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竜華燕のセラピスト  作者: 高杜 凪咲
Magic1 知らない世界
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両親の隠し事

 入浴を済ませて、牧は再び寝室へと戻ってきた。

 ベッドの上で、顔にパックを貼ってスキンケアをしながら、旅行雑誌をめくっている妻の手元てもとのぞき込む。


「今度の公務こうむ先か?」


「ええ。観光地、ちょっとなら立ち寄らせてくれるって言うから、どこがいいかと思って」


 パラパラとめくりながら、悩ましそうな顔をする。


「牧、どこか行きたい所ある?」


 見上げてくる華菜と目線を合わせるべく、ベッドに腰かけた牧は、「そうだな」と頭の中にある引き出しを開けた。


「この地域の伝統工芸はしぼりの染め物だったと思ったから、染めの見学とかどうだ?」


 いい考えだと言わんばかりの夫の提案に、妻の顔が不機嫌になる。


「・・・・・・それ、ほぼ仕事よね?伝統工芸は後継者不足で困っているから、私達が立ち寄ることで観光客増やして収入源を増やそうって計画でしょ?」


「まぁそうだが、俺達が動くならそれなりに活気かっきづかせて帰って来ないと、意味がないだろ?」


 正論だ。正論なのだが、華菜が不服ふふくそうな顔をする。どうやら、そういう回答ではないものを期待していたらしい。


「それはそうだけど、ほら、折角せっかくデートできるかもしれないのに。仕事がからむの味気あじけないじゃない」


 不機嫌になった理由はそれか。牧が嫌そうな顔をして妻に目を向ける。


「周りをマスコミとボディガードに囲まれてか?そんな監視だらけのデートほど、気の抜けないものはないだろう?だったら仕事してた方がマシだと思わないか?」


「マシかどうかじゃなくて、楽しいかどうかが重要なのよ」


 楽しさを公務に求めるのは、求めるモノが間違ってないかと思う牧だ。


「華菜、お前、昼間の2時間ドラマのようなこと、期待してるんじゃないだろうな?」


 湯けむりぶらり旅殺人事件!みたいな展開を期待しているのではと疑う。アリバイには電車の時刻表を用いて、不可能犯罪に見せかけた完全犯罪を演出するのだ。


「あら、そしたら牧は黒幕ね?」


「華菜は首を突っ込みたがる、葬儀屋か記者辺りの役柄やくがらか」


 ドラマの配役を想像して役どころを当てはめると、どちらともなくくすりと笑い合う。


「牧は敵に回したらごわそうだわ」


「華菜こそ、どんな無茶むちゃをすることやら」


 突拍子とっぴょうしもないことをやって、ハラハラさせる所はドラマの配役はいやくそのものだなと思う。


「それにしても未汝、急にどうしたのかしら?今まであの部屋を気にしたことなんて、なかったのに」


 華菜が頬に手を当てて眉根まゆねを寄せると、牧が深い息をつく。


「このまま、何事もなく成人を迎えてくれると、頭を悩ませることなく済んで良いんだが・・・・・・」


「そうね。でも、家族がそろうことのない未来は、ちょっと寂しいわね」


 パックをがしたその表情かおには、さみしさかなしさが混ざった複雑な感情が浮かぶ。


 家族がそろうことのない未来。そう言われると、牧もせつなさを感じる。


仕方しかたのないこととはいえ、娘達には、本来背負う必要のなかった試練を背負わせてしまったな。未汝にいたっては、何も知らずにいられるように、嘘を教えているわけだし」


 両親に嘘をつかれていると知ったら、あの子はどう思うのだろうかと、牧は心配していた。


 墓まで持っていく秘密を胸の内にかかえて、やっと一人前。世の中で薄汚れたら立派な大人の仲間入り。と昔聞いたことがあるが、自分の子供に嘘をつくような大人は、果たして立派なのだろうかと疑問に思う。


「そのうちバレてしまうかもしれないわね。未沙も未汝も、牧に似てかんがいいから」


「勘・・・・・か。いつまでも隠し通すのは、無理かもしれないな」


 珍しく吐露とろした弱音に、華菜はくすっと悪女の笑みを浮かべる。


どの(・・)隠し事かしら?隠し事なんて山のようにあるわよ?」


「例えば、華菜の本当の生年月日とか?」


「ただの会社員ってのもね?他にも・・・・・・」


「華菜」


 言いかけた言葉をさえぎって、牧は右手の人差し指を、そっと自分のくちびるに当てた。静かに、とジェスチャーする。


「未汝が起きていて、それを聞いたら困るだろう?」


 先程、いつまでも隠すのは無理かもしれない、と弱音をいた本人がそう警告し、華菜は一瞬(はと)豆鉄砲まめでっぽうを食らったような顔をしてから、小さな花をそのかんばせに咲かせた。


「それでこそ、いつもの牧だわ」


「どういう意味だ?」


「ご自分でお考えあそばせ」


 そして夫婦は、顔を見合わせて静かに笑い合うのだった。




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