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竜華燕のセラピスト  作者: 高杜 凪咲
Magic1 知らない世界
10/14

扉を開けてみたら 1

 時は少しさかのぼる。

 どれだけさかのぼるかと言えば、未汝が自宅玄関からトリップし、“時の扉”の前に辿たどり着いて、どうしようとぐずぐず悩んでいた時までだ。


「写真の心配しててもしょうがないか。とりあえず、帰る方法を探さないと」


 仕方なく、扉を開けることを選択した。

 キイィと立派な扉を開いて、外に出る。どこかの部屋と思われる光景が、未汝の目に飛び込んできた。


 敷かれた朱色の絨毯じゅうたん、壁紙は温かみのあるクリーム色で統一され、右手側にはスライド式のドアがついた、ガラスで仕切られた部屋が一つ。中には何かの制御装置なのだろうか、機械やモニターが沢山並んでいた。


 ――ここがどこなのか、さぐらなくちゃ。


 少しだけ部屋のドアを開けて様子を伺い、コソコソと部屋を出ると、その部屋は突き当たりらしく、片側は壁、もう片側は長い廊下が続いている。

 今出た部屋のドアを見上げると、そこのプレートには “ 時の扉 ” と書かれていた。


 長い廊下へ目を向けると、随分と殺風景な景色が続く。まるで資料保管用倉庫のような、白を基調とした壁紙に、上下に下げるタイプのドアノブがついた戸がいくつか並んでいた。


 キョロキョロと見渡しながら歩くと、隣の部屋のドアの上には、中央制御室とプレートがかかっている。


 ここなら、この場所の全体像を把握できるかもしれない。全体像が分かれば、ここがどういう所なのか推測できる可能性がある。


 だが、制御室と言えば通常、警備員がいるのではなかろうか。ここがどういう所かは分からないが、無断侵入者として捕まったり、なんてことを考えると、迂闊うかつにこの部屋へ足を踏み入れるのは良くないかもしれないと、開けようとしたドアノブから手を離した。


 かと言って、むやみに歩き回るのも危ない気がするのだ。

 やはり、この中に人がいるかどうかを確かめてから、次どうするかを考えても遅くはないと、自分の危機意識が主張する。


 幸い、この中央制御室のドアの向かいには、プレートのかかげられていない部屋がある。そっと開けてみれば、そこは物置状態の部屋だった。


 この部屋のドアを半開きで固定し、未汝は物置部屋に置かれていた掃除用の長帚ながぼうきを手にして覚悟を決める。ほうきを伸ばし、コンコンと中央制御室のドアを叩いてから、静かに、しかし迅速に物置部屋のドアを閉める。


 息をひそめて向かいの部屋の様子をうかがうと、ドアが開いた気配はない。

 そっと手元のドアノブを下へ引いて、少しだけ開けて廊下を覗くと、やはり誰もいないし動く気配も感じられなかった。


 ――もしかして、誰もいない?


 それならチャンスだ。

 ほうきを持ったままその部屋を出て、向かいの中央制御室のドアを少し開けて中を覗き込む。

 監視カメラの映像らしき画像が、物凄い数並べられたモニターに映っている。だが、やはり室内に人の姿はない。


 未汝はすべり込むように部屋へと侵入すると、壁一面に並べられたモニターの画像を見上げた。


「何ここ、凄い広そう。一体何の施設だろう・・・・・・?」


 画面に映る門は随分立派だ。

 建物の内装も、どこの映像かは分からないが、洒落しゃれ装飾そうしょくほどこされた照明器具や、重厚感(あふ)れる調度品、床にはカーペットが敷かれていたりして、超豪華だったりする。

 かと思えば、研究所のような無機質な場所があったり、弓道や武道場など運動のできる施設もある。木々に囲まれた東屋や、どこかの倉庫にはヘリまであるようだった。


 ――どっかの複合施設?なのかなぁ・・・・・・?


 しばらく眺めていると、画面の一つに、見覚えのある人物が歩いているのが映る。


「お父さん・・・・・・?」


 見間違いかと画面を凝視ぎょうしするが、どう見ても父そっくりだ。


「ここ、どこの映像なんだろう・・・・・・?」


 時々、映像が切り替わる。

 カメラが動いているのか、はたまた違うカメラの映像を映しているだけなのかは分からない。

 未汝は色々な画面を見比べながら、何かヒントになりそうなものを見つけようと、目をらした。


 並ぶモニターの一番上に、南棟とシールが貼られている。その横には中央棟、東棟など建物の名前とおぼしき名称が貼られていた。

 未汝の手元にある、色んなスイッチがいくつもついた操作用パネルも眺めると、同じように建物の名前が記されたシールが貼られている。


 ふと目を向けた先に、一冊のファイルが立てかけてあった。背表紙に、操作マニュアルと記載されている。

 それを手に取って開くと、1ページ目に「竜華りゅうかえんこく国王宮廷見取り図」と表題のつけられた、A3サイズの図面が入っていた。


「竜華燕国国王宮廷・・・・・・?一体、何の冗談?」


 未汝の時代には国王はいない。いるのは天皇だ。しかし、国名は同じである。


「過去にでも来ちゃった?あれ?過去って王制だったかなぁ・・・・・・?」


 まさかねと軽く笑う。とりあえず、あの父によく似た人がヒントを握っている気がするから、会いに行こう。


 未汝は、映ったモニターと図面を見比べた。


「南棟1階?今ここは・・・・・・確か中央制御室ってプレートに書かれてたから、中央棟7階になるのか。じゃあ1階まで降りるか、この辺の渡り廊下で南棟へ渡れば・・・・・・」


 計画を立てて図面をファイルから抜き取り、折りたたんでポケットへ入れる。


 とりあえず、あの父によく似た人をつかまえよう。もしかしたらご先祖様かもしれないし。


 ほうきを握りしめて、少しの勇気と希望を胸に、部屋を後にする。





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