第6依頼 有名な家柄の邸宅に潜む謎 後編
懺悔したい事がある
祓者族の者として、いや
一人の人間として
到底赦されない、罪を起こしてしまった
……あれは、197○年の5月
趣味の登山をしていた時だ
遭難をして道を迷った
連絡手段も途絶え、数日間も彷徨続けた
その後、一軒の家を見つけた
生活感があり、人が住んでいるようだ
生憎、家の主は居なかったようだ
その時、腹も減っていたこともあってか
『ご飯を食いたい』と欲求が芽生えた
台所へ行って、食べ物を探している所に
家の主の老夫婦が、戻って来たのだ
『わしらの家で何をしとる!』
旦那が声を荒らして、そう言った
そこから、あっという間だ
……台所にあった包丁で、二人を殺めてしまった
息の根が止まった所を見て、我に返った
腹いせに、とんでもない事をしたと
祓者族の吾輩が、人を殺めた
必死に考えた後、遺骨を壺に納めて供養する事に行き着いた
……それから、無事に家に戻れたのだが
この事は、家族共々には話せない
せめて、生きているうちは
毎日、二人に懺悔する日々になるだろう
もし、吾輩が亡くなって霊が出始め
この手記をみたのなら
どうか、供養して欲しい
家の地下に、それはある
出来るなら、こんな事にはなりたく無かったのだが
もう戻れない
追伸
祓者族は、私の代で廃家にする。
人を殺めた人間が、亡霊を祓う資格は無い。
家族に話す理由は、追々考えるとしよう。
▪▪▪
その『手記』を見て、西前田家が廃家にした理由と、この状況が理解出来た。
祖父はこの家の最後の祓者族。
懺悔の念で、廃家を決断したのだろう。
『後継者不足の為、廃家に致す』と聞いていたが、こじつけだろう。
多分、祖父が亡くなってから老夫婦の霊が現れた。
一家離散も、最後の当主である恋樺さんが亡くなったのも、絡んでくる。
あとは、地下室さえ見つければ。
「盛り塩、持ってきたよ。」
その時、にちか戻ってきた。
私は、置く場所を指示した上で『手記』の件を話した。
「この部屋に『地下室』へ繋がる、階段があるんじゃないかな。」
部屋の中を隅々まで見た。
「……あれ?ここの畳の縁、他の縁とちょっと違う?」
にちかが、そう言った。
見てみると、ほんの少し模様が違う。
マイナスドライバーを使って、何とか畳を持ち上げると、違う板が挟まっている。
開けて見ると、地下へ進む階段が見えた。
にちかには上で待機してもらい、私は灯りを持って下に降りた。
地下室は、3畳分ほどの広さがある。
そこに、壺を見つけた。
『気』もするから、間違いない。
その壺に、『亡霊ノ御札』を貼り付けた。
【亡霊ヨ 鎮マリ タマエ】
そう唱えると、『気』は薄まってきた。
家へ入ってから、約2時間。……やっと、解決に至った。
▪▪▪
解決後、私とにちかは外へ出た。
「………。」
「大丈夫?」
にちかが心配そうに聞く。
「うん、大丈夫だよ。」
無理に笑顔を見せる。
今回の依頼は、いつも以上に神経を使ったような気がする。
元は同じ種族。親近感があったし、あの『手記』は見てて辛い。
亡霊の耐性はあっても、いつかは別の理由で倒れそうな気がする。
廃家にする理由。それ、なんとなく分かるような気がしてきた。
▪▪▪
それから、家は少し建て替えられ、新たな家族が入ったと聞いた。
何事もなく過ごしているみたいだ。
それなら、ホッとした。
……まあ、それが本来の仕事だよね。
因みに、余談だけど。
篠丸君は、大会の予選突破したと聞いた。
これもこれで、一安心。