両親の馴れ初め
「まずこの試練は、“時空の法則”と言われる法則に縛られた為に生じた試練です。原因は貴女のご両親。お父様である王は、本来、100年前の時代で生きておられるはずの方でした」
当時王女だった母親の華菜は、開けてはいけないと言われていた“時の扉”を開き、100年前の時代に落っこちてしまった。そして落っこちた先で、牧とその幼馴染達に拾われたのである。
「未来から来たの。私、王女なのよ」と、おかしなことを口走る迷子を拾った牧達は、警察に送り届けた。正直、関わったら面倒そうだと思ったので、早々に警察に届けたらしい。
だがその夜。その迷子は牧の兄、伊澤徹也によって自宅へとやってきた。徹也は当時警察官になりたてだった為、上司から迷子の世話を押し付けられたのである。
牧の姉と妹は、この迷子を大層可愛がって、親御さんが迎えに来るまでウチにいればいいわよと、居候を歓迎した。一応育ちの良い王女様だ、姉達には物珍しさも手伝って、可愛い着せ替え人形を手に入れた気分だったのだろうと思われる。
特に問題も起きず、平和に一つ屋根の下で暮らしていたある日、酷い雷雨の夜があった。
華菜はカミナリが大嫌いである。その轟音に目が覚めた華菜は、暗い部屋の中で一人ぼっちではいられず隣の部屋へと駆け込んだ。
牧の姉妹のところへ駆け込んだつもりが、実際は牧の部屋に駆け込み、そのベッドに潜り込んだのである。
「・・・・・・文花さん、ごめん。それつまり、お父さんが悪いって話?」
展開が分かった。というか娘としては聞きたくなかったと、未汝の顔に書かれた。文花が困った顔で、「早合点ですよ」と苦笑いする。
当然、自分のベッドに潜り込まれて、牧が目覚めないわけはない。
何事かと飛び起きれば、華菜がヒックヒックとしゃくりあげながら、牧にしがみ付いて涙をボロボロとこぼしていた。
何がどうしてこうなったのかは分からなかったが、泣いている女の子を締め出すわけにはいかず、牧は仕方なく慰めることにした。
雷が収まるまで、そっと抱きしめて頭を撫で続けてくれた牧の優しさに、華菜は惹かれた。
が、酷い雷の音を聞いて、大丈夫だろうかと心配して起き出した姉妹にそんな光景を見られた牧は、不名誉な疑いをかけられてしこたま怒られ、やっぱり関わるとろくなことにならないと思ったそうだ。
それから暫くして、未来からお迎えが来た。
どうやら過去に落ちたらしいことは分かっていたが、どこにいるのか分からず、探し回っていたらしい。
その時にはすっかり牧に懐いていた華菜は、恋心すらも抱いていた。初恋である。
一応納得の上で未来に帰った。とはいえ華菜は、牧を忘れることはできず、日々泣き暮らしていた。
その様子をあまりにも可哀相だと憐れんだ当時の国王(華菜の父親)が、何とかしてやれないだろうかとアレコレ考えた。そして牧に使者を遣わして、勝負を持ちかける。
「牧くん、私とチェス勝負をしよう。私が勝ったら、牧くんは華菜と結婚する。牧くんが勝ったなら、華菜には諦めさせよう。なに?チェスをしたことがない?君は大変優秀な高校生が集う進学校に通っているそうじゃないか。それだけ頭が良いなら、チェスくらい2週間もあれば覚えられる。試合は2週間後だ。男ならこの勝負、受けて立つよなぁ?」
そして牧はそんな半強制的な勝負を受けることになり、惨敗したのだった。