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出会い

続きです

良ければ読んでください

「よし、やっと理想の女性を決めることができた…」


 かれこれ4時間くらい掛かったがようやく終わった。途中からゲームのキャラメイクしてるみたいでちょっと楽しくなって設定を盛り過ぎたかもしれない。

 手元に書いたノートを見る。脳内だけで考えていると忘れそうだったから途中で作った物だ。

 さっそく呼び出してみよう。

 よーし。このノート通りの女性よ出て来い! いや、出てきて下さいお願いします!

 俺は目をつぶって必死に願う。どうか出て来てくれ…。

 すると聴こえてくるのは衣擦れの音。


キター!


 目蓋を見開いてみるとなんという事でしょう。

 そこには白いブラウスにスカートの組み合わせを着た、金髪で碧眼の、優しげな笑みを浮かべたおっぱいの大きなギャルっぽいお姉さんの姿が…。 


「beautiful」


 思わず口からそんな言葉が出てしまう。

 ついでにヨダレも。

 ダラーっと口の端から垂れて非常に汚い。

 けどそれも仕方ない事だろう⁉

 自分が思い描いた理想の女性が目の前に現れたんだぞ⁉

 そんな状況でまともでいられる人間がいるだろうか。いや、いない(反語)

 現に万能な筈の俺が出来ていないのだから人類皆すべからく出来ない。(誤用)

 というか今はそんなことどうだっていい! 重要なことじゃない!

 目の前の理想のお姉さんと何を話せばいいんだろう…これが重要だ。


「こ、こんにちは…」


 しまった。第一印象が大事なのにいきなり吃ってしまった。

 でもそれもしょうがない。前世含めて恐らく童貞の自分だ。いきなりこんな美女と話そうなんてハードルが高い。

 しかも今世では人とすらまだ会話してないから仕方ないね。

 僕、生後一週間も経ってない赤ちゃんだもの…ほんとはこのお姉さんみたいな人のお乳を飲んでるお年頃ですもの。

 飲みたいなぁ…。


「フフッ、はい、こんにちはぁ」


 おおお…! こんな気持ち悪いこと考えてる俺にも優しく微笑んでくれる…まさに理想のお姉さんッ! えへへ。

 どんどん顔がにやけて酷くだらしのない顔になる。側から見ると変質者だ。


「えへっ、えへへ、お姉さん…その…膝枕して貰っても良いですか…」


 ニヤニヤとした顔で笑いながら迫ると、


「はぁ? 何言ってんのあんた? そんなの私がするわけないでしょ…?」


 酷く冷たい表情にゴミを見るような目で吐き捨てるような声音でそんな事を言われた。

 えっ、なんで?

 急に冷たい…上げて下げるとか酷いよ…。

 絶望し一瞬で目から光が消える。

 ハイライトの消えた目でそのまま見続けていると、


「ちょっとなに暗い顔してんのよ…。別に絶対しないとは言ってないでしょ! あんたが私に先に膝枕してくれたら、私もしてあげても…良いよ?」


 赤面しながら逆に膝枕の要求ときたか。

 ふむ…なるほど…。

 膝枕をしてあげながら考える。

 ははーんこれはあれだな?

 情緒不安定だな?

 さっきからコロコロと表情と性格が変化している。忙しないな。

 頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細める。

 すっっごいかわいい。

 髪もすごいサラサラだしお日様の光を跳ね返す金の髪は絹のようでとても綺麗だ。

 うん…ホント綺麗…高値で売れそう。

 まさかこんなゲスな事を俺が考えているとは露知らず、彼女は挑発的な笑みを俺に向けてきた。


「膝枕も良いけど…もっと刺激的な事もやりたいと思わない…?」


 やっぱり情緒不安定だこれ‼

 表情と性格が瞬く間に急変するのは正直言って不気味だ。

 なんでこんな性格になってるんだ…?

 ……あっそういや性格は早めに決めた所為もあって割とおざなりになってたんだっけ?

 うーん…しまったなぁどうしよう…見た目は凄いタイプなんだけど中身がこれはなぁ…。

 うんうんと俺がそうして悩んでいると、


 気付いたら服を脱がされていた。


「うおおい! なにやってんじゃぁぁぁ⁉」

「え? エッチだけど?」

「エッチだけど? じゃないわぁ‼ 心の準備ってもんがあるだろ! いきなりすぎるわ! いや俺もそういうことしたくて君を作ったんだけどそーいうのはまずお互いの事ちゃんと知った上でゆっくりと仲を深めてイチャイチャとかした後にやるのが俺の理想っていうか、心の準備なしでいきなりそれは心臓がドキドキし過ぎて死んじゃうっていうか…でもこの展開にもちょっと憧れあったから嬉しい」


 この間息継ぎ無しである。

 そして最後に欲望ダダ漏れなあたり、この男、駄目駄目である。


「すごぉーい。よく息継ぎ無しでそんなに喋れるわねぇ」


 あぁん⁉

 また性格変わってんじゃないか‼

 でもこれでもう襲われることはないか…嬉しいような悲しいような…。

 ほんのりと寂寥感を味わいながら奪われた服に手を伸ばす。


空を切る。


「ん?」


 もう一度手を伸ばすがまたもや結果は同じだった。

 何故かって?

 それは…


「なんでその性格のあなたまで服を脱がせようとするの⁉」


 彼女に服を奪われたまま下着まで盗られかけているからだ。

 清楚系のお姉さんかと思いきや、彼女もまた、一人の野獣だったようだ。

 ちょっと待って下着まで盗られるのはマズイって!


「ちょっ! タンマタンマ! ほんと待ってお願いだから…てか力強っ⁉」

「………」

「いや怖い怖い怖い‼ なんで何も喋らないの⁉ なんで無言でパンツに手を掛けるの⁉」


 パンツを握る彼女の手を必死に外そうとするも

 残念! 力負け!

 無情にもパンツは破られ下半身丸出しになってしまった。

 握力がね…強すぎるねん…。


「……」

「いやだから怖いって⁉」


 もの凄いギラギラした目で下半身のブツを見られている。

 はぁ…仕方ない…。とりあえずベッドに敷いてあるシーツで下半身を隠そう…。


 ガッ!


「えっ⁉」


 いきなり肩を掴まれたかと思ったらそのまま押し倒されてしまった。

 あかんこれ、抵抗できん。

 力が強すぎる。

 だってほら見てよこれ。

 肩に滅茶滅茶指が食い込んでるよ。


「いぃだだだぁ! 痛い痛い‼ ちょっマジでヤバイって! いったん落ち着こう⁉ ああああぁ骨からなんか聞こえちゃいけない音が聞こえちゃってる!」


 メシリ、ミシリなどといった音からパキッという音まで身体の中からオーケストラの如く様々なメロディーが奏でられる。

 いや、どちらかというと鎮魂歌かな?

 などと余裕もないのにそんな事が頭をよぎる。

 どっちにしろこのままじゃお経を唱えられる事になってしまう。

 墓に入るのは80年くらいは先がいいなぁ…。


「別にあんたの事が好きだからエッチする訳じゃないんだからね! これはただ私が欲求不満だからやるだけなんだから‼」


 ツンデレモードっぽいからこの言葉は本心じゃないんだろうけどその獣の様な目を見るとそっちが本心に思えてならない。

 今はそんな事より…


「消えて下さいお願します!消えて下さいお願します!消えて下さいお願します!消えて下さいお願します!」


………


 良かったぁぁ…消えたぁ…。

 安堵のあまり涙をこぼす。

 えーん、えーん。

 冗談抜きで本気で死ぬかと思った。

 肩から腕にかけて多少変色してグロいことになっている。

 痛みも酷い。数多の種類の痛みが継続して今も襲っている。

 アドレナリンか何かが切れた時、さらに地獄の様な痛みが待っているだろう。


「治れっ!」


 よしっ! しっかり治った。

 治れと願った直後、一瞬で腕の色が元通り。

 便利な能力だなぁ…。

 それにしても、まさか自分の作った理想の彼女に殺されかけるとは夢にも思わなかった。

 腹上死ならまだしも、身体の骨をバキバキに折られて死ぬとかマジ勘弁。

 トラウマになりそうだ。

 好きな女の子とエッチな事をすると言われながら殺されかける。

 うーん…これが…殺し愛ってやつかな?

 ある意味貴重な経験をしたが、その分精神に深いダメージを食らってしまった。

 生まれて間もないのに心に傷を負いすぎではないだろうか…。

 とにかく二度とあの女の子には関わりたくない。

 そもそも自分で作った女の子とエッチしてもそれは真の意味で童貞卒業とは言えない様な気がするしね。

 よく考えたら自分で作った女の子で気持ちよくなるって、それは人として駄目なラインを超えてしまってるのでは……?


「…」


 未だに冷や汗の出る体をブルリと震わせ、新しいパンツを創り出す。

 デザインは前と同じ真っ白な純白のパンティだ。

 キチンと履き直し脱がされた服も着直す。

 もう自分好みの女の子を作ろうだなんて言わないよ。

 そう心に誓いながら…。




            *




 すっかり日も沈んできて、夕日が枝の隙間から差し込んでいる。

 今の季節は何なんだろう。木々が青々としているし夏なのだろうか?

 夕日の位置とかでもしかしたら分かるのかもしれないが生憎頭が良いわけではないので俺にはさっぱりだ。

 とりあえず暗くなってきたのでランタンみたいなものを創って明るくしておく。

 またやる事が無くなってしまった。

 万能の力っていうのならやれる事は幾らでもあるのだろうけど何にも浮かばん。

 女の子を創るのはもうさっきので完全に懲りた。万能の力だってのになんかヤバイの創り出しちゃったし…。

 もしかして使い始めたばかりだから上手く扱えていないとかだろうか?

 まぁ難しい事を考えるのはめんどくさいからやめておこう。

 というかせっかくの異世界だってのにマジで一生このベッドの上で過ごさなくちゃいけないのか?

 うわーいやだ。

 そういえば、このベッドから出たら消滅するって言ってたよな…。

 結局それについての真偽は確かめていないんだった。

 暇だし今確かめてみるか…。

 手元にボールを創り出して、結界をすり抜けろと念じながら投げてみる。

 鏡の時の失敗を繰り返さないよう、ゆっっっっくりとだ。 


「おぉー」


 本当に消えた。

 すげぇ。マジシャンになれるんじゃないか?

 テンションが上がってきた! これ上手く使って異世界の人達に見せればお金がっぽがっぽ稼げる!

 そうすりゃ女の子にもモテて楽しい事がいっぱいできて、暇になんてなる暇もない!


「よーし異世界マジシャン、始めまああぁぁぁ…」


 駄目じゃん…。

 ここから出れないし、動けないんだから駄目じゃん‼

 ひどい…あんまりだ…せっかく目標ができたっていうのに!

 希望の未来からの絶望の現実。

 上げて下げるという落差に、俺は哀れにも再びメンタルをやられ、ハイライトが消えてしまった。

 せっかく上がったテンションもダダ下がり。

 俺はここで誰か来るまで一人でいろって言うのか。

 そもそもこんな森の奥に人なんて来るのか? せいぜいうさぎとかクマくらいじゃないのか。


 ………


「嫌だぁぁ‼ 孤独死は嫌だぁぁぁ‼」


 そこには孤独死に怯える一人の男の叫びがあった。


「動け、動け、動け、動け、動いてよ! 今動かなきゃ、今やらなきゃ、(俺が一人で)死んじゃうんだ! そんなのいやなんだよ! だから、動いてよ‼」


 ぐぽーん!


 ベットからそんな音がした。

 どうでもいいけどその音間違ってない?

 そして…


「う、動いたぁ!」


 感動だ。

 俺の切なる想いがベッドを動かしたのだ。

 いや、たぶん万能の力とやらのおかげだろうけど。

 そのへんには突っ込んではいけない。

 ともかくこれで移動が出来るようになった。

 これで孤独死回避! よかったぁぁ…。

 もう日も沈んで辺りは真っ暗になっているけど、とにかくこの場所から離れたい。

 何もないここの風景にはもう飽き飽きなのだ。

 急いで森を抜けてどこかの街にでも行こう!

 そう思い、ベッドに移動する様な念じる。


 ガタガタガタガタ…


 ………


 乗り心地めちゃくちゃ悪いなぁこれ‼

 4本足のベッドで馬みたいに走るもんだから揺れるわ揺れる。

 しっかり掴まってないと振り落とされる勢いだ。結界あるから頭打つだけで済まされるけど。

 しばらくそのまま進んで行き、順調かの様に思えたが、問題発生。

 酔った。

 揺れが思ったよりもキツイ。

 あっこれヤバイかも…ヤバイヤバイヤバイ!


「オ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛」


ビチャビチャビチャ…


 急いで口を手で覆うも指の隙間から溢れたゲロは止まらず、ベッドと服にかかり、汚れてしまった。

 汚い。


「ハァ…ハァ…うぅエップ…」


 吐いたらスッキリしたけど気分は最悪だ。

 まさか俺がここまで三半規管が弱いとは思わなかった…。

 とりあえず今も動いているこのクソベッドを止めよう。

 止まれ〜と強く念じてベッドを強制的に止める。

 いまいちこの能力も使いこなせていないんだよなぁ…。

 吐き気を能力で止めようと思ったけど気分が悪いせいなのか上手くいかなかったし。

 これは今後の課題だな。

 けれどその前に目の前の問題を対処しなければ。

 そう、〝圧倒的乗り心地の悪さ〟である。

 絶叫マシンもかくやと言わんばかりだ。

 乗るたびにいちいちゲロを吐いていたら間違いなく体に悪いし、これから会う初対面の人にいきなりゲロまみれの姿を晒すことになりかねない。

 それは乙女的にも漢的にもNGなので、一刻も早くこの問題を解決せねば!

 といっても既に解決案は思いついているのだがね‼

 さっきまでは馬の様に駆けていたからあんな揺れまくっていたのだ。

 つまり…


「ベッドさーん今度はゆっくり歩いてくださいねー」


 こう言うだけで万事解決だ。

 流石は俺、三半規管は弱かったが頭は良いのではないだろうか?

 得意げな表情を浮かべ寝転がる。


 カタカタカタカタ…


 ………


 揺れてるねぇ。

 思いっきり揺れてるねぇ。


「なんで?(殺意)」


 ムカつくぅ〜!

 さっきからなんで俺の思うとおりの展開にならないの?

 嫌がらせか? 何かの意思による嫌がらせなのか?

 いや待て落ち着け俺…そんなのあるわけないだろう。

 これに関しては素直に俺の落ち度だ。

 反省してしない者に成長なし。

 次に活かせば良いのだ。

 そう、素直にベッドの揺れ自体を無くしてしまおう。

 そう念じてみれば簡単に揺れは無くなった。


「はぁ〜なんか無駄に疲れたぁ〜」


 まさに骨折り損のくたびれもうけってやつだ。

 物理的に一度折れているが今回折れたのは気骨だ。あとはプライドが折れたらコンプリート。

 でもこれでもうゲロ吐かなくて済む。


「あれ?」


 ふっと湧いた疑問。

 そもそも俺は吐く前にご飯を一度も食べていないんじゃないか?

 初めて起きた時からよく考えたら一食もしてないや。

 なんで気付かなかったんだろう。

 一度もお腹が空かなかったからだろうか?

 それにしたって気づかないってのはどうなんだ俺…。

 もしかしたら俺は少しポンコツ気味なのだろうか?


「いやまさかそんなわけ…」


 基本的に人間は、一度疑心暗鬼に陥るとそうとしか考えられなくなる生き物だが、彼は違った。


「そんなわけないよなー」


〝超楽観的思考〟

 彼は難しい事や嫌なことは全て忘れ、考えない様にするタイプの人種だった。

 言うまでもなく駄目人間だった。


「今更だけどなんか食うか…何食べよう?」


 ベッドで木々の隙間を抜けながら、考える。

 なんでも食えるからなー。選択肢が多すぎて選ぶのが難しいぜ。


「うむむ…。ん? …うわっ⁉」


 ビュンッ!という音を立てて何かが横を通り過ぎて行った。

 ビックリしたぁ…なんだったんだ今の…?

 なかなかのスピードでよく見えなかったけど…バッタかなんかの様に見えた。

 初の生物との邂逅はバッタかぁ…。どうせならもっとロマンチックな生き物が良かったなぁ…ここは異世界だし。

 ドラゴンとかそういうカッコいいのだったら尚良し。

 なんて考えながら進んでいく。

 この時にはもうご飯の事なんてすっかり忘れてしまっていた。

 しばらくそうして進んでいくと動物のような遠吠えが近くから聞こえてきた。


ワオーーーーーン!ウォーーーーン!

 

 …近くまで行ってみるか?

 迷う。迷う。

 遠吠えするような生物って危険なイメージしか湧かないけど… 。


「行こう!」


 好奇心には勝てない。

 完全敗北。

 悔しいっ!でも行きます。

 俺はルンルン気分でベッドを進ませる。

 心なしかベッド君もワクワクしてるように見えなくもないような…そうでもないような…

 見えませんね。

 ベッドはベッドのままだ。

 たぶん遠吠えしたのは狼的な生物なんだろうなぁと思う。

 ペットにして飼ってみようかな。

 でもこのベッドで飼える大きさかなぁ…。



 そんなこんなで現在地、狼の目の前!

 やっぱり遠吠えの正体は狼だったね。

 真っ黒な毛並みの狼がめっちゃ威嚇しながらこっちを見てます。

 怖い! でも大丈夫! 結界張ってるから!


「ガルルルゥ…」 


 ハッ! そんな威嚇したって全然怖くなんてな


「グルルル…ヴヮン!」


 怖くなんて、怖くなんて…

 ごめんなさいやっぱり怖いですぅぅぅ‼


「ヒィッ…」


 今にも飛びかかりそうな体勢してる⁉

 大丈夫…大丈夫…結界あるから…見えないけど透明なやつがあるから大丈夫大丈夫…。


「ガルルルァ!」


 ヒュンッ!

 飛んだぁーー!


 ストッ!

 着地したぁーー!



 ベ ッ ド の 上 に



「」


 意味が分からない…。

 どうして目の前に狼がいるのか理解が出来ない…。

 ただ一つ分かることがあるならそれは、

 命がヤバイってことだ。


「イヤァァァァアアアアアア⁉」


 絶叫。

 喉が張り裂ける程振り絞る。

 なんで⁉ どうして結界の中に⁉

 鏡を思いっきりぶつけても壊れなったのに!


「ワフッ⁉」


 大音量で叫んだからか、狼もビックリして怯んでいる。

 ちょっとかわいい…くねぇよ!

 こちとら命の危機だぞこのやろー‼

 半泣きになりながら少しでも狼から離れようとする。

 が、結界の所為で角で縮こまるのがやっとだった。

 なんだこのクソ結界⁉

 狼は中に入れて俺は出さないのか⁉

 この裏切り者がぁぁ!

 結界をバンバン叩くも、やはり逃げられない。

 狼が迫ってくる。もう駄目だぁ。

 ああああ好奇心につられてこんなとこなんて来なきゃ良かった。

 神さま…来世は命の危険がなく、女の子にモテモテな人生になりますように。

 辞世の句を詠み、目を瞑る。

 短い人生だった…。


「ファイヤーボール!」


 突然女の子の声が聞こえ、目を開いてみると、そこには狼に炎が着弾しているところが見えた。

 着弾した炎はそのまま爆発し、範囲を大きく広げる。

 当然その被害は狼の至近距離にいる俺も受ける訳で…。


「ぎゃあああああ‼ あっつううう⁉ 顔が‼ 顔に炎が‼ ああっ⁉ 髪が燃えてるぅぅ⁉」


 炎の多くは狼が受け持ったが、頭から顔にかけて少しだけ炎が俺を包んだ。

 幸いたいした火力ではないのか、軽い火傷程度のモノだが、髪が! 髪が燃えている!

 消火! 消火! 誰か水プリーズ!

 このままだとハゲてしまう。

 おっぱいのあるハゲとか誰得だよ…。


「あわわわ…すいませんん⁉ 今消火します‼ ウォーターボール!」


 今度は水の塊が飛んできてそのまま顔面にぶつかり、弾けた。

 …俺に恨みでもあるならナイスコントロールだ。

感心しちゃうね。

 顔に直接当てられたお陰で頬は晴れ上がり、ベッドもろとも全身ずぶ濡れだ。

 ちなみに狼くんは炎を食らった直後に逃げている。

 この水に巻きこまれる前で良かったな。

 火傷と水をぶつけられた事で腫れた顔を、この蛮行を行なった犯人に向ける。

 いったいどこの太え野郎だ!

 とっちめてやる!


「あの…ほ、本当にごめんなさい…。助けようと思って…それで、その、そんな風にするつもりは無くて…あの、怪我させちゃって本当にごめんなさい!」


 急速に頭が冷えていくのを感じる。

 そっか。そうだよね。

 頭に血が上って怒ってしまったけど、よく考えたら助けてくれたんだよな。

 じゃあ、あんまり怒れないか。

 そんな風に考えを改めながら、助けてくれた主を見る。

 そこにいたのは、いかにも田舎娘という雰囲気をした、茶髪でちょっと太めの女の子だった。


 太え野郎ってそういう意味じゃなかったんだけどな…。

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