりましたよ。俺は破壊です。」
さらに訳の分からないことを言った宏基に戸惑っている俺に対して、宏基はひとりで嬉しそうに解決して進んでいる。俺もダテに27年も生きてきた訳じゃないので、スキルというのは大体予想がつく。だが俺たちは操作する側であって使う側ではない。
「それはどういうものなんだ。」
使うというものがわからない俺は宏基に聞く。
「えっと、僕もわからないですけど、試してみますね。」
“破壊”
言葉にならない文字が発せられた。すると今まであった霧が晴れだした。
「やりましたよ真太郎さん、真太郎さんも教えてくださいよ。」
これは破壊なのか。どっちかというと消去な気もするがいいのだろう。いくつか疑問が残る中、宏基が嬉しそうにしているためとりあえずは深く考えないようにする。俺は自分の頬をちぎり、宏基のように言った。
「ステータスオープン」
宏基の時と同様に俺の前に画面のようなものが出てきた。これは日本語で書いてあるのか。そこには、ステータス、スキル、称号が書いてあった。ステータスは体力15、攻撃10、防御60、素早さ10、魅力95。スキルは創造、称号に美少女その1。いまいちピンとこないものだった。
「色々とわかったぞ。スキルは創造だった。このステータスとかはどうなんだ。どうして教えてくれないんだ。」
宏基は答えた。
「多分強いですから、いいんですよ。」
宏基は少し楽観的過ぎるな。高校生だから仕方ないのかも知れないが、情報は共有したい。
「情報を共有しないか。」
「別にいいですよ。」
宏基のステータスは体力15、攻撃60、防御10、素早さ45、魅力95となかなかのものだった。称号は美少女その2というもので俺と同じようなものだった。俺が守りで、宏基が攻めか。その1とその2とは中学生のような分け方だな。
「ありがとう、大体わかった。スキルはどう使えばいいのか教えてくれるか。」
宏基は得意げに言う。
「しょうがないですね、イメージですよイメージ。」
俺は創造をイメージした。何か作りたいものか。食べ物が欲しいな。
“創造”
言葉にならない文字が俺から発せられた。すると俺の前に弁当が2つ出てきた。凄いな何でも出せるのか。俺は色々試したいが何回使えるかわからないため使うのをやめた。
「凄いです、真太郎さん。これでもう安泰間違いなしです。」
宏基は異常なまでに興奮していたが、俺にはどうすることも出来なかった。
「とりあえず食べよう。」
俺たちは飯にありついた。弁当は温かく美味しかった。俺は夢ではない事を強く実感した。
「助けてくれ。」
男の声が森の方から聞こえた。
「行きましょう、真太郎さん。」
宏基は食べかけの弁当を投げ捨てて、声の方へかけて行った。俺は少し出遅れたが急いで、宏基の後について行った。