第2依頼 甘く、苦い想いを持つ霊
「市葉崎さん、ちょっといいかな。」
ある日の昼休み、同級生の佐崎さんが話しかけてきた。
「はい?」
そのまま、屋上へ向かった。
「ごめんなさい、皆の前では話せない事で。」
申し訳なさそうに、佐崎さんは言う。
「大丈夫ですよ。……それで、話ってのは?」
「実は、親戚が話していた事なんだけれど――」
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週末、隣市である野加川市のとある場所へ赴いた。
「某アパートの1室にて、男性の不審死が発見された……と。」
にちかが、持ってきた新聞紙の切り抜きを読んだ。
そう、そのアパートまで見に来たのだ。
佐崎さん曰く、『警察は事件性は無しと判断していたが、不自然なところがある。もしかして、怨霊の仕業かも』と言っていた。
そのアパートの前で、献花をしている女性が居た。
横顔は、如何にも悲しそうな顔をしていた。もしかして、親族なのかな。
「……あら?見かけない人ですね。」
献花を終えた、その女性が私達を見てそう言った。
「あの、実は――」
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近くの喫茶店へ入った。
事件を聞いて、やって来たと話した。
「あの子、あれ程言うなと言ったのに……話しちゃったのね。」
その女性……出島葵依さんはそう言った。
「……献花に訪れたのはご親族だから、ですか?」
にちかが聞いた。
「ええ。私の弟、なんです。」
葵依さんは、事件の事を少し話してくれた。
弟の龍生さんは、営業マンとして働いて、不自由なく暮らしていた。
しかし、1ヶ月前に同僚がアパートの部屋で亡くなっている、龍生さんを見つけたとのこと。
睡眠薬をかなり飲んだ事によって死亡したが、事件性は無しとされ自ら命を絶ったと判断された。
ただ、自殺の理由が見当たらない為、葵依さん自身で未だに事件を追っているとも話した。
「あの、亡くなる前に何かおかしな事を言っていませんでした?」
私はそう聞く。
「そう言えば……あれは今年のホワイトデーが過ぎた頃、だったかしら。その頃から『寒気がして、幻聴が聞こえる』、と言っていました。そのホワイトデーの日、龍生の同級生が自殺したのが原因かも――」
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葵依さんが喫茶店から、去った後。
「ねえ、どう思う?」
テーブルの真正面に座り直した、にちかが言った。
「その、龍生さんの同級生が気になるわ。自殺の理由、調べてみる必要がある。最悪、その同級生が亡霊になった可能性はあるかもしれない。」
帰る前にもう一度、そのアパートへ赴いた。
立入禁止は既に外されているが、中にはまだ少し荷物が残っているみたい。
「葵依さんに荷物の整理を頼まれた」、と (少々無理があるが) 管理人さんに話を通して部屋を開けさせて貰った。
部屋の中、荷物が残っているせいもあるが、生活感がまだ残っている。
今のところ、『気』はしない。
だけど、普段の空気感とは違って淀んでいる。……まだ、龍生さんの霊が居るのかも。
「……あれ?」
にちかが何かを見つけたようだ。
机の片隅に、新聞の切り抜きがあった。
そこには、『留置所に留置していた女性が、自殺か』と書かれていた。
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あの後から、見つけた記事の事を調べた。
彼女の名前は、逸八マミと言う名で、当時はここと違う土地に住んでいた。
起こした事件、と言うのは……隣人の男性に睡眠薬を混ぜたチョコレートをあげた上、風呂で溺死させたとの事。
本人曰く、『私を好きだから、やった。当然の事をしたまでよ。』と狂気的な発言を詳述していた。
留置所で自殺をしたのが、『3月14日』だった。
遺書は見つからず、自殺の理由は明らかにされなかった。
「亡くなってすぐ、亡霊になる事ってあるの?」
にちかが聞いた。
「怨が強ければ、早くても2~3日で亡霊になるとお父さんから聞いているわ。」
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それと、龍生さんと彼女の関係である「中学の同級生」の件は、野加川市にある出身校を訪れた。
本来は話して貰えない事実ではあるが、そこら辺はお父さんである護郎から事情を話して、通して貰った。
「逸八マミさん、ね……。」
事務員の人が、当時の資料を出した。
「2年の春に、波戸市 (北の隣県にある市) から転校して、3年になる前に松葉市に転校していった、と書いてありますね。」
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最大の疑問、それは何故彼の所に姿を現したのか。
もう一度、葵依さんに話を聞いてみた。
「あの後、思い出した事があります。その、マミさんでしたよね。彼女から貰った、睡眠薬が入った食べ物を食べた事がありまして。龍生は無事だったですけど。……その、彼女は他の人にもあげていたと噂程度には聞いていますが。」
繋がった。紛れもない、彼女は亡霊だ。
今までに、食べ物をあげていた人に逢おうとしている。
……そうなると、次の被害者が出るはずだ。
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亡霊自体の進展は無いまま、事件を追って4日目の事だ。
松葉市のマンションで、不審死が発見されたと聞いた。
被害者は、龍生さんと同い年の男性かつ彼女の同級生、死亡した理由も睡眠薬の乱用だった。
そのマンションは、転校先である中学校の近くだった。
放課後、私とにちかは急いでその場所へ向かった。
まだ亡霊が、居るかも知れない。
辺りは、警察官やら記者やら居て、やけに物々しい。
「……っ!」
アパートの方から、『気』がする。
……間違いない、まだ居る証拠だ。
「なつ?……もしかして?」
にちかの言葉に、頷く。
とりあえず、人目の付かないアパートの裏側へ向かった。
【亡霊 汝ノ 現ヲ 見セヨ】
呪文を唱えると、ジャージ姿の女性が現れた。
彼女がマミさんの亡霊だ。
『あなた 私が 見える の?』
「ええ。……今から、貴女を成仏しますわ。」
その時、彼女は不気味な笑みをした。
『いいわ もう 未練は 無いもの』
返事はあっさりとした物だった。
「……」
このまま、成仏をしてはいけないと思った。
「貴女、彼らを死に追いやった理由は何なの?」
直球だが、聞きたいことを聞いた。
『あの世 だったら あの人 達と 過ごせる でしょう? それが 私の 願い なの……』
その理由を聞いた途端、思い出した事がある。
彼女は幼い頃に養子に出された、と学校の事務員さんが言っていた事を。
もしかしたら、寂しさを埋める為にやったのかもしれない。
でも、理不尽にも程がある。
生きる理由がある人達を、死に追いやること。
残された家族が悲しむことも知らないで……。
「貴女は、やってはいけない事をした。……地獄に落とされるでしょう。」
そう言うと、また不気味な笑みを浮かべた。
『それでも 別に いいわ』
彼女は、両手を広げた。
そこへ、刀を振り上げると、彼女は消え去った――
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葵依さんに、怨霊の仕業で龍生さんが亡くなった事を話した。
葵依さんは、「そうですか」そう言った。
「……その、申し訳ありませんでした。本来は私がしっかりしなければ、と思って居たのですが。」
「謝らないでください。私がやった事は、お節介の延長線みたいな事ですから。……これで、龍生さんも安心して成仏出来ると思います。」
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今回の事件は、なかなか大変な事だった。
……でも、弱音は吐いちゃいけないよね。
これからも精進しなきゃいけないな。
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この話は、自作小説「ちょこれいと」の後日談となります。