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土下座

続きです

「おおーメグミ様ではないゲスか! あなた達も避難していたんゲスね!」

「おう。…今のお前の見た目でその口調、似合わないな…。パールは大丈夫かそれ?」

「筋肉とハゲ頭を失ったことによるアイデンティティの崩壊を起こしているだけだから大丈夫でぶぅ」


 二人は生き生きとしていて、生きるのって最高! みたいな顔をしているが、パールだけ呆けたような顔をずっとしている。

 ただ、ハゲと言われたことは聞こえていたのか、容赦なく蹴りを入れていたが。

 筋肉が戻っているので、蹴りの音がすごい。

 少女の蹴りでドゴォ!って鳴ったよ。

 もうふっさふさなんだから気にしないで良いと思うけどなぁ。


「またあなた達ですか…。別の所に行きましょうお姉ちゃん。馬鹿が移りますよ」

「誰が馬鹿だエルフ娘」


 パールが覚醒した。

 シンラちゃんの声にはしっかりと反応するなんてこれはもしや…?

 ゲスな勘繰りはやめておこう。


「起きたかパール。現状は把握してるか?」

「しているよ。そもそもあの蝗を最初に見つけたのは俺達だ」

「そうなの? なら何でこんなに避難するのが遅れたの?」

「あー? 衛兵に報告したり、町の奴らの避難誘導を少し手伝ったりといろいろやってたからな」


 えっ? 嘘でしょ?

 知り合って間もないけど、こいつが人助けをするなんて信じられない。


「おいおいこんな時に冗談を言ってる場合か? どうせ寝てて避難するのが遅れたとかそんなんだろ」


 でしょ? とロックとシーザーに確認を取る。


「パールの話は本当でぶぅ。ここは俺達の故郷だから無くすわけにはいかないって」


 パール…! お前にもいいとこあったんだな…!

 顔を向けると、気恥ずかしそうに頬を赤く染めている。


「まあ、あまり役に立ったとは言えないけどな。発見をほんの少し早めた程度だ」


 見た目が可愛らしい少女だから、照れている姿が愛らしい。

 中身は腐っているけど。良いところもあるから腐りかけ位か?


「そんなことより、お前らはここで何やってんだ。避難場所は地下だろ?」

「俺のベッドがデカすぎて階段を降りれないんだよ。シンラちゃんも俺に付き合ってここまで戻ってきた」

「はあ? ならベッドから降りればいいじゃねーか。お前も何律義に付き合ってんだよ。ベッドから降りて一緒に逃げましょうって言わなかったのか?」

「あ…」

「その発想はなかったって顔だな。お前頭よさそうな顔してるくせに馬鹿なのか?」

「盗賊は黙っていてください。お姉ちゃん、ベッドから降りて一緒に逃げましょう!」


 俺もそうしたいところなんだが…。

 ベッドの外に出ると消えちゃうらしいんだよな。


「実は訳あって俺はこのベッドから降りることが出来ないんだ。もし降りれるなら最初にお前たちに襲われたときにあげてたよ」

「なんか訳ありみたいだな。なら最初にあったときに説明しとけよ。そうすりゃこの体にならなくて済んだかもしれないのに…」

「今更文句言うとか男らしくないゲスよ。あっ今は女の子だったゲスね」

「いちいち人を煽らなくていいんだよお前は…!」


 おお、凄い。アイアンクローだ。

 片手で顔を掴んで体を持ち上げている。

 シーザーの体重が軽いのもあるだろうが、やはりパールは筋肉があるな。


「そういや、なんでお前メグミの事をお姉ちゃんって呼んでんだ? 前はさん付けでこいつの名前呼んでたろ」


 アイアンクローを掛けながら、シンラちゃんに尋ねる。


「ああ、それならある国の姫とその妹って設定で…」

「え? お姉ちゃんはお姉ちゃんですよ? 何言ってるんですか?」


 んん?


「こいつらの前で演技はしなくて良いんだよシンラちゃん?」

「え? お姉ちゃんはお姉ちゃんですよ? 何言ってるんですか?」


 えっ。


 なにこの急なホラー展開。

 ただでさえパニックホラーに片足突っ込んでるんだから、これ以上は胃がもたれてしまうぞ。


「いや、演技はもうしなくて…」

「え? お姉ちゃんはお姉ちゃんですよ? 何言ってるんですか?」


 あれ、なんだか記憶が混乱してきた。 

 俺はシンラちゃんのお姉ちゃんだった…?

 よく考えたら初めて目が覚めた時から一緒にいたような気がしないでもない。

 鏡で気絶した時も、自分で作った女の子に骨を砕かれたときも、いつも隣で微笑んでいたような…。


「おいメグミ…。大丈夫なのかこいつ…。さっきから目が虚ろで同じこと喋ってるぞ」

「オネエチャンダヨー」

「ああ、おかしいのはお前もか」


 うん。俺には生まれた時から妹がいた。

 いたってことにしとこう。


「お姉ちゃーん!」

「シンラちゃーん!」


 両手を広げて姉妹の熱い抱擁を交わそうとする。


「フンッ!」


 だが、そんな姉妹を襲ったのはこめかみを掴む手のひらだった。


「「痛い痛い痛い⁉」」


 ぶっちゃけ、ただのアイアンクローである。


「目は覚めたか?」

「「はい…」」


 力なく項垂れる俺とシンラちゃん。

 シンラちゃんの有無を言わせぬ勢いに俺も完全に飲まれてしまっていた。


「助かったよ。あと少しで戻れなくなるところだった」

「すいません…。なんか緊張でパニック起こしてました。…ありがとうございます」


 二人して礼を言う。


「気にしなくていいでぶよ。助け合いでぶぅ」

「そうそう。こちらも恩があるので少しでも返せて嬉しいゲスよ」

「そう? なら気にしないでおくよ」

「おい、当人抜きで話を進めるな」


 なんだよーせっかく話が纏まってたのに…。


「俺は礼を要求するぜ。金だ、金をくれ」


 がめつい奴め。


「悪いけど、俺無一文だから何も出せないぞ」 

「パール…。お前ホントそういう所でぶよモテないのは…」

「シッ! 言わない方が良いゲス」

「少しでも感謝した私が馬鹿でした」


 非難が飛び交う。


「あーあー分かった。もう金はいい。だったら代わりの要求だ。」


 …真剣な表情になった。

 前にも見たな、こいつのこの顔。

 姿が変わっても表情は変わらないようだ。


「メグミ、お前すげえ力持ってんだろ。ならその力で外の蝗を殺してくれないか」

「……」


 蝗退治か…。


「ちょっと! なに無理難題押し付けてるんゲスか! そんなの一人でなんてできるはずがないゲス‼」

「そう、無理だ。詳しい数は知らねえが、何万何百万もの蝗を一人の人間が滅ぼせるわけねえ。たとえ、この国の人間全て集めたとしても無理だろうよ」


 蝗はそんなにいるのか…!


「それじゃあ、兵士さんたちは…」

「ああ、戦えば絶対に死ぬ。それに、奴らは食えば食うほど、その数を増やす。そしてあっという間に世界全土が蝗で覆われるってわけだ」


 そんな…。


「けどお前は、お前は普通じゃないんだろう…? なあ、頼むよ。なんとかして俺の町を救ってくれ…‼」


 そう言って城の床で土下座する。


「パール…お前…」


 その頼み方は卑怯だろ…。

 周りの三人も、パールのガチ土下座をする覚悟に息を飲んでこの場を見守っている。

 どうでもいいことだけど、この世界にも土下座って浸透してるんだ…。


「顔を上げろよ、パール」


 そう俺が言うと、パールは素直に顔を上げる。


「恵…」

「後は任せろ。俺が何とかしてやる」


 土下座までするパールの覚悟に負けて、俺は頼みを了承する。

 安請け合いしちゃったかなぁ…。

 万能の力らしいし、たぶんなんとかなるっしょ。


「っ! ありがとう…メグミ!」


 パール達から掛けられるお礼の言葉を背に受けながら、俺はシンラちゃんに告げる。


「というわけだからシンラちゃんとはここでお別れだ」

「は?」


 何言ってんだこいつみたいな目でシンラちゃんはこっちを見てくる。


「ほら、たぶん危ない目に合うからシンラちゃんはパール達と先に避難した方が良いよ」

「は?」


 ええ…何その反応……。俺間違ったこと言ってる?


「いやだから危ないから…」

「さっき言いましたよね。私にとって一番安全なのはメグミさんの傍なんです。メグミさんは私の安全を奪うつもりですか?」

「でも俺はこの後戦いに行くから…」

「それに! メグミさん一人だと心配なんです。だから私も付いていきます!」


 うーん…意志は固そうだ。

 まあ、いいか。俺が守ればいいだけだ。


「それで、メグミさんはこの事態をなんとかする具体的なプランはあるんですか?」

「ノープランが俺のプラン!」

「つまり何も考えていないんですね…」


 そうとも言う。


「なら、何かいいアイディアを出せる人の所に行きましょう!」

「そんな人いるの?」

「偉い人は頭が良いんじゃないですかね? 王子を探して相談してみましょうか」


 シンラちゃんも何気に脳筋な考えをしている気がする。

 こうして、俺達は二人で王子を探すことになったのだった。

 状況は切迫しているが、俺たちの周りには穏やかな空気が流れていた。



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