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盗賊

続きです

 俺の名前はパール。生まれは漁師の息子で、今は盗賊団の頭をやっている。

 ガキの頃からカルーって港町に住んでたが、つい先日幼馴染のシーザーとロックと共にこのパール盗賊団を立ち上げた。

 住んでたがって言い方じゃ語弊があるな、今も住んでいる。

 だが、今日でこの町ともおさらばするつもりだ。

 毎日毎日、朝から晩まで魚釣り。もう飽き飽きだ。

 俺はあんな磯臭い街で魚を捕るだけで終わらせていい人間じゃねぇからな。

 どこかもっと都会の方で出て、冒険者として華々しくデビューするつもりだ。

 こんな町で漁師になったところで目立ちもしないし、輝けねぇ。

 俺はあのヒコ星のようにキラキラと輝く生活がしてえんだ。

 うまい酒、うまい飯、いい女、こんな田舎町じゃそれらには巡り合えない。

 この町に住む豪商達の娘は見てくれはいいが、中身がてんで駄目だ。

 俺達平民のことを、蔑んだ目で見やがる。

 誰のおかげで生活が成り立ってると思ってるんだ。なめやがって。

 とにかくあの目が気に食わねえ。

 いつかあいつらがひれ伏すくらい冒険者として偉くなって絶対頭下げさせてやる。

 来る日も来る日も、網で魚を捕っていたんだ。体力には自信がある。

 そして、ここ一年くらい、漁の後、剣を振って鍛えてきたんだ。

 剣を買ったおかげで、しばらく懐が寂しくなったが仕方がない。必要経費だ。

 おかげで見ろよこの筋肉。美しいぜ…。

 ひそかな自慢だ。たまに町の女たちにそれとなく筋肉のアピールをしたんだが、あいつら何の反応も示さなかった。

 やっぱりこんな田舎町に住んでるような女達は見る目がないようだ。

 ここは辺境の街だからな。王都の方に行けば見る目のある女もいるだろう。

 盗賊団を立ち上げた理由は冒険者になるための活動資金を得るためだ。

 本当は家から持っていきたかったんだが、父親の目があるので出来なかった。

 最近剣を振っていたことで、何かするつもりだと怪しまれていたらしい。

 盗賊団なら殺して奪えよって話だが、さすがに自分の親殺すのは無理だ。

 そもそも冒険者としてやっていきたいのに人を殺して手配書に乗ったら駄目だろう。

 心情的にも殺しは出来るだけしたくねえしな。

 ちなみに正式に冒険者になったらパール冒険団に改名予定だ。

 それにしても…


「なんだてめえらその体は! 今日の日のために体鍛えとけって言っただろうが!」


 こいつら…鍛えとけって言ったのに酷い体だ。

 俺の話を聞いてなかったのか? こいつら馬鹿だし。

 町の近くの茂みに隠れながら、会話をする。


「鍛えろって言われても、何したらいいのか分からなかったでぶぅ。だからとりあえずいつも通りの生活をしてたでぶぅ」

「そうでゲス。もっと具体的に言ってくれないと何をしたらいいのか分からないでゲス」


 この屑ども…。

 ぜってーめんどくさかっただけだこいつら。

 口調が気持ち悪くて太ってる方が武器屋のロック。俺に剣をぼったくり価格で売りつけたクズ野郎だ。

 口調が気持ち悪くてガリガリの方が薬師のシーザー。風邪を引いた俺に看病と称して妙な薬を飲ませやがったカス野郎だ。

 語尾でどっちがどっちだか分かりやすいことだけが取り柄のゴミどもだ。

 今更だが、こんな奴らと一緒に冒険者目指して大丈夫だろうか…。

 どこかで捨てて新しい仲間を探した方がいいかもしれない。


「お前らさぁ…本当に冒険者やる気あんの? そんな体で出来ると思ってんのかよ」


 呆れた口調でなじる。

 別に本気で言っているわけじゃない。

 こいつらだって冒険者になりたいという気持ちは俺と変わらないというのは知っているからだ。


「愚問でゲスな。冒険者になるという夢は我ら三人の子供のころからの夢。今更それが変わることなんてありえないゲス」

「そうでぶぅ。だからこうして盗賊行為にも力を貸してるでぶぅ」


 こう答えが返ってくるのは当然だったな。

 だったら…


「だったら何で体鍛えてねえんだおい? 冒険者には体力は必須。盗賊やるにしても、冒険者やるにしても、体づくりは基本だろうが?」


 俺が怒っているのはそこだ。

 冒険者をする気があるのは知っている。ならなぜ体を鍛えない?

 筋肉はパワー。鍛えれば鍛えるだけ強くなれるのだから、冒険者になりたいのならそれをしない理由が分からない。


「順番に言い分を聞いてやるから、シーザーから答えろ」


 何か理由があるのかもしれないし、とりあえずは聞いてやる。

 これで何もなかったらこの剣で三枚におろしてしてやる。

 長年魚を捌いてきたのだ。

 綺麗にスライスしてやろう。


「僕は魔法使いでゲスよ? 体力なんて必要ないでゲス。そういうのは筋肉ハゲのパールだけで十分ゲス」

「ハゲてねえ」


 これはスキンヘッドだ。

 こういうのが男らしくて都会じゃ流行ってんだよ。

 こいつも所詮田舎者か…今時ってもんを分かってねぇ。

 この間海で拾った表紙がムキムキマッチョの雑誌に書いてあったからな。

 男なら筋肉があって短髪のやつがモテるって。

 ボロボロになってて、そこ以外何も読めなかったけど、これが今の王都での流行りなのだろう。

 それを見習って俺も髪を剃ったんだ。


「魔法使いっつっても必要最低限の体力は必要だろ。単に体鍛えるの面倒くさがっただけだな?」


 目を見て問い詰めると、視線が泳ぐ。

 図星だな。

 まぁ今は保留にしといてやる。

 視線をカスからクズに向ける。


「で? お前はどうして鍛えていないんだ? お前は魔法使えないよなぁ。その言い訳は使えないぞ?」


 クズもまた同じように目を泳がせている。

 ゴミ同士似るもんだな。

 笑える。

 ニコニコと笑顔を浮かべながら、剣を鞘から引き抜く。


「待て! その剣で僕たちをどうするつもりでぶぅ⁉ 考え直せパール⁉」

「そうでゲス! やるならこの肉だるまだけにするゲスゥ! こいつなら挽肉にしてもいいでゲスから‼」

「てめえこの野郎! 僕だけ売ろうたってそうはいかないぞ! パール! こんな人を売るようなやつは殺した方が世のためでぶぅ! こいつは今ここで殺した方がいいでぶぅ!」

「お前こそ食費にどれだけ金かけてるゲス? こいつの家族のためにも早く殺した方がいいゲスよ!」


 醜い…人とはこうも醜くなれるのか…。

 見た目が醜くけりゃ中身も醜い。

 魔物の方がましなレベルだ。

 本当なんでこいつらと友達やってんだろう俺…。

剣の腹で二人の頭を強めに叩く。

 これでこいつらの性格の悪さが治ればいいんだけど、そうもいかない。

 馬鹿は死ななきゃ治らないらしいし、こいつらもそうなんだろうな。

 叩かれて涙目になっているが、見た目がブサイクなのでただただキモイだけだった。

 こういうのは美少女じゃなきゃ駄目だな。


「お前らさぁ…努力もなしで冒険者になれると思ってんのか? 突然封じられた謎の力が…なんてのは物語の中だけで、今人気のある冒険者の人達も下積み時代はそれは苦労したって話だぜ?」


 冒険者といえば皆のあこがれの職業! 死の可能性も有るけれど、若者なら皆一度は夢見るもんだ。

 そんな冒険者を目指すのなら、努力は必須条件だ。


「いたた…それは分かってるゲスよ。今度からはちゃんと鍛えるようにするゲス…」

「いつつ…反省したでぶぅ」


 まったく…俺がいないとほんと駄目だなこいつらは。


「分かればいい。お前らは見た目もブサイクなんだから、実力で人気を勝ち取らなきゃいけないからな」

「お前らはってパールもブサイクじゃ…」

「あぁ⁉」

「何でもないでゲス」


 お前らみたいな性格も見た目も悪いやつと一緒にしないでほしい。


「こないだ女の子に筋肉アピールしてすっごい引かれてたくせに…」

「むしろあいつが一番モテてない可能性あるでぶぅ」

「聞こえてるんだよぉ!」


 誰がモテないだ。

 町の奴等の見る目がないだけだ。


「さんざん罵倒してくれたゲスけど、こっちだって文句あるゲス!」

「そうでぶぅ」

「ああん? 何だ言ってみろ」


 品行方正、清廉潔白な俺につけられる文句なんてないと思うがな!


「そもそも盗賊行為はダメでしょ」

「パールが言い出したことでぶぅ」


 ……


「しかもこんな作戦たてといて集合時刻に遅れてくるとかもっとあり得ないでゲス」

「人としての神経疑うでぶぅ。今何時だと思ってるでぶぅ? もうすぐ12時でぶよ?」


 ………。

 …ここでこいつら殺せばなかったことにならないかな…。

 無理?

 無理か…。


「…その話は置いといて、これからの話をしよう」

「自分の都合が悪くなるとすぐ逃げるゲスね」

「クズでぶぅ」


 ゴミどもの声なんて聞こえないな。


「さて、知っての通り、今日は城で舞踏会だ。そこには他の国からの貴族たちや、商人まで招待されているらしい。俺たちが狙うのは後者だ」

「でも、そういうのって護衛とかついてるもんじゃないでゲスか?」

「それは…なんか護衛の少ないやつを狙っていくしかないだろう」

「こんな行き当たりばったりで大丈夫なんでぶか…」


 たぶん大丈夫だろう。

 俺も剣の腕は上達したし。

 武器もロックの店の物で、ちゃんとしたものだ。


「町の中じゃ衛兵が来るからこうして外で獲物が来るのを待っているわけだが…」


 三人で顔を見合わせて呟く。


「「「誰も来ねえ」」」


 やはり、遅刻は駄目だったか…。

 作戦時間まで休もうと思ったらそのまま寝てしまったんだよな。

 マズイな、かなりマズイ。

 大見得切ってこの作戦を立てたってのに失敗はマズイぞ。

 リーダーとしての沽券にかかわる。

 あと、こいつらに馬鹿にされるのが目に見えてる。

 顔を暗くしてこの先の未来に憂う。

 クソッ作戦失敗か…。


「あれ見るでぶぅ! 一頭の馬に乗った奴らがこっちに来てるでぶぅ‼」

「本当か⁉」


 ロックが使っていた双眼鏡を奪い取り、覗き込む。

 遠くの方に白い何かに乗った何者かの姿が見えた。


「でかしたぞロック! お前ら準備しとけ!」


 誰だか分からないけど来てくれてホント助かったぜ。

 これでこいつらに馬鹿にされずに済む。

 しかも、見た感じ護衛を一人もつけてねえ。

 まさに鴨がネギをしょってきたってやつだな。

 こんな夜中に護衛もつけずに外を出歩くなんて馬鹿な奴らだ。

 命知らずって言ってやった方がいいか。

 けど、そんな馬鹿のおかげで作戦が成功するんだ。

 感謝するぜ。

 後はあいつから金目の物を奪い取るだけだ。

 なんだか上手くいきすぎて笑いが止まらねえぜ。


「くっくっく」

「なんか一人で笑ってる。気持ち悪…」


 今はそんなクズの言葉にも平然とスルー出来るくらいに気分がいい。


「? なんかあの馬、変じゃないゲスか?」

「ああん? 変? 何が変なんだよ」

「あれ…よく見たら馬じゃなくない? ベッドに見えるでゲス?」


 いつの間にか俺から双眼鏡を奪ってたシーザーがおかしなことを呟く。


「貸してみろ。うん? うーん? ベッドだあれ!?」


 驚いた。

 何が驚いたってベッドでここに来るその神経に驚いた。

 よくベッドで来ようなんて思ったな。

 頭おかしいやつが乗っているのか?

 よく見りゃ、頭が虹色に光っている。

 あんな派手な頭してるやつだし、頭もおかしいか。

 妙に納得してしまった。

 魔法の絨毯なんかは風の噂であると聞いたが、走る魔法のベッドか…。

 ベッドで走る姿は間抜けにしか見えないが、あのベッド自体はマニアや貴族にとても高値で売れそうだ。

 それこそ、一流冒険者の装備が買えるくらい高値で売れるんじゃないか?

 脳内にカッコいい装備をした俺の姿が浮かぶ。

 良い…似合う…。

 俺の筋肉に一流の装備は最高に合う。

これはもう買うしかないだろう。

 俺の目にはもう一流装備をした俺の姿が焼き付いて離れなくなっていた。

 完全に金に目がくらんでいる。

 そして、他の二人も同じような目をしてギラついていたので、考えていることは自分と一緒だろう。

 すなわち、あのベッドに乗っている人物を脅して奪い取る。

 それが無理なら、殺しはしないだろうが、半殺しぐらいならするかもしれない。


「いいな? 殺しは無しだが、場合によったは武力行使もありだ。それぐらいの値打ちもんだあれは」

「了解でゲス」

「オーケーでぶぅ」


 こういう時のこいつらは話が早くて助かる。

 そうして、茂みに隠れたまま、獲物の様子を窺う。

 隠れながらベッドの方を見ると、今だに遠くて詳しくは分からないが、二人乗っていることに気が付いた。

 目配せして、二人にも伝えておく。

 獲物が二人いたからってそれがなんだ。

 こっちは三人いるのだから負けるはずがない。

 そのまましばらく近づいてくるのを待つ。

 まだだ…まだ。

 今だ!

 距離残り15メートルといったところで、三人一斉に茂みから飛び出す。


「おっと待ちな! 命が惜しけりゃ…」


 そこで初めてベッドに乗っていた人物の顔を見る。

 ——言葉を失った。

 それは、間違いなく今までに人生で見てきた何よりも美しかった。

 他の二人も同じようで、呆けたような表情でその虹色を見ている。

 件の人物は、いきなり出てきたこちらに驚いた様で、目を見開いている。

 一瞬の出来事のはずなのに、なんだか時間がスローに感じる。

 こちらを見て、何かを必死に言っているようだが、呆けた頭では聞き取れない。


「——て—…けて!」


 なんだ? 何を言っている?


「避けて避けて避けて避けて—⁉」

 

 ドカァンッ!


 パールは知らないことだが、別の世界ではこんな言葉がある。

 〝車は急に止まれない〟

 彼はそのまま天高く跳ね上がった後、二回ほどバウンドして、停止。

 別の世界ではよく見られた事件だ。


「「パ、パールウウウゥゥゥ⁉」」


このように非常に危険なので、急な飛び出しには要注意だ。


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