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予感

しばらくは毎日投稿していきます

よろしくおねがいします

 なんだかんだあのエッグベネディクト擬きは美味しくいただいた。

 中身が空洞だったので食べ応えがなかったから、中にチキンライスを入れた結果、なんか別の料理に仕上がったが、まぁ些細な問題だろう。

 結局、エッグベネディクトとは何なのかは謎のままである。

 迷宮入りだ。

 今度名探偵にでもこの謎を解決してもらおう。

 シンラちゃんにはそんなエッグベネディクト擬きでも美味しいと言ってもらえたのでよかった。


「腹ごなしも済んだし、どうすればいいかまた考えようか」

「それなんですけど、一つ思いついた事があるんです」


 なんとここでシンラちゃんからの提案が。

 有能すぎる。

 自分の能力なのに何も思いつかない俺の立場が危うい。 


「さすがシンラちゃんだ。何を思いついたの?」

「さっきのオムライスを食べてるときに気付いたんですけど…」


 さっきからぼかしていた事を、何の躊躇いもなく言うねこの子は。

 まぁ別に構わないけれど。


「確かこの中で作った物は消えてしまうんですよね? なら、作るんじゃなくて、変化させるという形で力を使うのはどうでしょう?」

「??? どういう事?」

「んー…と分かりやすく言うとですね、まず私の元の体はこの中で作った物じゃないですよね? それを今のこの可愛い姿になるよう、細胞とかを変質させることで作れないかなって思ったんです」 


 発想がグロい。

 細胞の変質とかなにそれ怖…。

 しかもかなり難易度が難しそうだ。


「それはちょっと無理じゃないかな…」

「何でですか? 細胞の変化なら作った物じゃないからいけると思ったんですけど…」

「うーん…俺の能力っていまいち使い方がまだ分かってないから、細胞を変化させるなんて細かい作業は難しい気がするんだよね」

「でもさっき、火傷治してましたよね? 私がつけたやつ…」

「治したけど…それがどうかしたの?」

「傷が治るってことは細胞を動かしているはずなんです。だから細胞の操作とかもできると思うんですけど…」


 そんなこと言われてもなぁ…。

 理屈は分かっても、実際にやるとなると話は別だ。

シンラちゃんにもしなにかがあったら危ないし。

 正直その案には賛成しかねる。


「やっぱり危険性も高いしそれはちょっと…」

「じゃあ私以外の何かで実験してみて、それで問題なかったらやってみませんか?」


 意外と意思は固いなシンラちゃん。

 そして実験か…。


「実験って、何を使ってするの?」

「えーっと、今ここにある中でベッド産じゃない物は…」


 シンラちゃんにつられて俺もあたりを見渡す。

 周りには草や木は腐るほどある。

 なるほど。あれを使って実験するのか。


「私の服しかありませんね…ここは一肌脱ぐしか…!」

「いやなんでだよ」


 おもわず突っ込んでしまった。

 シンラちゃんも冗談言うんだなぁ。


「なんで、とは?」

「え…」


 この子素で言ってんの?

 マジかよとんだ天然ガールだな。

 もしくは露出狂の変態ガールだ。

 語感は似てるし、どっちも似たようなもんか。

 片やズレた発言で周りを困惑させる少女、片や自分の体を見せつけ周りをドン引きさせる少女。

 うーん…これは…全然違いますね。

 俺は何をトチ狂ったことを考えてるんだ。

 天然と露出狂を一緒にするなど万死に値する。

 世の天然ガールに死んで詫びた方が良いのでは? 

 というかシンラちゃんはどっちなんだ。

 頼むから天然の方であってくれ。


「その辺の木や草を持ってくればいいでしょ? 別に脱ぐ必要はないよね?」

「ああ! そういえばそうでした。すっかり周りのこと忘れてました」


 よかった…露出狂の変態はここにはいないんだね…。

 シンラちゃんはただの天然ガールだ。


「まぁ私は別に脱いでも良かったですけど…」


 んんんー?

 …今のは聞かなかったことにしておいてやる。

 運が良かったなシンラちゃん。

 次疑わしいこと言ったら取り調べからの説教コースだからな。


「シンラちゃん、葉っぱか何かを持ってきてくれないかな」

「はーい」


 その辺に落ちている葉っぱをシンラちゃんに持ってきてもらう。

 その後、再び魔法をかけなおす。

 いちいちめんどくさいな…やっぱりベッドから出ても効果が続くようにしないと。

 それでこの葉っぱを…


「これをどうすればいいんだっけ?」

「遺伝子や細胞を弄って、実験してみましょう!」


 やっぱりちょっと発想が猟奇的だ。

 まあとにかくいろいろやってみるか。

 それからは少しの間、試行錯誤の連続だった。

 だが、苦労の末なんとかそれらしきことはできるようになったのであった。

 苦労と言っても30分位だったが。


「ん~なんとかそれっぽいことは出来るようになった気がするけど、まだ人で試すのは不安だしもう少し時間かかりそう」

「そうですね…私で試して体が破裂する、なんてことになったら嫌ですし、もっと実験しときましょう」


 実験か…これあんまり派手じゃなくて面白くない。

 とっととマスターして終わらせよう。


「…そういえば、城の舞踏会っていつまでやってるの? もう結構時間たってない?」


 もともと顔を変えるのだって王子様と会って逆玉になるのが目的なんだし、早く行った方がいいのでは?


「城の舞踏会は深夜の1時までですね。多分今は10時半くらいじゃないでしょうか?」

「ええええ! じゃあもう時間あんまりないじゃん⁉ シンラちゃん何呑気にしてるの!急いで城に行かなきゃ!」

「いえだから私はもう王子様に興味n」

「実験なんてしてる場合じゃねぇ! しっかりベッドに掴まってシンラちゃん。飛ばすよ!」


 トップスピードでベッドを走らせる。

 風が強く吹き付けて、髪がなびく。

 体感的に時速60キロ近く出てるんじゃないだろうか。

 そして…


「あがががが…揺れ、揺れるぅぅぅぅ!」


 何故か揺れが復活していた。

 おかしい。前に揺れは消したはず。

 意識的に能力を使ってないと効果消えちゃうのか…!

 うえぇ…また気分が悪く…。

 急いで能力を発動させる。

 今度は吐く前に、揺れのみを消すことに成功した。

 ふう…一時は焦ったけど、何とかなった。

 またゲロで体を汚すのは嫌だからね。

 本当によかった。

 …シンラちゃんは⁉  


「シンラちゃん⁉ 大丈夫⁉」


 後ろを振り返るとベッドの端で蹲っているシンラちゃんの姿があった。

 振り落とされたりしてなくてよかった。

 今回は不慮の事故とはいえ、俺が悪い。

 ちゃんと謝ろう。

 人間、人に謝れなくなったら駄目だ。

 悪いことをしたら謝る。

 当たり前のことだが、その気持ちを忘れないようにしたいと思う。

 蹲っているシンラちゃんにキチンと謝る。


「ごめんねシンラちゃん。すごい揺れちゃったでしょ。どこか打ったりしてない?」


 心配だ。

 動かないがやはりどこか打ってしまったのだろうか。

 具合を見ようと近づこうとする。


「来ないで…ください…」


 辛そうに見える。

 来ないでと言われても、そんな顔をされては無理な話だ。


「そんなわけにはいかないよ。どこか痛めたんでしょ? すぐ治すから傷を見せて」


 治療のために急いで駆け寄る。

 ぱっと見たかぎり、どこも悪くなさそうだ。

 というより、傷はどこにもない。

 うん…これはあれですね。

 蹲ってるからどこか痛めたのかと勘違いしたが、そうじゃないようだ。


「うっ…ぷ…おえええええぇぇ…」


 物静かな雰囲気を持つ彼女らしい控えめなゲロだ。

 そしてベッドの外に吐くところもポイント高い。

 10点 10点 10点。

 得点は30点!最高評価です!

 脳内の審査員たちも大喜び。

 クッソ汚い声出しながら勢いよく吐いていた誰かさんとは違う。


「ホントごめんねシンラちゃん…察しが悪くて…」


 女の子なんだからそりゃあゲロ吐くところなんて見られたくないよね。


「うぅ…もういいです…。そもそもよく考えたらメグミさん察するなんてできないって分かり切っていましたから」


 うーん心に刺さる!

 たまに致命的な切れ味の口撃をしてくるねシンラちゃんは。

 否定できないのがつらい…。


「いきなり走り出したから言えなかったんですけど、城の方向分かってるんですか?」


 …知らないや。


「ほらやっぱり知らないんじゃないですかー。顔に書いてありますよ」


 呆れた口調で告げられる。

 シンラちゃんと仲良くなるのは良いことだけど、どんどん弱みも知られていっている気がする。

 …いつか牙を剥いたりしないよね?

 少し悪寒が…。

 最初出合った時はあんなに初々しかったのに…。

そうでもないか?

 なんかいきなり性格悪い認定されてたし最初からこんなもんだったかも。


「気が逸ってしまってたみたいだ。城までの道案内お願いできる?」

「それなんですけど…実は私も分からないんです」

「自暴自棄になってふらふら歩いて来たんだっけ? 危ないことするなぁ…」


 えへへ…と可愛く笑っているけれどほんとに反省しているのだろうか。

 一度この件について深く話し合った方がいいのだろうが、あいにくと今は時間がない。

 舞踏会が終わった後でじっくりと聞かせてもらおう。


「分からないならとりあえず森をこのまま突っ切るよ!」


 あーだこーだ難しく考えるより即動く。

 変な場所に出る可能性もあるが、そこはもう運に任せる。


「ちょっと待ってください! 道は覚えてませんが、来た方角は絶対こっちじゃないです。こっちは真逆の方来ちゃってます」

「おおうマジか。危ない危ない。真逆ってことは方角はこっちの方?」


 指を指して確認を取る。


「そうですね。正確な方角までは分からないですけど、たぶんそっちで合ってます」

「オッケー。じゃあさっそく出発しよう」


 再度、シンラちゃんにしっかり掴まるよう忠告してから、前と同じ速度で走り出す。

 気合を入れるためにもさらにスピードを上げようかと思ったが、これ以上にしてしまうと振り落とされる可能性や、何かにつまずいたときに危険なのでやめておいた。

 それに、シンラちゃんが徒歩で来れたのだから、町までそこまで遠いというわけじゃないだろう。

 このスピードでも充分のはずだ。

 今の速度でも若干シンラちゃんが怖がってるし。

 馬と同じくらいの速度で走ってるわけだし確かに少し怖いかもしれない。

 …この世界の人から見て凄いスピードのベッドで走る俺達はどういう目で見られるんだろうか?

 元の世界だと、都市伝説の仲間入り間違いなしだ。

 口裂け女、メリーさんと並ぶ殿堂入りをしてみたいがさすがに厳しいだろうか…。

 精々ターボばあちゃんの亜種を狙えるくらいかな?

 〝怪奇!高速道路をベッドで走る虹色の女‼〟

 インパクトはあると思うんだけどなぁ~~。

 車を追い越すスピードを持つターボばあちゃんには勝てないや。

 くっ! 少し悔しい。

 そんなふうに一人百面相をしてる俺をシンラちゃんは訝しげに見ていたが、気にしないことにした。

 っと、考え事してたらもう森の出口が見えてきた。

思ったより早かったな。

 それとも考え事をしてたからそう感じただけだろうか?

 森を抜けると、大きく開けた場所に出てきた。

 出てすぐにベッドを停止させる。

 周りには何もなく、草しか生えていない。

 整備された道も見渡らないのでまだここも人が通らないような所なのだろう。

 だが、周りが木によって圧迫感があった森の中と比べ、圧倒的な解放感だった。

 さらばヌマの森。俺は都会で生きていくよ…。

 生まれ故郷に心の中で別れを告げる。

 特に思い入れもないので、何の感傷もなかった。

 ここにはほとんど悪い思いでしかない…。

 さっぱりと割り切ってシンラちゃんにと向き合う。


「シンラちゃん、来た場所はここで会ってる?」


 尋ねてみると、ふるふると首を振りながら、シンラチャンが答える。


「いや、違いますね。でもたぶんここからそう離れた場所ではないので、たいして時間はかけずに城へは行けそうです」

「そっか。近くに出れてよかった。最悪、逆方向に出る可能性もあったからな。」

「ええ、こんなに早く森を抜けられるんだったら、もう少し実験してても良かったかもしれませんね」


 それはまたの機会に。

 でも確かに思ったよりも早く森を抜けることができた。

 このベッドがあそこまで速く動けるとは思ってなかったからな。

 見た目は普通の白いベッドだが、意外とやるもんだ。

 正直見直した。

 ゲロとか掛けちゃってごめんな。

 意思とかあるのか分からんが一応謝っておこう。


「じゃあここから先は道案内任せてもいいかな。俺はこの辺の地理とか分からないかさ」

「もちろんです! ええっと、城の方向は…たしかここから西に進んだ方ですね」

「西だね。西…西ってどっち…?」

「……あそこに見えるひときわ綺麗に光ってる星が北の方角です。」


 あっほんとだ。なんか他の星に比べて光が強いのがある。


「なんであの星だけあんなに光ってるの?」


 シンラちゃんに尋ねてみると、得意げな顔になって語り始めた。


「メグミさんは長い話とか苦手そうなので簡略に言いますね。その昔、ホシヒコとヨリヒメという二人の男女がいたそうです。男は真面目な牛飼いの青年、女は天の神様の娘で、いい年して嫁の貰い手がない美女でした。そんな二人でしたが、あるとき出合い、恋に落ちました。」


 ふむふむ、なんかよくある感じの話だな。

 女性の方言うときなんか棘あるけど。

「神様も真面目で勤勉なホシヒコのことを良く思い、娘の結婚相手に相応しいと喜んで結婚に賛成してくれました。それから二人は毎日仲睦まじく暮らしていましたが、ある日事件が起こります。仕事に行くと言って、なかなか帰ってこないホシヒコを心配したヨリヒメは、様子を見に仕事場に行ったのですがホシヒコはいません。町まで足を延ばしてみると、なんとそこには他の女と歩いているホシヒコが。それを見たヨリヒメは怒り狂い、ホシヒコにアッパーカットをしてしまいます。食らったホシヒコは空まで飛んでいき星になりました。それがあの北にあるヒコ星です。」


 なんか雑に星になったなホシヒコ。

 それとアッパーカットで宇宙まで吹っ飛ばすヨリヒメは強すぎる…。


「実はホシヒコが女性と一緒だったのには理由がありました。真面目なホシヒコは彼女にプレゼントを贈ろうとしましたが、女性が何を上げれば喜ぶのかが分かりませんでした。そこで自分の知人の女性に、どんなものを上げればいいのかを聞いていただけだったのです。後になり、それを知ったヨリヒメは酷く嘆き、泣きました。見かねた神様が、喜ばせようとして星になったホシヒコを一際光り輝かせました。ですがそんなことに何の意味もなく、ヨリヒメは泣き続けましたとさ。お終い…。」


 まず突っ込み所としてさ、神様は何がしたかったのか…。

 光り輝かせて何の意味が…?

 それと一番の突っ込み所は

「シンラちゃん。長い。話長いよ。全然簡略できてないよ…」

「あっごめんなさい…。私って語り始めるとそれに夢中になっちゃうみたいで…」


 小説だったら確実に読み飛ばされているだろうと思うほど話が長い。まるで素人の物書きが設定をつらつらと並べているみたいだぁ…。

 まぁ俺も人のこと言えないけどね。

 けど今はそこまで時間の余裕もない時だからさ。


「とにかく今は城を目指そう。北があっちだから、西はこっち?」

「そうですね。方角じゃなくて指さしておくべきでした。そうすれば早かったのに。配慮が足りてませんでした。」


 面白い話が聞けたから個人的には良かったけども。

 そうして再び移動を再開する。

 西へ西へ。

 抜けて出た森を沿って城を目指していく。

 そうしてしばらく進んでいると、遠くの方で小さくだが、城のようなものが見えてきた。

 見つけた! あれが目的の城か⁉


「シンラちゃん‼ あれ‼」


 シンラちゃんにも分かるよう指を差して示す。

 まだかなり遠いのでとても小さくしか見えないが気づくかな?


「んん? あーちっちゃいですけど見えますねー。そうですー。あれが今夜舞踏会が行われてる城ですねー」


 なんだかあまりやる気がないように見えるが気のせいだろうか?

 王子と会えるチャンスなんて今夜くらいだろうから頑張らないといけないはずだけど。

 まぁ変に気負いすぎたりしてるよりは良いか。

 もうベッドの上は慣れたのか、すっかり寛いでいる。

 もうだらーんって感じだ。

 枕に顔をうずめて足をバタバタさせたりもしているが、何をしているんだろう?

 兎にも角にもまずは城に着かないと何も始まらない。

 これで城に着いたらもう舞踏会は終わりです。

なんてことになったら目も当てられない。

 このままスムーズに城まで行けるといいんだけど…。

 そう不安がる俺だったが、その予感は見事に的中することになる。

 まさかあんなことになるなんて…。

 このころの俺には思いもよらぬのだった。


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