表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

第3依頼 林間学校でまさかの事件?

「さて、皆さん。来週は2泊3日で林間学校と臨海学校を行います。今週末までに、希望を書いて先生の所まで提出してください。」

朱坂先生が言った。


毎年、松葉東高校2年生では、林間学校と臨海学校どちらか選べる行事がある。

「海は苦手だから」、との理由で林間学校を選んだ。

にちかも、林間学校を選ぶと言っていたな。


まさか、あんな事が起きるとは思いもしなかったけど。


▪▪▪


当日になった。

最寄りの秋川駅から、集合場所である山側にある白野駅に向かう。


駅前に着くと、もう既に人は集まっていた。


「おっはよぉー!」

にちかが声をかけた。……やけにテンションが高い。


「待ちに待った、林間学校だぁ……!」

あー……楽しみにしていたんだっけ。


松葉東高校は『修学旅行』は存在しない。

その代わりに林間学校か臨海学校、どちらかを選択するのが伝統との事。

組関係無しに、仲を深める為らしいが。


「皆、おはよう。」

担当の夏海先生が声をかけた。

五組の担任の先生で、副担当は三組担任の蒼名先生だ。


「とりあえず、点呼取るぞ。」

組毎に並んで、点呼を取る。

集合時間内には全員集まっていた。


そこに、今回場所を借りる「八羽織(やはおり)山キャンプ場」のバスがやって来た。

皆、ぞろぞろと入り出発した。


「そう言えば、前々から『海が苦手』って言ってたけど、あれって何で?」

移動途中、にちかがそう聞いてきた。


「ああ、それはね……潮の水がどうも身体に合わなくて。少し触れただけでも、全身が痒くなっちゃうの。」


「食塩水とは違うの?」

その言葉に、頷いた。

こればっかりは、「他人とは異質の身体」以外は分からない。

………もしかして『祓者族』だからと思ったが、お父さんは大丈夫と言っていたな。


▪▪▪


1時間程かけて、キャンプ場へ着いた。

一般客の敷地ではなく、団体客用の敷地へ入る。


結構な山の中だけど、キャンプ場の敷地はしっかりと整備してある。


これから3日間、キャンプと日帰りの山登りをする事になっている。

私は、にちかを含め女子3人1組でテントを使う。


「二人とも、よろしぅね。」

同じテントに泊まる、二組の黒薙凪沙(くろなぎなぎさ)さんが話しかけた。


凪沙さんは、松葉市の有名な一流旅館『黒薙屋(くろなぎや)旅館』の跡取り娘だ。

ちょっと独特な言い方をするけど、とても礼儀正しい人でちょっと憧れている。


「……何だか、一緒に泊まる(わたくし)らって、『跡取りをするかも三人娘』みたいな感じねぇ。先生方、知らずに組ませたと思ぅけれど。」

ふと、凪沙さんがそう言った。


私の家系の事も、にちかの実家の神社の事も……同じ学校に通っている、凪沙さんは知っている。

だからこそ、そこら辺は言い得て妙だなと思った。


▪▪▪


その日は、キャンプ場のオリエンテーリングを行った。

近くの林や、川沿いを歩いて回った。

それから、夕飯の支度をしようとしたその時……事件が起きた。


「なあ、篠丸(しのまる)の奴見なかったか?」

同級生である坂川君が、そう聞いた。


彼……篠丸うるし君は五組の子だったが、坂川君と同じテントに泊まるっけ。


「いや、見てないけど。」

にちかがそう言った。


(たきぎ)を取りに行く、と言ったっきり戻って来ないんだよ。」


「先生には()うた?」

凪沙さんがそう聞いた。


「言ったよ。探しに行って貰っては居るんだけど。俺も俺で、一応皆に聞いて回っているんだ。」


……何か嫌な予感がする。


《……た、たすけ……てっ……!》


その時、篠丸君の声がした。でも、様子がおかしい。


「なつ?どうしたの?」

にちかが聞いた。


「『助けて』って篠丸君の声がした。語りかけるようだったけど、何かおかしいのよ。」


「……それ、探しに行かんと不味いと思うわ。此処は(わたくし)に任せて、二人は行ったらええ。」


▪▪▪


凪沙さんの後押し(ひとこと)で、私とにちかは篠丸君の捜索に出た。

念のために (と言うか、肩身離さず持っていなきゃいけない) 、『道導(ハライ)』道具も持っていく。


坂川君の証言で、薪を取りに行ったとされる、キャンプ地より北東の方面へ向かった。


嫌な予感は、徐々に『(ケハイ)』として探知してきた。


「……あれ?なんか雰囲気違う。」

かなり進んだところで、にちかがそう言った。


「多分、ここら辺は『自殺の名所(ホットスポット)』。……にっちゃんまで変な感じに捉えるなら、相当危ない場所ね。」


八羽織山の一部は、整備していない所だとかなり草木が生い茂る。

迷い混んだら最後、とは言い過ぎだが……それを逆手に取って『自殺』が多発している。


自殺の名所(ホットスポット)』は、特に亡霊(レイ)の溜まり場となる場所だ。

(ケハイ)』が強まるのは、そういう事も関連してくる。


「……あれ、篠丸君?」

にちかが指した方を向くと、人の姿が見えた。


「………っ!?」

その姿はやはり、篠丸君だ。けれど、『(ケハイ)』がする。


「……初めてみた。あれ、『身移(ミウツリ)』だわ。」


身移(ミウツリ)』は、亡霊(レイ)が生きている人間に乗り移ることだ。

彼に憑いた亡霊(レイ)は中霊だろう。


体内から亡霊(レイ)を祓うには、『分身(ミャライ)』を行う必要がある。

中霊までは生身の人間を傷付けずに、『分身(ミャライ)』は出来る。


しかし、強霊は『身移(ミウツリ)』した人間の魂まで侵蝕してしまう為、『特殊分身(アチェラミャライ)』をして成仏させる必要がある。

その時、『身移(ミウツリ)』した人間の魂をも成仏するため、これを行ったあとの2日間は昏睡状態に陥り、そのまま亡くなると聞いている。


▪▪▪


『……お前ら、俺らのテリトリーに入るな』

身移(ミウツリ)』した篠丸君が言った。


「別に、貴方達のテリトリーに入ろうとして入った訳ではないわ!」


『黙れ……っ!』


そのまま、私に襲いかかった。

手から、『霊球』と呼ばれるモノを出してきた。

身移(ミウツリ)』した亡霊(レイ)が使う技の1種。

常人に当たったら、さらなる『身移(ミウツリ)』の被害に遭う。


「にちかは木陰に隠れて!」

「わ、分かった。」


何とか接近した時に、篠丸君の表情に違和感を持った。

眼が不自然に動くのである。


中霊は身体を乗っ取る為、普通はそんな事は起きないと思う。

……さっきの呼び掛けも、絡んで来るのかな。


ならば、一つ試してみよう。


額に念を集中させ、 (篠丸君、聞こえる?) と心の内に問いかけた。


《……一組の、市葉崎さん……?》


返事が返ってきた。


(貴方には、無事にお祓いをする為、やって欲しい事があるの。それは―――)


『心の内に問いかけても無駄だァ!』

『霊球』を出そうとした瞬間、身体が止まった。


『どうしてだ……?』

亡霊(レイ)自身、困惑している。


試したのは、その通り「身体を止める事」だ。

中霊でも、眼が不自然に動くなら、身動きが出来る。

身体を止められる、そう考えた。

弱霊に取り憑かれた時に使う、「(あばら)の所に力を入れて止める」。

それを伝えていた。


中霊なら持ってあと3分。今のうちに……!


亡霊(レイ)ノ御札』を肋に添える。


亡霊(レイ)ヨ 生キル者カラ 分身(ミャライ)セヨ】

と『分身(ミャライ)』用の呪文を唱える。


上半身から、亡霊(レイ)が仰け反るように現れて消えていった。

篠丸君の身体が、私に寄り掛かる。


「……もう、大丈夫よ。」


▪▪▪


それから、何事もなく林間学校は終わった。


「あの、あのっ!市葉崎さん。本当にありがとうございましたっ!」

帰りの秋川駅の前で、篠丸君がそう言った。


「いいよ。私がやれることをやっただけ、だしね。」


「ご恩を返したいんです。……その、助けて貰ったので。」


見返りは要らないのになぁ。……それだったら。


「じゃあ、私達の仲間。退散組の三人目。」


▪▪▪


篠丸うるし


松葉東高校 二年五組


中霊でも身体は動かせる、と言う特殊な体質を持っている。

弓道部で、エース級の実力がある。


実はにちかが少し気になっている、らしい。


にちか「えっ、それ初耳。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ふむふむふむ 楽し―な(*´▽`*)と読んで にゃっ? (; ・`д・´)…… そして (;゜Д゜) ラスト ε-(´∀`*)ホッ ええなぁ、ホラーの王道いっとる [気にな…
2021/12/23 07:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ