-唱えられた言葉と異世界-
作者の希望としては、『唱える言葉に囚われていたら、魔術も魔法も唱えられない』と言うタイトルを『トナトナ』と短くして、覚えてもらえたら幸いです。
また、この作品では"言葉"を中心に書いていきたいと思っています。そのため、魔法や魔術の表現などは上手く表現出来ないと思うのでそこら辺は適当に書きます。ご容赦下さい。
「24時間タタカエマスカ」と俺は唱えると、手に持っていた本の前方から水の魔法が発現し敵に命中した。
どうして、こんな言葉を唱えなくてはならなくなったのかと言うとそれは、この世界に来る以前の話になる…。それは、俺が高校3年の夏休み課題として出された物を調べるため市内にある図書館を利用していた時のことである。
夏の図書館は、勉強をしに来る所と言うよりも大半の人は夏の暑さから逃げるため涼みに来ている様子であった。その中で俺は、夏休みの課題をクリアするために本を探している最中である。
今の時代、物を調べるならインターネットを利用して課題を調査・研究するのが一般的だと俺は思っている。けれど、何故か俺の通う高校では、物を調べるなら必ず本を利用しなくてはいけないという学校の教育方針があり、そのせいで各教科の教員から出される課題を消化するのに手間取っているのである。
何分、各教科の課題提出には本の引用部分や、出典・参考資料のタイトルを記入しなくてはいけないというルールがあり、そのため図書館に来て本を借りるために物色をしている最中な訳である。
そんな中、俺はある本に目が留まりその本を手にした時、館内に時刻を告げる鐘の音が3回響いた。
『ガーン。ガーン。ガーン…。』
その鐘の音に俺は一瞬驚いてしまった。
なぜなら、図書館を利用するのが久し振りだったため、時刻を告げる鐘の音が鳴るなど忘れていたからだ。また、去年の夏や冬の課題の時は、ズルをしてインターネットを使いそれなりの文章を仕上げてクリアした事もあり、近年は図書館を利用していなかった。しかし、そのズルをして提出した課題も何故か教員にばれて、後に追加で課題を出された記憶が鮮明に残っている。
だから、今年は高校人生最後の夏の課題だから、真面目に勉強をしていたという証を残したくてここ(図書館)に来たのである。本音を言えば、追加で出される課題がきつかったので、最後の年は同じ失敗を繰り返さないと意気込んで図書館にやって来たのである。
また、今年は大学受験も控えているためここで後日、夏の課題を再び出されては、受験に響くと思い必死になって課題に取り組んでいた。
今思えば、この課題の達成感を味わおうとした事が現在の状況を生み出したのだと思い深く反省をしている。
鐘の音が鳴りやむと、図書館内は静けさを取り戻した。先ほどの鐘の音を聞いて驚いていたのは、どうやら俺ぐらいであった様であった。そのまま、俺は先ほど手に取った本やら物色した本を持って、館内にある窓側の机に腰を落として物色した本を眺めた。
見ていた本は、各教科に関する本であり歴史やら世界史に関する本を読んでいた。
所々、時代背景や言葉の意味が分からない事もあったので、スマホ取り出して机に置きネットを使い調べながら本を読んでいた。『やっぱり、ネットは重宝するな。現代の文明はやっぱりネット在りきだよな』と館内なので、声には出せないがそう思いながら渋々、本を眺めて要点をまとめていた。
暫く作業をしていると、日が傾き外は暗くなっていた。
その間、図書館の鐘の音が何回鳴ったかなんて気にも留めなかった。と言うよりも、気が付かないまま時間だけが過ぎていた。ふと、外の様子を窺うと外が暗くなっていたことに驚いた。
スマホの時刻を見ると18時45分を表示していた。
『夏でも、19時近くになるとやっぱり暗くなるんだなぁ』としみじみ思っていると、蛍の光の音楽とアナウンスが流れ始めた。
「当館は、間もなく閉館になります。本の貸し出しの希望の方は、カウンターまでお越しになって下さい。」
どうやら、間もなくこの図書館が閉館になるという案内をしていた。そのアナウンスを聞くと改めて、遅い時間までいたんだなと感じた。
俺は家で続きを読むために本を借りようと思い、さっきまで見ていた本と数冊の本を手に抱え、利き手に鞄を持ち受付まで足を運んだ。
無事に時間内に本を借りることができた後、俺は安心して図書館を出た。その際にある事に気が付き声を出した。
「やっべ!!スマホを机に置きっぱなしだ!!」
この時俺は、『普段慣れていないことをやると、人間忘れちゃうものだな。』と冷静に考えている自分もいた。
俺は振り返り、さっきくぐった自動ドアに歩を進めた。すると何かに頭をぶつけた。
「痛っ。えっ…こんな所に壁なんてあったっけ?」
目の前を見ると、先ほどまでなかった壁が目の前にそびえ立っていた。
さっきまで、あった自動ドアが何故か壁になっていたのだ。慌ててその壁に触れてみると、表面はザラザラしていた。この感触はまさにレンガであった。
一瞬の内に様変わりした様子を見て俺は一言発した。
「レンガ……どういう事??。さっきまで、自動ドアだったよね?マジでどうなっているの?」