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対話

続きです

「まずは助けてくれてありがとう。本当に危ないところだったよ。よければ、名前を聞かせて貰えないかな?」


 炎によってチリチリとなり、ビショビショになって張り付いた髪を顔から引き剥がしながら、尋ねてみる。


「あ、私の名前はシンラって言います。さっきは本当に申し訳ありませんでした。」


 深々とこちらに頭を下げてくるので、なんだかこっちがバツが悪くなってくる。

 なのでこうして頭を上げさせる。


「俺を助けてくれたんだから頭を下げる必要なんてないよ? だから顔を上げて?」


 そう言って彼女のほっぺを両手で挟んで顔を上げさせる。

 すると何故かこちらをジッと見てくる。

 ???

 なんだろう?


「どうかしたの? 俺の顔をジッと見て?」

「–––⁉ …すみません! 人の顔を不躾に眺めて…失礼ですよね…。貴女があんまりにも美人だからつい見惚れてしまって…本当にごめんなさい!」

「あ、また謝ってる。だから謝らなくて良いよ? そして俺が美人なのは知ってる」


 なんてったって生まれてすぐに数時間は眺め回したからな…それこそ飽きるほど…。

 それにしてもよく謝るなぁこの子。謝り癖でもついてるのかな?

 でも俺の事褒めてくれたし良い子だなぁ…。

 そして初めての人!

 やっと人に会えたぁ…それも女の子!

 いっぱい話して仲良くなりたいなぁ。


「どこ住み? 年は? 家族構成は何人? 誕生日はいつ?」

「えっ…」


 しまった。ドン引かれた。初めての人に興奮しておかしな事口走った。

 何を口走ってるんだ俺は。

 見た目中学生くらいの子に個人情報を聞くのは絵面的にヤバい。

 頭の中にサイレンの音が鳴り響く。

 違うんですおまわりさん…悪気は無かったんです…。ただちょっと興奮しただけなんです…

 留置所にぶち込まれる所まで想像した。


「「警察(衛兵)に突き出すのは勘弁してください!」」

 あれ?

 お互い顔を見合わせ、首を傾げる。


「私はてっきり、傷をつけたのを咎められるのかと思ったんですけど…。そのために私の情報を知ろうとしたんじゃなかったんですか?」

「しないしない! さっきお礼言ったでしょ? あれが俺の本心だよ! ちゃんと聞いてなかったの?」

「いや、てっきり油断させといて後で慰謝料ふんだくるつもりなのかと…」

「しないよそんな事⁉」

「え⁉ しないんですか⁉」

「なんでそこで驚くの⁉ そんなの命の恩人にするわけないでしょ⁉」


 なんだこの子…修羅の国からでも来たのか…。

 もしかしたら、思ったよりこの世界はヤベー世界なのかも知れない。

 嫌だなぁ…優しい世界がいいなぁ…。


「え、だってお姉さんめちゃくちゃ美人ですよね? 自覚してるって言ってましたし」

「まぁ、そうだね。自分でもなかなかイケてる方だと思ってるよ?」

「美人=性格が悪い=お姉さんの性格はとても悪いって事になるじゃないですか!」

「いやその理屈はおかしい」

「おかしくないですー! お姉さんは絶対性格悪い! だって私の周りの美人はみんな性格悪かったもん‼」


 ははぁんなるほど。

 きっと狭い家庭環境とかで育ったから、たまたま周りの美人が性格悪かったせいで他の全ての美人までも性格が悪いって思い込んでいるのか。

 やれやれ…ここは大人として、しっかり常識を教えてあげるか…。


「いいかい、シンラちゃん? それは君の周りの人達の性格がたまたま悪かっただけで他の人、つまり俺の性格が悪いって事にはならないんだよ? つまり君の理論は間違っている=俺の性格は良い Q.E.D.証明終了」


 フッ…大人の力を見せすぎたかな…?

 様子を伺うとまだ胡乱げな目でこちらを見ている。

 くっ、子供には証明なんか通じないか⁉


「よし、飴ちゃんをあげよう!」

「わーいシンラあめだいすきー」


 ちょろい。

 所詮は子供よ。

 大人の証明なんか理解できないのも仕方ないか…。

 ふぅやれやれ…。


「ごめんなさい…お姉さんのこと誤解してました…。お姉さんは美人だけど良い人ですね!」

「分かってもらえたようで嬉しいよ」


 心なしか口調も柔らかくなり打ち解けた気がする。

 よかった、よかった。


「けどさっきのあれ全然証明になってなかったですよ」

 

……え?







 森で出会ったお姉さんは変わった人だった。

 なんとあんなにも美人なのに飴をくれる優しい人だったのだ。

 飴なんて舐めたのいつぶりだろう…。

 まだ本当のお父様、お母様が生きていたころぶりくらいだろうか。

 甘さと優しさが身体に染み渡る。

 きっとこの人だけが特別なのだ。

 なんか他の人も優しいとかなんとか言ってたけど、そんな事無いと思う。

 思えば初めて会ったときから、そのあまりの美しさに見惚れてしまっていた。

 人の顔に見惚れるなんてこれが初めてのことだったし、そんな事有り得ないと思ってた。

 だからきっと人間離れした美しさを持つこの人は、人間離れした精神を持っているという事なんだろう。

 飴を舐めながらそう決定付けた。

 彼女は特別な人なんだと。

 そんな彼女と少しでも仲良くしたい、もっと知りたいと思ってしまう。

 私は案外、強欲なのかもしれない。

 そんな自分に軽く自己嫌悪しながら、彼女に話しかける。

 貴女の事をもっと教えて下さい、と。

 彼女と話せば、私の人生何かが変わる。

 何故だかそんな予感がした。




       *




 俺の事を知りたいと女の子に言われてしまった…。

 これはナンパか? ナンパかな?

 とまぁ冗談はさておき。

 これは願っても無い話だった。

 俺もこの世界について聞きたかったし。

 今のところシンラちゃんが唯一の情報源だ。

 この機を逃す訳にはいかない。


「勿論! なんでも聞いて! その代わりと言ってはなんだけど、この辺の話、聞かせてもらえないかな? こっちには来たばかりでよく分からないからさ」

「あぁやっぱりそうでしたか。ここら辺でお姉さんみたいな人がいたら絶対噂になりますもんね。虹色の髪の女性なんて聞いたこともないからそう思ってました」


 俺の嘘を全く疑わずに信じてくれるみたいだ。

 というか異世界でも虹色の髪は珍しいのか…。まぁそりゃそうか。こんな頭した奴がどこにでも居たら目に悪いわ。

 それこそ世紀末だ。


「それで、まず最初に聞きたいんですけど…お姉さんの名前はなんて言うんですか?」

「名前…」


 マズイ…いきなり答えられない質問が来てしまった。

 名前か…俺の名前はなんだったかな…。


「ごめんね…名前は覚えていないんだ…。だから思い出すまではとりあえず好きに呼んでよ」

「えぇ! 記憶喪失ですか⁉ そんな状態のままこの森に入るなんて自殺行為ですよ⁉ 何やってるんですか‼」


 怒られた…。

 シュンとする。


「あぁ、怒鳴ってごめんなさい。にしても名前まで忘れてるなんて…。とりあえずメグミさんって呼んでも良いですか?」

「メグミ? …どうしてそう呼ぼうと思ったの?」

「おとぎ話に虹色の髪をした女神様が出てきた事があったんですよ。その神様の名前がメグミって言うんです。私それ好きで、昔よく読んでました。それが理由なんですけど…駄目ですか…?」

「メグミね…良いよ。今日から俺の名前はメグミだ」


 メグミ…恵みね。なんだか縁起も良さげだし、いいじゃないか。

 にしても、距離感あるな…物理的に。

 さっき飴あげたときは一度こっち来たのに、なんでまた離れちゃったんだろう?


「もっとこっちおいでよ。そこじゃ話しづらいでしょ? ほら、ベッドの上においで」


 膝をポンポンと叩き、こちらへ呼ぶ。


「いや…だってメグミさん服びしょ濡れで透けてて、ちょっと目のやりどころに困るというか…。近くだと余計に目に入っちゃって気まずいです…」


 あー…そういや濡れたまんまだった。

 なんかもう慣れたから忘れてた。

 乾けっ!と念じて急いで乾かす。

 ついでにチリチリになった髪の毛も元の綺麗なスレートにしておく。


「はい。これでオッケー?」

「今ちょっとよく見てなかったんですけど、何しました…?」

「俺なんでも出来る力持ってるらしくて、それで乾かしただけだよ」

「へーなんでも…えぇええ⁉」


 声が大きい…。

 まぁなんでもできる奴がいたら驚くか…。

 よく考えたら凄い力持ってるな俺。

 なんだか怖くなってきた。

 なんで知らないうちにこんな能力手に入れてんだ…?

 しかもあんまり上手く扱えてないし。

 今のところショボい事にしか利用できていない。


「なんでもって…なんでもですか⁉」

「落ち着いて」


 興奮したのか、こっちに詰め寄ってくる。

 ベッドに足を乗せ、俺の目と鼻の先まで来た。

 律儀に靴を脱いでるあたり育ちはいいのだろうか?

 そしてさっきの飴の時や狼の時もそうだったがこの結界機能してねぇ‼

 なんだこのガバガ設計はぁ! 狼はおろか、その辺の少女に入られてんじゃねぇか⁉

 設計者呼べ! 設計者!

 ……

 俺かぁー…。


「確かに凄い力だけど、上手く使えないからちょっと便利な力があるくらいだよ」

「あっそうなんですかー」


 飲み込みが早い子は好きよ俺。

 さて、俺からも質問しよう。

 …何を聞けばいいんだろう…?


「えーっと…なんかいろいろ教えて?」

「具体性がない上に凄い唐突ですね」


 この子地味に口撃鋭いな。

 ザクザク刺さるぜ。


「いろいろ…ですか…。まずここはカイエンという小国です。それで、今いる場所はヌマの森って言うんですけど、ここは私の住む街、カルーの北側に位置します」


 フムフム…。 


「カルーの街について詳しく話すと、港町ですね。主に貿易が街の収入源です。町と言っても、この国、この町しかないんですけどね。で! ここが他の国とは一線を画すところなんですけど、なんと! あの人魚とも取引しているんですよ‼ 世界広しとあれど、人魚と貿易してるのはうちの国だけなんです! なので人魚見たさにわざわざ国まで来る人までいるんですよ? 凄いですよね! 最近では人魚の人たちと協力して観光にも力を入れようとしてるらしいですね。実は私も人魚見たことないんですけど、実物はどんなのなんでしょうね〜?」

「なるほど…」


 さっぱり分からん。

 長いし早いしで人魚がどーたらこーたら言ってた事しか聞いてなかった。

 とりあえずこの世界に人魚がいる事だけは分かったわ。


「んっサンキュー! もう大丈夫! だいたい把握した」

「そうですか…? まだ話すことはいっぱいあったんですけど…」


 話長くなりそうだしもう結構です。

 熱意は充分伝わりました。


「そういえば…なんでシンラちゃんはこんな時間にこの…ヌマの森…?に来たの?」

「……」


 さっきまで楽しそうに長々と話していた口が閉ざされる。

 こりゃなんか訳ありだな。


「何か理由がありそうだね。よかったら話してみない? 誰かに聞いてもらうだけで楽になるって言うし」

「……」


 再びの沈黙。まぁそりゃいきなり会った奴に話そうとは思わないか。

 なんの信用もないしね、仕方ないか。


「無理にとは言わないけど…」

「いえ、よければ聞いてもらえますか?」


 そう言って彼女は語り出した。

 なぜこの森に来たのか。自分が今までどんな生活をしていたのかを。

 それは長々と。2時間くらい語った。

 話しているうちに感情が溢れたのか、途中から泣き出してしまい、俺が慌てるなどの出来事はあったが、俺は最後まで聞いた。

 2時間丸々な!

 まさか生まれた頃の話から始めるとは思わなかった。

 一度聞くと言ったからには最後まで聞くつもりだったが、時々絶対関係ない話まで挟んできたりしたから正直寝落ちしそうだった。

 んで、簡潔に彼女の話をまとめると、幼い頃に両親を亡くして親戚の家に引き取られる。

 そこでは義姉や義母達から奴隷のように扱われ、嫌がらせの毎日を過ごす。

 そんな彼女だけど、いつか白馬の王子様の様な人が救ってくれると信じて日々嫌がらせの毎日を耐え続ける。

 そんな時、城で舞踏会が開かれると知り、そこに行けば自分を救ってくれる誰かがいると思い、その日の為にコツコツと服を作っていたが今日の夕方にそれがバレてしまい、ビリビリに破かれてしまう。

 そんで自暴自棄になり、今ここって訳だ。


「ぐすっ…最後まで話を聞いてくれてありがとうございますっ……! 今までこんなに私の話を聞いてくれた人は居なくて、誰にも相談なんてできなくて……それが辛くて…」

「あーあーあーもう泣かないの。辛かったね…ほらもう大丈夫だよ」


 そう言って彼女を抱きしめる。

 これは事案?

 でも抱きしめたくなったんだからしょうがない。

 ぎゅっと抱きしめながら頭を撫でてやる。

 いかんせん不器用なのでぎこちない撫で方だったが、気持ちが伝わると良いな。


 その後しばらくの間、そのまま二人だけの時間が続いた。


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