第5依頼 有名な家柄の邸宅に潜む謎 前編
「……夏帆、ちょっといいか。」
ある休日、私はお父さんに呼ばれた。
「はい。」
お父さんの部屋に入ると、神妙な面持ちで居た。
「呼び出して済まない。実は話したい事があってな。」
「はい……?」
「西前田家の事は知っているよな。」
西前田家と言えば、隣町の桐磨町に住んでいた、『祓者族』だった家系だ。
昭和後期から平成初期頃に、祓者族の廃家手続きをして、普通の地主として生活していた。
最近になって一家離散の後、まだ若かった末娘の女性が『当主』として過ごしていたと聞いている。
「それが、どうかしたんですか?」
「最後の当主だった恋樺さんが、最近若くして亡くなってな。その後、居抜きで親戚や他の人が住んで居たんだが……どうやら、1ヶ月も経たないうちに引っ越ししているんだ。」
「当主が、若くして亡くなった……?」
「どうやら、夏帆も同じ違和感を持ったようだな。恋樺さんは30にも満たないうちに、亡くなったと聞いている。」
どうやら、ここ最近……不動産屋がその事を謎に思って、私たちに依頼をしてきたと言う。
でも、案件に近いような依頼をどうして私に話したのだろう。
聞いただけで判断するのはいけないが、同じ祓者族だった事もあるから、ここはお父さんの出番だと思うけど。
「判断と、実力が付いたと見受ける。夏帆が請け負った今までの依頼より、危険度は高いと思うがやれると想ってな。」
ちゃんと見てくれているんだ。
……だったら、やれるだけやってみるしかない。
「分かりました。解決してみます。」
「さっきも言ったが――夏帆の実力では――危険度は高い。準備は怠らず、冷静な判断を常に持つように。」
▪▪▪
翌日、桐磨町へ赴いた。
不動産屋さんには事情を話していて、合鍵を貰っている。
「篠くんの試合、上手くいくといいなぁ。」
にちかがそう呟いた。
そう、今日はうるしの試合だ。
『依頼が入って観に行けなくなった』とにちかがメールをすると、『お二人の分の声援は届いていますよ。頑張ります。……そちらも気を付けて。』と返事が来た。
「にっちゃん、篠丸君の事……もしかして?」
「そ、そんな事無いってばっ!」
にちかはそう言って、顔を少し赤らめた。
そんな話をしていると、西前田家の家に着いた。
家の広さは、市葉崎家と変わりは無いように見える。
合鍵を使って、中へ入る。
最後に入居していた人が住んでいたのは、ほんの1週間前と聞いている。
リビングやキッチン、寝室などは荷物が散乱している。
何だか、『居心地が悪くてそのまま出ていった』ように見受ける。
「………?」
奥地へ進むにつれ、何か嫌な気がしてならない。
「最後に見る部屋って、恋樺さん……だったっけ。その、お祖父さんの部屋だったみたいね。」
にちかが手元の資料を見て、そう言った。
戸を開けて見ると、一気に背筋が凍るのが分かった。
……部屋一面に、御札が貼り巡られていたからだ。
▪▪▪
「な、何よ……これ……」
にちかも絶句に近い様子を見せた。
居心地が悪い理由は、多分この部屋が絡んでいる。
部屋に入った途端、『気』が張っているのが分かる。
とても息苦しい。……初めての『道導』よりも危険が迫っているのがよく分かる。
――お父さんが、『準備を怠るな』って言っていたのは、こういう事なのか。
「大丈夫?」
にちかが心配そうに声をかける。
「………亡霊の気配が凄いの。多分、隙を狙って抜け出すかも知れない。」
『結界ノ御札』は、こういう事態を想定していないせいか、多くは持ち合わせていない。
見た感じ、貼ってある御札は『結界』に近い物と見る。
間に挟むにも、守りは弱すぎる……
「『盛り塩』はどうなの?」
にちかがそう言った。
「……それだ!」
それも含めれば、大分補強される筈だ。
にちかが居て、本当によかった。
台所に行って、盛り塩を作るように頼んだ。
▪▪▪
『結界ノ御札』を貼った上で、私はこの『気』が何なのか手掛かりを探した。
机の引き出しの下に、A5サイズのノートを見つけた。
それを開くと、『懺悔したい事がある』の一言から始まっていた。
……多分、これは重要な意味を持つかもしれない。
そのノートを、読み進める事にした。