届いてない、けど
カタカタと、提出された書類を見ながら、パソコンと睨めっこする。
その画面には、おびただしい数の数字が縦に羅列されていた。
彼――宮木りなの手元には、昨年の冬に国会を通過し、承認された予算案が置かれている。
この予算案は、りなの努力の結晶だ。
昨年末に、予算分捕り合戦を繰り広げる大臣達をいなし、何日も徹夜して作り上げたものである。おかげで昨年も、連続徹夜日数、新記録を更新した。
年度が替わり、国会で承認された予算案が執行された今、きちんと予算案通りに金額が配賦されているかのチェック作業に、彼は追われていた。
ふぅっと、息を吐きながら手を止める。
机の片隅に置かれた卓上カレンダーに、りなは何気なく目を向けた。
――おかしい、そろそろ回ってくるはずの警護部隊の支出報告書、見てない。
脳みそまで筋肉を詰め込んでいるのでは?と思われる宮廷兵士のエリート部隊。
その警護第一部隊(通称:ボディガード部隊)の、ひと月分の支出報告書だ。王宮内総収支管理もしているので、こちらは月単位で帳簿を付けている。
そろそろ前月分をやらなくてはと思って、先日提出された報告書をチェックしていたところ、案の定というべきか、数件足らなかった。
書類が提出されるのが遅い部署は、いつも決まっているのだ。一応、督促はしておいたのだが。
――まあ、来週でも間に合うし、もう少し待ってから催促に伺いましょう。
今はそっちよりも、国全体の方のチェックが先だ。
足らない資料があるし、王に確認したいことも出来た。
国王はすぐ戻ると言って、かれこれ数時間戻ってこない。
宰相代わりの地位に就く、神官兼、王閣相談役の晋槻文花の所へ相談に行ったままだ。
りなは立ち上がって、傍の政務官に「資料室へ行ってきます」と伝えると、何枚かの書類片手に、王室(いくつかある執務室のうち、国王がよくいる第一執務室を、俗に王室と呼ぶ)を後にした。