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第1依頼 公園にある電話ボックスに現れる霊

「ねえ、知ってる?知奈原(ちなばら)公園にある、あの赤い電話ボックスなんだけど………」


▪▪▪


松葉市の南側にある、知奈原公園。

そこに、真新しい電話ボックスがある。

何年か前に、拡張計画があって、そこに出来たと聞いている。


夕方、にちかと来てみた。


「……ほんと、ここに幽霊が出るの?」


依頼書には、

『午後10時頃から、電話ボックスの中に入ると幽霊が見える。電話をかけようとしたら、呻き声がする。誰も居ないのに、ガラスを叩く音がする。』

と書いてあった。


「今んとこ、あまり気配はしない。やっぱり、夜にならなきゃ駄目っぽいね。」


祓者族(はらじゃぞく)』には、亡霊(レイ)を察知する能力は2つある。


1つは、『亡霊(レイ)(ケハイ)』と呼ばれる気配を察知する能力。

もう1つ、それは『亡霊(レイ)(スガタ)』と呼ばれる実際の姿が見える能力。

(スガタ)』には、呪文を唱える必要がある。


多少嫌な『(ケハイ)』はするものの、『(スガタ)』を現すにはまだ早いかもしれない。


「じゃあ、また夜になったら来ようか。」

にちかがそう言った。


「そうだね……」

その時、電話ボックスの裏側に気になるものを見つけた。


「これ、なんだろ。」


少し汚れている、小さな木の御札だ。

……文字が書かれている。大分薄くなっているが。


「読みにくい………えっと、南光寺って書いてあるわ。」


「南光寺……」

にちかが少し考える様子を見せた。

何か思い当たる節があるのかな。


「ここら辺って、確か地元の武士が攻めてきた他の武士と戦った地のはず。その南光寺ってのが、戦死した武士達を祀ってるって話を父様から聞いたのよ。」


流石は神社の娘。地元(ここら)の歴史には詳しいと思った。

……でも、なんでこれが落ちていたのだろう。


「一回、持ち帰ろう。何か役に立ちそうね。」


――その御札、今回の依頼に関係していたのは、追々分かる事となる。


▪▪▪


夜の10時過ぎ。

あの電話ボックスへ、また来た。

人通りは少ないし、お巡りさんには見つからないかも。


「うう、灯りがあってもおっかないわ。」

にちかがそう呟いた。


外灯はちらほらあるが、にちかの言うとおり確かにおっかない。


「……中に入ってみる?」

「そうね。」


二人は電話ボックスに入った。


「あれ、意外と普通。何も起こらないじゃん。」

にちかがそう言った瞬間。


「………っ!?」

身体が重たい。近くに亡霊(レイ)の『(ケハイ)』がしてきた証拠だ。


「なつ、大丈夫!?」

その言葉に、静かに頷く。


亡霊(レイ) 汝ノ (スガタ)ヲ 見セヨ】

(スガタ)』の呪文を恐る恐る呟いた。


……目を外に向けると、何十人の上半身の亡霊(レイ)が見えた。

ひっきりなしに、ボックスのガラスを叩いている。


「ヒィッ!?」

思わず声が出た。

初めて見たのもあるし、ここまで大勢の亡霊(レイ)が出るとは思わなかったからだ。


「本当に大丈夫!?外に出た方が良いんじゃない?」

にちかは、扉のノブに手をかけた。


「駄目っ!今出たら亡霊(レイ)に呑み込まれるっ!」

下手に出たら、呪われる。……私は兎も角、にちかが心配だ。


この亡霊(レイ)達の力は、多分弱霊ぐらいだろう。

ただ、この相手の数じゃ私一人の能力じゃ太刀打ちが出来ない。


「どうするの。」

「……『結界(マモリ)ノ御札』を取り付けて、朝になるまで待つしかない。」


今、私が出来るのはそれしかない。


▪▪▪


あれから、数時間が経っただろうか。

ガラスを無理やり叩く、嫌な音が響く。


「ほ、本当に大丈夫?割れたりしないよね?」

にちかは、そう呟く。


「……多分。」

割れたら、仕方がない。……祓うしかない。


その時だ。

ガラスにヒビが入る。


「キャッ……!」

にちかは悲鳴を上げる。


「にちかっ!伏せてっ!」


完全に割れるのは時間の問題だと思ったが、ヒビの隙間から亡霊(レイ)の手が伸びる。

私は持っていた(カタナ)を振りかざした。

数体の亡霊(レイ)が姿を消す。


(凄い、こんな威力だったなんて)

って、そう思っている暇はない。


戦闘体制を整えようとした瞬間、日の光が差してきた。

日の出の時刻になったのだ。


亡霊(レイ)も然り、日の出には一旦姿を消す。

結局、全ての亡霊(レイ)は成仏出来なかった。


▪▪▪


2日後、拾った御札に書かれていた『南光寺』に赴いた。

そこの住職に、御札の事を聞いてみた。


「なんとまぁ、それが見つかるとは。もしかして、あの公園の。」


話を聞くと、拡張前の場所は『祀り石』と呼ばれる石を置いていた場所だった。

(あの拾った御札も、供養用の御札として置かれていた。)

そこには争いで亡くなった、身元不明の死者を祀っていたのだが、拡張計画により撤去。

その場所に、例の電話ボックスが置かれた。


住職がその時、反対意見を出していたが役人には届かなかったらしい。

その祀られていた霊が、いつの間にか亡霊(レイ)として姿を変え、現れたと思った。


亡霊(レイ)が起こした事も、あの時拾ったこの御札も……。

もしかしたら、存在に気が付いて欲しかったからなのかな。


その後、『不慮の故障』として電話ボックスは壊された。

更地に戻されて、新たに供養石を置いた。

それ以降、霊の話は無くなった。


▪▪▪


住職からあの話を聞いた夜。

家の縁側で初めての『道導(ハライ)』を、ずっと回想していた。


結界(マモリ)ノ御札』頼りだった。

あの判断は良かったのか、正直わからない。

結局は、別の意味で成仏をしたから良かったものの……(カタナ)もあまり使えていないし、まだまだ半人前なのかな。


「夏帆、初めての『道導(ハライ)』……お疲れ様だな。にしても、大丈夫か。腑に落ちない顔をしているが。」

父が声をかけた。


「えっと、その。」


図星を言われ、さっき思った事を話した。


「……そうか。ならば、一つだけ言っておこう。」


父は、夜空を見上げた。

「『道導(ハライ)』には、正しい行動(こたえ)は無い。色々な成仏の仕方はある。経験を積んでこそ、『道導(ハライ)』の幅が広がる。」


そう言った父の顔は、何か物悲しそうな感じがした。

どうしてその表情をするのか、その時は分からなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カタカタカタ(((;゜;Д;゜;)))カタカタカタ きききききき近所に ぼやーっと立つ電話ボックスありますねん こんなん読んだら近寄れませんやん カタカタカタ(((;゜;Д;゜;))…
2021/12/18 11:42 退会済み
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