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エッグベネディクト

続きですの


「もう大丈夫?」

「はいっ! ご迷惑お掛けしてすみません…。なんかスッキリしました」

「それはよかった」


 うんうん、顔もなんだか吹っ切れたようないい表情をしている。

 やっぱり女の子は笑顔の方が良い。


「いやーなんというか吹っ切れました。よく考えてみたら私可愛くないですし王子様の逆玉狙おうなんて無理な話でしたね」


 この子逆玉狙ってたのか…それも王子様の…。

 存外抜け目ない。強かな女の子だ。

 嫌いじゃない、そういうの。


「とりあえずあの家は出ようと思います。なんか人生もう終わりだ…なんて考えて勝手に絶望してましたけど、全然そんなことないですよね。」

「そうそう。人生まだまだ長いよ〜。これからは楽しく生きようね。それでシンラちゃん、逆玉を諦めるのはまだ早いよ?」

「え?」


 顔に疑問符を浮かべている。

 フフフ…その顔が笑顔に変わるのを見るのが楽しみだぜ…。


「今なんて言いました?」

「逆玉を諦めるのはまだ早いと言ったんだぜ、シンラちゃん。忘れたのかい、俺には何でもできる万能の力があるんだ。可愛くないから諦めるっていうんなら、なっちゃえばいいじゃん、可愛い子に」

「いや私はもう逆玉狙ってn」

「よーし! そうと決まったらさっそく変身だシンラちゃん」

「はい…」


 善は急げ。

 シンラちゃんが何か言っていたような気がしたけど、聞きそびれてしまった。

 まあ後で聞けばいいか。

 よーし! とびっきり可愛い子にするぞー!

 あっその前に。


「何か見た目の要望はある? 出来るだけそれに沿った見た目にしようと思うけど」

「メグミさんのお好みに任せますね。ほんと、好みの感じでいいんで。メグミさんが好きだなーって思う見た目にしちゃってください」


 俺の好みか…。

 これは男としてのセンスが試されるな。

 それにしても、なんだかシンラちゃんが嬉しそうだ。

 やっぱり可愛くなれるって言われたら女の子は嬉しくなるもんなんだなぁ…。

 これは期待にこたえなくては。

 うむむ…俺の好み…正直好みの範囲が広すぎて取捨選択が大変だ。

 前、といってもつい最近のことだけど、あの時もかなりの時間がかかったしなあ…。

 あの時の結果は酷いものだったが。

 とりあえず、キャラ被りはしないように気を付けよう。

 そうだなぁ…シンラちゃん自身胸は大きくないし、サイズはそのまんまでいいかなぁ。

 正直、巨乳の方が好みなんだけど、いきなり胸が大きくなったら違和感とか出ちゃいそうだしね。

 胸のサイズはそのままでいこう。

 メモを作り出してそれに書き込む。

 見た目はなぁ…どうしよう…。とりあえず年齢とかは基本元のままの方がいいよね。


「すいません…やっぱり一つお願いしてもいいですか?」

「ん? なになに、何でも言って?」

「体形は痩せ型にしてもらってもいいですか…? 今のこのお腹好きじゃないので…」

「あーちょっとぽっちゃり気味だよね。そんな体形になるってことはご飯はちゃんと食わしてもらってたんだ?」

「ええ、まあ…お姉さま方よりは劣ってましたけど、普通に食べさせてはもらってました。でもこんなに太るほど食べてないんですよ? 一般的な人と同じか少し少ないくらいです。なのになんでかこんな体形に…」

「もしかしたら太りやすい体形だったのかもね。そういう人たまにいるらしいよ?」


 体形は痩せ型っと。

 さて、まだまだ決めることは山盛りだ。

 …

 ……


 そうしてなんやかんや30分くらい時間をかけてシンラちゃんの変身計画が完成したのだった。


「よし、シンラちゃん。さっそく変身しようか!」

「はいっ!」


 30分間文句も言わず待っていてくれたみたいだ。

 俺が黙々とメモに向きあっているだけで何にも面白くなかっただろうに。

 ニコニコとしながら笑顔で俺を見ていてくれた。

 やっぱり良い子だなぁ…。

 そんな彼女に応えるためにも気合を入れて力を発動する。

 前回のように、情緒不安定になったりはさすがにしないだろうが、万が一の可能性もある。

 しっかりとイメージをしながら、シンラちゃんに能力を行使する。

 魔法で見た目を包むような、そんなイメージ。

 例えるなら着ぐるみのような感じだ。

 シンラちゃんを白い光が包み込む。

 どうだ…?

 光が収まると、そこには白銀の髪に、赤い目をした、綺麗な女の子の姿があった。

 耳はなんとエルフ耳。目の下の泣き黒子が個人的チャームポイントだ。

 成功だ!

 華奢な体に綺麗な肌、素晴らしい。まさにイメージ通りだ。

 目をぱちくりさせているシンラちゃんに鏡を作り、渡してあげる。


「わぁ…綺麗…! これが私…?」


 鏡で自分の顔をいろんな角度から見ている。

 その気持ちわかるなぁ…。俺も最初自分の顔を見たとき、それはじっくりといろんな角度から眺めたもんだよ。


「どう? 綺麗になった自分を見て?」

「なんだか信じられないです…まるで夢みたい…。ハッもしかしてこれは夢? 私がこんないい思いするはずないものね。きっと夢なんだわ…」

「夢じゃない夢じゃない。ちゃんと現実を見よ? シンラちゃんは今最高に可愛いよ!」


 呆然とするシンラちゃんを揺さぶって現実に戻してやる。

 なおも信じられないのか、自分の頬を引っ張ったりしてるが、それはもう放置でいいだろう。

 俺的には無事に成功して一安心といったところだ。

 はーよかった。あの時みたいにならなくて。

 そこでやっと現実だと気づいたのか、シンラちゃんも喜びだした。


「嘘⁉ これが本当に私⁉ 本当なんだ! やったぁああああああ! あはははははは!」 


 おぉう…めっちゃ笑ってる。

 すごい喜びようだな…。

 でもこれだけ喜んでもらえるなら本当、やって良かったよ。

 俺の力も、こうして人の役に立てるために授かったのかもな。

 なんて思いながら、ニヒルな笑みを浮かべる。

 いやしかし珍しくこの力をうまく扱えた気がするわ。

 今までなんだかんだ失敗続きだったもんな…。

 女の子に骨折られたり、ゲロ吐いたり…。

 あれ、なんか酷い目にばかり合ってない? 気のせい?

 そうやって自分の行動について振り返っている間に、シンラちゃんのテンションは最高潮に達していた。

 ベッドの上を飛び跳ねて喜びを表現している。

 嬉しいのは分かるけど、そんなに跳び回ってたら危な…ほら落ちた。

 跳ねた勢いのままベッドから落ちてしまった。

 こういう所は年相応でまだまだ子供だなぁ…。

 なんてしみじみと思ってしまう。

 ちなみに生後三日目のことであった。


「いたたた…ちょっとはしゃぎすぎました…。…どうしたんですか?」


 思わずじっと見てしまう。

 なんと魔法が解けて元の姿に戻ってしまっていた。

 えぇ…なんで…?

 しっかり成功したはずなのに。

 何が問題なのかをシンラちゃんをじっくり眺めて考える。

 ううん…?


「なんでそんな穴が開きそうな程、こっちを見てるんですか? あっ! さては見惚れてますね‼ なるほどーメグミさんの好みのタイプってこんな感じなんですね。いいですよ! どんどん見てください!」


 なんかシンラちゃんがぶつぶつ言ってるけど、集中していたので聞き取れなかった。

 ごめんねシンラちゃん、後で話聞くから。

 いったい何が原因なんだ…?

 …あっそっか。

 集中して脳を働かせることによって、ようやくその原因を突き止めた。

 単純な話だった。

 ベッドの範囲から出たせいで能力の効果が消滅したんだ。

 そっかそっか、よく考えたら簡単な話だったね。

 ……どうしよう…?

 シンラちゃんは相変わらず横でくねくねしてるだけで、まだ自分が元の姿に戻っていることには気が付いていないようだ。

 気が付かれないようにしないと…。

 あんなに喜んでいたんだ。もし元の姿に戻ったなんて知ったら、がっかりさせてしまうだろう。

 それは良くない。

 女の子は笑顔が一番だ。

 とりあえず気づかれないように注意しながら、ベッドに戻ってもらおう。

 平静を装いながら、冷静に…。


「シンラちゃん? 一度ベッドに戻ってみてはいかがでございますでしょうか?」


 おかしい…冷静なはずなのに口調が変だ…。

 これは不審に思われるか…?


「えっ‼ べッドに⁉ これはもしや誘われている…? ベッドに誘うってことはそういうことだよね…」


 途中から小声で喋っていたので何を言っているのか聞き取れなかった。

 なんだかこういうこと多いなぁ…俺は難聴なのだろうか?

 それにしてもなかなかベッドに戻ろうとしない。

 くっ…! やはり不審に思われたのか…。

 何とか警戒を解かないと…!


「大丈夫だよ~何にもしないよ~」

「えっ、なんにもしないんですか?」

「しないしない。だからベッドに戻っておいで~」

「そうですか…」


 …なんかがっかりしてない?

 何にもしないって言ってなんでがっかりするんだ?

 ともかく信用は得られたようだ。

 渋々といった感じだが戻ってきてくれた。


「それで…何の用ですか?」

「用っていうか頼みがあるんだけど…ちょっとの間、目を瞑っていて欲しいんだ」

「目を瞑る…あぁ、そういうことですか!」


 なんか勝手に納得してるけど大丈夫だろうか?

 ばれてないよね?

「なぁんだ! そういうことならもっと分かりやすく言って欲しいです。もちろん、OKですよ!」

「あぁ、ごめんね。今度からは分かりやすく言うよ。」


 いったい何のことだかさっぱりだが。

 とにかくこれで了承は得た。

 ミッションはほぼ完了と言っていいだろう。

 ふー気を張った。

 俺に隠し事は向いていないな。

 早めに済ませてしまおう。

「ん…シンラちゃん…目を瞑って…?」

 ……?

 何故か顔赤くするだけでなかなか目を瞑ってくれない。

 ???


「シンラちゃん?」

「あぁ‼ ごめんなさい‼ 目を瞑るですね‼ わかってます…」


 口では分かってると言うが、なかなか目を瞑らない。

 ホントに大丈夫だろうか?

 もしや副作用でシンラちゃんまで情緒不安定に⁉


「シンラちゃん、大丈夫? なにかあった?」

「すぅーはぁー…はい、もう大丈夫です。」


 よかった。大丈夫らしい。


「はい…どうぞ…」


 そう言って彼女は目を瞑った。

 それと同時に唇を突き出しながら。

 ……?

 何をしてるんだろうこの子は…?

 さっぱり分からない。

 タコの物真似?

 だとしても今急にやりだす意味が分からない。

 やっぱり良い子だけどちょっと変わった子だなぁ。

 まぁ今はそんなこといいか。

 彼女が目を瞑っている間に急いで魔法をかけなおす。

 着ぐるみのイメージ、着ぐるみのイメージ…。

 よし!上手くいけそ…


「やっぱりちょっと鏡で髪の毛のチェックさせて下さいっ!」


 見た。


 見てしまった。

 置きっぱなしにしていた鏡を一瞬のうちに拾い上げて、自分の顔を確認してしまった。

 カチン…という音が聞こえてきそうな程、見事に固まってしまった。

 あちゃー…やってしまった。

 あと一歩というところで、詰めが甘い。

 なんで先に鏡を処分しとかなかったんだ俺…。

 シンラちゃんは固まってしまったまま動かない。

 どうしよう…悪いのは俺だし、とりあえず謝った方がいいよね?


「ごめんシンラちゃん! ちょっと魔法が解けちゃったみたいなんだ。すぐにかけなおすからそんな落ち込まないで?」 


 シンラちゃんは優しいから、すこしは怒るかもしれないけれど、これで許してくれるはずだ。


「いえ…全然良いんですけど…。本当はこっちが頼み込む側なので文句なんてありませんよ…。」


 そう言って微笑むが、顔色がすぐれない。

 そんなにショックを受けちゃったのだろうか…。

 すごい喜んでたもんなぁ…悪いことをしてしまった。

 でも、元の顔に戻っただけなのにそこまでショックを受けるものなのか…?

 ちょっとぽっちゃりなだけで普通の顔なのに…。

 まぁ人の感じ方はそれぞれだから自分の尺度で当てはめてもしょうがないか。

 再び魔法をかけなおす。

 体が光に包まれて、収まるころには可愛いエルフちゃんに。


「ごめんね。そんなにショック受けるとは思わなくて。一応気づかれないように戻そうとしたんだけど…」

「別に顔が戻ってショック受けたとかじゃないんです…。ただ、元の顔に戻っていると考えたら、自分の行動を振り返ると頭が痛くなるだけで…」

「そうなの? まぁとにかくごめんね?」

「いえいえ。大丈夫です。でもどうして魔法が解けちゃったんですか? たしか何でもできる力を持ってるって言ってましたよね」


 あぁーやっぱりそれ聞かれるか。

 これ言っても失望とかされないよね?

 少し不安だ。


「確かに何でもできる力を持っているんだけど…このベッドの中限定でね…。ここから出たら作った物とかは消えちゃうんだ」


 便利な能力だけどやっぱり不便だ。


「へーすごい力ですけどやっぱり欠点とかはあるんですね」 


 なんだか納得されてしまった。

 まぁ失望されなくてよかった。

 にしてもこれどうしようか…。

 一度言ったからには絶対にシンラちゃんに可愛くなってもらいたい。

 でもベッドで作り出した魔法だから外に出ると消えちゃうんだよな。

 なにか良い方法を見つけなけば。

 至急解決方法求ム!


「というわけで何か良い方法ないかなシンラちゃん‼」

「えっそこで私に振るんですか⁉」


 難しいことは皆で考えた方がいいよね!

 三人寄れば文殊の知恵。

 三本の矢。

 多くの歴史がみんなで助け合うことを推奨している。

 昔の人は良いこと言うなぁ…。

 一人足りないとか野暮な突込みをする人はケツバットの刑だ。

 絶対に突っ込むなよ?

 なんて脳内で漫才を繰り広げながらも、しっかりと解決策も考える。


「私に振られても自分の力じゃないのでよく分かりませんよ…」

「そうかもしれないけどさ。二人で考えた方がなんかいい案出そうな気がするじゃん? だから一緒に考えよ?」


 そうして二人でうんうんと悩んでいると…


 ぐうぅ~~


 お隣からそんな音が聞こえてきた

 おやまぁ可愛らしい音。

 シンラちゃんは顔を真っ赤にさせて、お腹を押さえている。

 こんな真っ暗になるような時間だものね。

 そりゃあお腹も空くわ。

 …! 今思い出した。そういや俺も何も食ってないんだった。

 さっきなんか食おうと思っていたのをすっかり忘れてた。

 いけない、いけない。思い出せてよかった。

 シンラちゃんのお腹に感謝だ。

 心の中で感謝しておく。

 ありがたやありがたや。


「そんなにこっち見ないでください…」

「あはは…ごめんごめん。一回休憩にしてご飯にしようか」


 腹が減っては戦はできぬとも言うし、一度ご飯を食べておいた方がいいだろう。

 この世界の人達って何食べるんだろう…。

 よく考えたらまだまだ知らないことだらけだ。

 虫とかが主食だったらどうしよう…。

 俺虫あんまり得意じゃないんだよね……。

 こう、うじゃうじゃ~みたいなのがキツイ。

 触るのも極力避けたい。

でも、

 虫が大好物なんです! メグミさんも一緒にどうですか?みたいなことをシンラちゃんに言われちゃったら断れないだろうなぁ…。

 それこそさっきすれ違ったバッタとかを捕まえてバリバリそのまま食えちゃうタイプの可能性もある。

 うえぇ…嫌だ…生のバッタなんて食べとうない…。

 せめて天ぷらとかでお願いします…!

 ええい。うじうじ悩んでいても仕方がない!

 男らしくガッと聞いてやろうじゃないの。


「シンラちゃんは食べたいものはある? 何でも好きなもの言ってよ。ご存知の通り、何でも作れる」


 なんかこの言い方出来る主夫みたいで良いな。

 モテそう。


「あっでしたら、一つ注文いいですか?」


 さぁ…鬼が出るか蛇が出るか…。

 蛇ならまだマシだな…。蛇肉って肉厚らしいし。虫より断然マシ。

 頼む。なんとか俺の許容範囲内のものであってくれ…。

 シンラちゃんがゆっくりと口を開く。

 いったい何を食べるんだ…⁉


「エッグベネディクトを食べたいなって」


 エッグベネディクトッッ…⁉

 予想外の方向から来た。

 UNOをしていたはずなのに、いきなりロイヤルストレートフラッシュをくらったような、そんな気分だ。

 エッグベネディクト…エッグベネディクトか…。

 うん…分からない。

 名前は知ってるんだが、それがどんな姿をしているのか、それが分からない。

 というか、随分とこじゃれたもん食ってんなこの世界の人達。


「作れますか…?」


 ぐうっ…そんな期待に満ちた目で見ないでくれ…。

 そんな目で見られたら…


「もちろんっ! 作れるよ」


 ほらこうなった。

 どうして俺は見栄を張ってしまうんだ…。

 浅い嘘で取り繕ってもすぐボロが出るに決まってるのにいいぃぃ…!

 完成形が分からないからどうあがいても作れない…。

 終わりだ……。



 いいやまだだッッ‼

 見た目は分からなくとも、名前から連想することはできる!

 諦めてたまるかぁぁ!

 やってやる。

 名前だけで完璧なエッグベネディクトを作ってやるよ!

 待ってろシンラちゃん。

最高に美味しいエッグベネディクトを食わしてやるからな…。

 エッグということから卵料理ということはすぐに分かる。

 だが、一口に卵料理といってもその種類は無限大。

 卵だけではその判断はつかない。

 そこでこのベネディクト。

 ベネディクト…

 ベネディクトォォォ…

 ベネディクトってなんだよ。

 そんなもん聞いたことないぞ。

 くっ。拙いな…。

 急がないとシンラちゃんに不審がられる。

 今はまだ期待の眼差しをし続けているが、いつその目が疑惑の物に変わることか…。

 早くベネディクトの謎を解かないと…。

 ベネディクト…ベネディクト…

 ベネ、ディクト…。

 こうか! 一つの単語だと錯覚していたけど二つに分けるんだ!

 ベネはイタリア語で〝良い〟という意味だったはずだ。

 漫画で見たから覚えている。

 ディクト…ディクトはダクトが訛った結果、そう呼ばれるようになったんじゃないか?

 つまり、ベネディクトとは良いダクトという意味だったんだ!

 卵、良い、ダクト、これらを組み合わせてできる物は…

 真ん中を空洞にした、良い卵を使った料理?

 で、合ってるだろうか。

 うん、きっと合ってる。中が空洞なんておしゃれじゃないか。

 きっと前世の人達もそう思いながら食べてたんだろうなあ。

 作るのは難しそうだが、俺の能力を持ってすればいけるはずだ。

 よーし! 早速作るぞー。

 メグミの3秒クッキングー!

(例のBGM)

 思い浮かべて能力でチンするだけ!

 ね? 簡単でしょう?

 できたてほやほやのエッグベネディクトの完成です。

 フワフワの卵が丸い形に広がり、球のような見た目に仕上がった。


「シンラちゃんできたよ! えっぐべねでぃくと!」


 口に出すとものすごく言いにくいなこの料理。

 ともあれ料理は完成。二人分のエッグベネディクトを皿に乗せ、並べる。 


「はいっ召し上がれ」

「…あのー」

「…? あぁそっか食べる道具がなかったね。はい、スプーンとフォーク」

「いえそうじゃなく…なんでフォークにスプーンなんですか⁉ 普通ナイフでしょう⁉」

「冗談冗談」


 あははと陽気に笑う。

 本当は気づいているのに、目を逸らして。


「今はそんなことより、これの話です!」


 と言って俺が作った料理を指さす。

 やめて、言わないで。


「この料理——」


 本当は俺が一番よく分かっている。

 この料理——

「エッグベネディクトじゃないですよね?」

 

 ですよねー…。



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