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竜華燕のセラピスト  作者: 高杜 凪咲
Magic1 知らない世界
6/14

地震によって、露見する

 翌日。


 休日なのでゆっくり過ごす一家は、おはようとは言えない時間に起き出した。

 届いていた食事を腹に収めると、華菜は食器を片付け、牧はダイニングで椅子に座って新聞を読んでいる。


「いつの時代も、世知辛せちがらい世の中だな」


 一面いちめんには政治家の不祥事ふしょうじ。めくれば殺人、強盗、窃盗せっとう、増税、リストラ、長時間労働、パワハラ、自殺など、社会の闇を反映するような暗いニュースの見出しがおどる。


「光あれば影があるって、はくはよく言っていたけれど・・・・・・」


 はくとは、随分前に亡くなった神官の晋槻しんつきはくめいのことだ。とても頭の良い人で、“混迷こんめいの世の良心りょうしん”ともしょうされた、100年後の世の宰相だった人である。


 なつかしい人の名が出てきて、牧が「そうだな」と昔に思いをせると、未汝が二階から階段を下りてくる音が聞こえた。

 未汝の知らない未来の話をしてはまずい。


 そう夫婦が思ったその時、カタカタと蛍光灯が揺れ始めた。地震か?と天井てんじょうの蛍光灯へ目をやると、ガタガタッと大きな揺れが襲う。


「華菜!!」


 揺れが酷く、シンクをギュッと掴んでその場にしゃがみ込んだ妻の上に、え付けられたたなから、なべやらふたやらが落ちてくる。玄関の方からは、ゴトッと何かが落ちた音がした。

 落下物から頭を守るように、華菜は体を丸めた。その背に落ちてきたふたが当たって、華菜が痛っと声を上げる。


 十秒ちょっとで、揺れは収まった。華菜はそばに落ちたふたを拾って立ち上がる。


「怪我、ないか?」


「ええ、これがちょっと当たっただけ」


 ふたかかげて見せる妻にホッとすると、そういえば、と地震の前に階段を降りる音がしたことを思い出す。


「未汝は?」


 牧が階段があるだろう天井てんじょうを見上げて言うと、華菜も地震が起きる前に階段を下りてくる足音を聞いたのを思い出した。


「落ちてないといいけど」


 心配顔で言う華菜と目を見合わせると、牧は新聞を畳んでテーブルの上に置き、リビングを出る。


「未汝、大丈夫か?」


 声をかけても返事がない。廊下を歩いて階段を下から見上げるが、未汝の姿はどこにもなかった。


「いない?」


 牧は階段を上り、未汝の部屋をのぞくがやはり姿はない。一階に下りてくると、華菜が階段下に立っていた。


「未汝、いないの?」


「あぁ、どこにいったんだ?」


 いぶかし気にまゆを寄せながら、会話をしつつ階段を降りる。


 もしかしたら外へ避難したか?と、靴を確認しようと玄関に目をやると、たたきは水浸みずびたし。そのしたたる水の流れを目で追うと、どうやら花瓶かびんが倒れたようだ。水が空になった花瓶は起こされているが、靴箱の上が濡れている。そしてそのかたわらには、いつもは壁にかっているはずの絵が置かれていた。


 夫婦は、普段絵がけられているその場所に、目を向ける。

 絵の裏にかけてあった“時のとびら”のかぎが、なくなっていた。


「牧・・・・・・」


 華菜が瞠目どうもくして口元を両手でおおうと、牧が舌打したうちしそうな表情で呟いた。


「まさか、未汝のやつ・・・・・・」


「牧、先に行って。戸締り確認してからすぐに行くから。とりあえず、このことをに・・・・・・」


「分かった。じゃあ向こうで」


 そうして牧は慌てて身支度みじたくを整えると、靴をいて100年後の未来へと旅立ったのだった。




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