セルヴとアルト、ミーナの出会い
《ゴブリンか、二匹だとEランクじゃな。》
《本当にDランクを狩れるなら楽勝な筈ですね。まぁ後続の二十匹が来たらDランクですが。》
現れたのはゴブリンが二匹。緑色の背丈が一メートルほどの魔獣だ。ゴブリンは単体ではEランクだが、群れで動く為厄介だ。現れた二匹は偵察隊で、少し離れた所には本隊の二十匹のゴブリンが様子見をしていた。二人は魔力探知で分かっているがミーナはまだ気づいてないだろう。
「よしっみみちゃんたちはそこにいてね!みーながひとりでいくからね!」
そう言うとミーナは短剣を構えたまま駆け出した。
《瞬発力は中々良いですね。まぁ子供にしてはですが》。
《辛口じゃな。アルト。ふむ、基礎は中々出来とるの。短剣も使いなれてるようじゃ。》
二人が感想を言い合ってる間にもミーナは一匹のゴブリンの後ろに回り込み、素早く首を切り裂いていた。
《子供のくせに容赦ないのぅ。戦いなれとる。》
《迷いがありませんね。おぉ体液もちゃんと避けてますよ。》
ミーナは切り裂いたゴブリンの体液を浴びないよう後ろに少し跳んでいる。もう一匹のゴブリンは仲間が殺され怒り、奇声をを挙げながら先が尖った棒でミーナを突こうとする。
それをミーナは短剣で受け流し、そのまま距離を縮め同じ用に首を切り裂いた。
《うむ。お見事。》
《中々手際が良かったですね。誰に教わったのか、師匠がいいのでしょうね。》
二人は呑気なもので、仕留め終わったミーナに拍手を送った。
ミーナは自慢気に笑い二人の方に駆け寄ろうとしたがやめ、後ろを振り向くと首を傾げた。
「あれ?まだいっぱいいるー。」
《おや、意外と早く気付きましたね。》
《うむ、もう少し掛かると思ったが。》
「セルヴおじいちゃん、アルト、まだいっぱいいたから、もうすこしがんば..............らない!」
《《は??》》
ミーナは耳をピクピクさせると短剣をしまう。セルヴとアルトは敵がまだいるのに武器をしまったミーナに揃って首を傾げた。
《ミィは何をして..............アルト!!!》
《!!.....マスター、同族が来ます!》
首を傾げたままだった二人だが、凄いスピードで迫る魔力反応に臨戦体勢を取る。アルトは魔力で精霊獣と分かったが、精霊獣でも気性が荒い者だと攻撃してくる為、油断は出来ない。迫って来る精霊獣は魔力量が高く、高ランクなのは間違いなかった。
「だいじょうぶだよ?おともだちだからこうげきしないで?」
臨戦体勢を取っている二人に近寄ったミーナは空を見上げていた。セルヴとアルトは魔力を抑えていた為ゴブリン達が恐れて逃げる事はなかったが、今近付いてくる精霊獣は溢れる魔力を抑えていない為、恐れたゴブリン達は一目散に逃げ出していた。
「お友達じゃと?ミィは何が近付いてくるのか分かるのかや?」
セルヴは臨戦体勢を解かずにミーナに問い掛けた。
「うん!おともだち!とりの、なーくんだよ!」
「なーくん?」
「うん!あっきた!おーい!」
名前を聞き返すセルヴだったが、ミーナは空を見上げたまま空に手を振っていた。セルヴとアルトは空から近付いてくる精霊獣に今度こそ言葉を失った。
ピィーーーー
甲高い鳴き声でミーナの前に降り立ったのは、漆黒の鳥、だった。
「なーくん、こんにちわ!なーくんのせいでみどりいろのがにげちゃったよー!」
二人が呆然としているのも知らずにミーナは目の前に降り立った漆黒の鳥に苦情を言っている。漆黒の鳥はミーナに会えたのが嬉しいのか、ミーナの苦情を無視してミーナにすり寄っている。
《ははっレナスガント....ミィは何処までわしらを驚かせれば気が済むのかのぅ.....。》
《SSSランク精霊獣ですか.....まさか私と同ランクの精霊獣が.....お友達?》
フェンリルと同じく精霊獣最高ランク、SSSランクのレナスガントが其処には居た。しかも未だにミーナにすり寄っている。
「もう、なーくん?みーなおこってるんだよ?ふふふっもう、くすぐったーい。」
ミーナはすり寄って来るレナスガントに口を尖らせながらも頭を撫でた。
ピィー、ピィー
なーくんは暫くミーナにすり寄っていたが、やっとセルヴとアルトに気付いたのか、ミーナを守るかのようにミーナを羽の間に隠した。
《なぜこんなところに同族がいる?しかもエルフ付きか。》
セルヴとアルトに念話を送るなーくんは、同ランクのアルトに警戒しているようで、アルトを睨んだまま二人に殺気を送る。
《新しく森に住む者です。今さっきミーナと友達になり精霊達にも認めて頂きました。》
《疑うならミィに聞いてみるがよいじゃろ。》
睨み合っていると、ミーナが羽の間から抜け出したのか、なーくんの前に仁王立ちした。
「なーくん!セルヴおじいちゃんとアルトは、みーなとおともだちになったの!なかよくしてね!」
笑顔で言うミーナにやっと警戒を解いたなーくんは、分かったというようにピィと鳴いた。
《ミーナがそう言うなら認める。俺はレナスガント。森の守護者でありミーナの友だ。》
《セルヴ・アルベルトだ。宜しく頼む。》
《フェンリルのアルトです。しかし、何故貴方のような高ランクの精霊獣とミーナは知り合いなのですか?》
アルトの疑問は最もだ。レナスガントはSSSランクの精霊獣の中でも気性が荒く気難しい精霊獣だ。今のミーナには敵う筈の無い相手、しかも気難しいレナスガントが気を許すのがアルトには信じられない。
《いや、こいつ、面白いんだ。》
《はい??》
面白い?意味がわからず聞き返すアルト。
《こいつ、一年前森で俺に出くわした時、俺に敵わないのが分かったのか、武器をしまって真っ直ぐ俺を見つめて言ったんだ。.....なんて言ったと思う?.....ぷぷっ。》
その時の事を思い出したのか、なーくんは巨大な体を震わせて笑っている。セルヴとアルトは少し考え、それぞれ答えた。
《食べないで、かの?》
《あっちいって、とかですか?》
二人の答えを聞いたなーくんは、首を軽く振って笑いを耐えたような声で答えた。
《こいつ、“わたし、おいしいけどたべないで”って言いやがったんだよ!》
《《はぁ!?》》
自分で自分を美味しいって言うのもどうかと思うが、敵を前にして何を言っているのか。セルヴとアルトは呆れたようにミーナを見る。
「???」
ミーナは念話を使えない為、みんなが何を話しているのかは分からない。不思議そうに首を傾げていた。
《面白いだろ?俺毎日退屈しててさ、久しぶりに笑ったわ。してこいつともっと話してみたくてさ、久しぶりに人型になってこいつとお喋りしたんだ。それからの付き合いで森にこいつが来たら話す次いでに手助けしてやってんだ。》
精霊獣の寿命はとてつもなく長い。長すぎるがゆえ、退屈している者も多い。しかし面白いというだけで子供を友と認める程プライドが低いわけでもない。しかもレナスガントはSSSランク、なーくんが変わり者なのか、ミーナが凄いのか。
「みんなでなにはなしてるの?ずるい!みーなも!なーくんおはなしできるようになって!」
会話しているのは分かるが、何を話しているのか分からないミーナは拗ねたようになーくんを見て、人型になるよう促した。
《はいはい。》
なーくんはミーナをチラッと見て、一瞬のうちに人型になった。なーくんは黒髪のイケメンだった。
「これでいいかい、お姫さんよ。」
「うん!なーくん久しぶり!」
笑顔で抱き付いてきたミーナになーくんは苦笑いを浮かべながらも、慣れたようにミーナを片手で抱き上げた。ミーナも慣れたようになーくんの首に手をまわす。
「なにおはなし、してたの?」
「なに、お姫さんとの馴れ初めをちょっとな。」
「あのとき、なーくん、いっぱいわらってたね。」
「お姫さんが面白かったからな。」
「???」
ミーナは意味がわからず不思議そうになーくんを見るが、なーくんはただミーナをいとおしそうに見て笑っていた。
《なんかわしら.....空気?邪魔かの?》
《..............面白くありませんね。》
アルトは眉間にシワを寄せ言うと、ミーナ達に一歩近付き人型になった。
「ミィ、私とも仲良くしてくださいね。」
「アルト?!なにしてるんじゃ!」
契約主に許可を取らずに変化したアルトをセルヴは驚いたように見た。
「あると?おおかみさん?」
急に人型になったアルトになーくんから降りたミーナが近づく。目の前まで来たミーナをアルトは、なーくんと同じように片手で抱き上げた。
「そうです、狼さんのアルトです。ほら、耳と尻尾があるでしょう?触ってもいいですよ?」
「わぁっ!もふもふ!ひとになってもあるとは、もふもふだねぇ。」
嬉しそうに耳に触るミーナを見てアルトが少し自慢気になーくんを見た。
《嫉妬、じゃな。》
《俺に嫉妬されても困るんだが.....フェンリルってのは嫉妬深いのか?》
《あやつ、人型になってもわざと耳と尻尾を残しておる。普段は冷血無表情男のくせに。珍しく顔が緩んでおるわ。余程気に入ったんじゃな。しかし、なーくんとやらは何故ミィを姫と呼んでおるんじゃ?ミィはミィと呼んでくれと言っておったが。》
セルヴの問いになーくんはにやりと笑うと。
《あいつ、姫さんみたいに可愛いだろ?》
確かにミーナは艶のある長い黒い髪にふわふわの白い兎の耳に尻尾。目はクリクリで一般的でいう美少女だが。
(アルトもこいつもどっちもどっちじゃな。)