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第5話

サミュエル様と夜会に出席した。

ミントグリーンのシアーな感じの布地のエンパイアラインのドレスだ。腰の後ろから短めのリボンのようなひらひらがくっついている。ダンスを踊るのでトレーンというほど長くはない。裾部分は白糸の刺繍が施されている。初々しい愛らしさの際立つドレスだ。髪はドレスと同色のリボンを編みこんで結い上げてある。飾りは真珠。メイクもばっちり可憐な感じになるようにベビーピンク主体の色彩を使用した。

サミュエル様は光沢のあるダークグリーンのタキシード姿だ。ペールグリーンのベストと、ビリジアンのアスコットタイを締めていらっしゃる。とてもよく似合う。私は目がハートだ。


「今日も可愛いよ、ティナ。ティナは柔らかな月の光のような乙女だね。」

「有難うございます。サミュエル様も素敵です。」

「有難う。行こうか。」


とにかく見た目がいいので、私とサミュエル様は注目の的だった。一緒に踊るのはすごく楽しい。踊る姿がまた美しい…というので会場にいた人たちは自分が踊るのも忘れて、ほう…っと溜息をついている。


「みんなティナを見ているよ。妬いてしまうね。」

「これから、誰と踊ったとしても私はサミュエル様のものです。サミュエル様こそ、これから別のご令嬢と踊るのでしょう?」

「ははっ。ティナに妬かれるのもいいなあ。ダンスという名の情報収集スパイだけどね。」


くるりとターンを決める。サミュエル様のリードは踊りやすい。私を全身全霊で気遣い、壊れ物のように優しく扱ってくれる繊細なリードだ。


「社交って疲れますね。」

「全くだ。ティナと踊れるのは楽しいけれどね。」


サミュエル様と連続して2回踊った後は、誘ってきた男性の中からこれと思う家の子息を選んで一緒に踊った。勿論各家の内部調査が目的だ。時々マリー様の取り巻きが私を貶めに来るのは困りものだけど。ダンス中に足を引っかけようとするのはどうなのよ?

ひとしきり情報収集を終えるとサミュエル様の元へ戻った。サミュエル様はマリー様に纏わりつかれて難儀しているようだった。


「サミュエル様、少し軽食でもつまみませんこと?」

「ティナ!僕もそう思っていたところなんだ。みなさん、失礼するよ。」


二人でホールを出て、軽食が置いてあるスペースへ行った。


「情報収集できましたか?」

「マリー嬢が鬱陶しくてそれどころじゃなかったよ。彼女はあれだけ多くの貴公子を侍らせて、まだ足りないらしいね。ティナはどうだった?」

「いくらか目ぼしい話は聞けましたわ。」


近々隆盛しそうな家とその当主の評判や、逆に没落しそうな家の話とか。当主の評判が良く隆盛しそうな家とは手を結ぶのは大いに利がある。没落しそうな家は没落する理由も色々なので、一概にこれと言った決まった対処はないが。

最近の王家の評判も聞けた。ランドルフ様は中々に評判のいい王太子だ。婚約者のリディア侯爵令嬢のことも大切にしているし、リディア様の評判も良く、良き王太子妃になられるだろうと。

しかしそれとは別にエドワード王子を王位につけようと目論んでいる一派がいるらしいのだ。そして王妃にマリー様をと。ぶっちゃけそれを目論んでるのはマリー様の取り巻き連中なんだけどね。「たとえ自分と結ばれなくても愛しい人の幸せを願っている」自分に酔っているようだ。とても迷惑です。はい。

アンジェリカ様の評判は真っ二つに割れている。美しく礼儀正しい淑女の中の淑女だ、というものと、陰険で残虐な美しいことを鼻にかけた高慢ちきだという評判。無論後者の評判はマリー様の周囲にいた人間の立てたものだ。どうもアンジェリカ様が嫉妬に駆られてマリー様に意地悪をしているというのは有名な話らしい。


「アンジェリカ様は容姿も、マナーも、勉学もマリー様より優れていらっしゃって、おまけにエドワード様に愛情を持っていらっしゃらないのに、マリー様の何に嫉妬するというのでしょう?」

「伯母様経由で王の耳に入れておくよ。伯母様もエドワード王子の最近の態度は少々目に余ると思っているようなんだ。」

「あ、アンジェリカ様が来られたわ。」

「あちらにはアランがいるな。」


私とサミュエル様は目を合わせた。

二人してそれぞれを引っ張ってきた。


「ティナ、アンジェリカ嬢、僕の友人のアラン・トルキア伯爵子息だよ。」

「お初にお目にかかります。システィーナ・ティリルと申します。」

「お初にお目にかかります。アンジェリカ・シェスカと申しましゅ。」


噛んだ。アンジェリカ様は真っ赤になっている。


「アラン・トルキア。金色の乙女と白銀の乙女にお目にかかれて光栄だ。」


アラン様は噛んでしまったアンジェリカ様を微笑ましく見つめる。


「アラン様も何か音楽をなさるのですか?」


聞いてみた。サミュエル様は音楽会で親しくなったと言っていた気がする。


「ピアノを少し。でもあまり上手くはない。」

「わたくしもフルートを少し嗜んでおりますわ。」


アンジェリカ様が言った。むむっ。みんな楽器をやってるのか!私何にもできないぞ。

アンジェリカ様とアラン様はこちらが気を遣うまでもなく、スムーズにお話が弾んでいる。アラン様には弟さんがいて、兄弟そろって寡黙な感じらしい。アンジェリカ様のアラン様を見つめる眼差しはまさに恋する乙女。エドワード王子急死しないかな。ちょっと不穏なことを考える。普通に婚約解消が望ましいのだけど、上手くいかないもんかなあ…

話を聞くとアラン様もマリー様に纏わりつかれているようだ。アラン様は「流石にあれだけの男を侍らせている女性に心を移したりはしない。」と言っていた。マリー様の行いに少し引いているようだ。

攻略対象なのに何故だろう?と思って後日アンジェリカ様に聞いてみたらアラン・トルキアの好みのタイプは「一途な女性」らしいのだ。他の男性に目移りするとすぐに好感度が下がってしまう、逆ハーレムの最難関であるらしい。



***

春は終わり夏になった。

サミュエル様とは熱々ラブラブ。例の私たちを題材にした劇も一緒に見た。プロの役者さんよりサミュエル様の方が格好良かったけど。劇の事実をどれくらい美化しているかにはあえて触れないが、ときめくような純愛でしたよ?ヤンデレ感のない。

アンジェリカ様とも仲良くさせていただいている。アラン様も交えて、私とサミュエル様とアンジェリカ様とアラン様は大の仲良しだ。

仲が良くなればなるほどアンジェリカ様の境遇がお可哀想に思えてならない。


「アンジェリカ様が『円満に』婚約解消できる方法ってないのかなあ…」


我が家でお茶をしながら、サミュエル様相手につい愚痴ってしまう。

マリー様の周囲の人間のアンジェリカ様への風当たりはかなり厳しいものへとなってきた。最近はエドワード殿下もマリー様に心を奪われてしまっているようだ。アンジェリカ様に「マリー嬢を苛めるのはやめろ。」と仰ったらしい。サミュエル様が伯母様であるロゼッタ王妃に「アンジェリカ嬢はエドワード殿下とのことは政略結婚だとしか思っておらず、マリー様のことが嫉妬の対象になるはずがない。エドワード殿下に言いがかりをつけられて困っている。」と伝えているのでロゼッタ王妃はエドワード殿下に色々と諫言しているようだが、エドワード殿下は「アンジェリカは自分に惚れている」という自惚れを持っているようで、「自分がマリーに心を移したから、アンジェリカがマリーに嫉妬して、嫌がらせを行っている。」と思い込んでいるようだ。マリー様がエドワード殿下にそう伝えているので、頭っからマリー様の言うことを信じ込んでしまってるっぽい。


「アンジェリカ嬢って結局アランのことはどう思ってるの?アランに口を割らせてみたら『お慕いしている…が、エドワード殿下のご婚約者であるアンジェリカ嬢にこんな気持ちを抱いていても、アンジェリカ嬢のご負担になるだけだろう。この気持ちはちゃんと殺す。』ってかなり切ない感じだったよ。」

「本当ですか!?アンジェリカ様は『かつてはただ憧れていただけですけれど、言葉を交わすようになってからは切ない程に恋い慕うようになってしまいました…』と仰っていました。」


アンジェリカ様両想いじゃん!!婚約解消させてあげたい!!


「なら簡単なんじゃない?エドワード殿下とアンジェリカ嬢の婚約は元々『王家に新しく貴族家を立てる余力がない』せいでアンジェリカ嬢と婚約させたのでしょう?アランは長男だし、アンジェリカ嬢がアランに嫁いだらシェスカ家がまるっと空くから、シェスカ家にエドワード王子を養子に取らせたらいい。自分の娘に辛酸を舐めさせた相手を養子に取るわけだから、シェスカ公のエドワード殿下に対する印象は最悪。エドワード殿下は針の筵に座らせられるけど、一応三方丸く収まるんじゃない?シェスカ公は遅くできたお子であるアンジェリカ嬢を溺愛しているらしいし、自分が苦い思いをすれば愛娘が愛しい殿方に嫁げるというなら、苦汁の一つや二つ舐めてくれると思うよ。」

「いいかも!」

「それにはアランとアンジェリカ嬢が、お互いにお互いの想いを知らなくては話にならないんだけどね。僕たちでちょっとつついてみようか?お節介だけど、いっそ両想いだって告げちゃってもいいと思うよ。」

「やってみましょう!」


なんだか上手くまとまりそうで、オラワクワクしてきたぞ。



***

「アンジェリカ様、ご決断ください!」


私はアンジェリカ様にサミュエル様伝いで聞き及んだアラン様のお気持ち、サミュエル様がお話になっていた、シェスカ家を空座にしてエドワード様を養子に取ってもらう案全てをアンジェリカ様にぶちまけた。


「ア、アラン様がわたくしのことを…!?」


アンジェリカ様はアラン様のお気持ちを聞いて相当動揺していた。


「シェスカ家を空座にして王家に掛け合うにはアンジェリカ様からアンジェリカ様のお父様を説得していただく必要があるのです。アンジェリカ様は運命を変えるご覚悟がございますか?」


アンジェリカ様は我が家の庭園で紅茶を一口飲んで心を落ち着けた。


「もし…もし、アラン様からプロポーズしていただけるなら、お父様を説得して見せますわ。」


キターーーーーーーー!!

もう王家さえ納得してくれたら婚約解消確定なんじゃない!?王家の方にはサミュエル様伝いで何度も、何度も「アンジェリカ嬢が迷惑している。」と伝えてあるし。いい加減王家もシェスカ公を怒らせてるのではないかと心配になってきてるみたい。とサミュエル様は仰っていた。


「ではアラン様にそのように伝えてもらえるようにサミュエル様にはお話いたしますわ。」

「はい…」


もう、甘酸っぱいです。ドキがムネムネします。

アンジェリカ様に『恋に咲く』の攻略対象を教えていただいた。「愛することを知らない」サミュエル様、「不器用な自分を包んで欲しい」アラン様、「真実の愛を知らない」ハロルド様、「王位を継げない自分に価値を見出してほしい」エドワード様の他に「頭でっかちで柔軟な思考を知らない」アルジャーノン・ムタリス侯爵子息様と「重度シスコンで、妹に似た少女しか愛せない」ブラッド・ハブレー伯爵子息様らしい。

孤独なサミュエル様、武士属性のアラン様、チャラ男属性のハロルド様、第二王子のエドワード様、インテリ属性のアルジャーノン様、ヤンデレ属性のブラッド様らしい。因みにアルジャーノン様とブラッド様も既にマリー様の逆ハーレムに入っている。

基本嫡男が多いが、サミュエル様や、エドワード様など、嫡男以外のパートナーを選んだ際は、なんと嫡男が入れ替わるらしい。つまりエドワード様主体の逆ハーレムルートに入った場合は、ランドルフ様が失脚して、エドワード様が王太子となられるらしい。正直エドワード様には覇王の才も賢君の才もないと思うけどなあ。マリー様の操り人形にしか見えない。

マリー様は攻略対象以外でも、顔の良い高位貴族は一通り粉をかけているようだけど。そして一定数の男性の心を掴んでいる。


「マリー様は殿方がとてもお好きなんですね。」

「容色に優れて財産をお持ちの殿方が好きなのですわ。」


アンジェリカ様が訂正した。確かに。不細工の下級貴族の子息なんかもマリー様の取り巻きには居るが、顔と名前も一致してない有様だった。


「まあ、マリー様のことは今はいいですわ。声の調子はいかが?」


最近私は声楽の先生を招いて歌唱を習っている。秋になったらハントリー音楽祭で、サミュエル様のバイオリンと、アラン様のピアノと、アンジェリカ様のフルートと合わせて歌うのである。賞は気にしなくていいから楽しくやろう、とみんなで話し合っている。


「はい。最近は良くお褒めいただけます。元の声質が良いから声がよく伸びると言われていますわ。多分お世辞もいくらか入っていると思いますけれど。」

「あら、わたくしも、システィーナ様のお声は素敵だと思っていますのよ。」

「有難うございます。少し照れてしまいますね。」


頑張って練習しよう。



***

アンジェリカ様のご要望はサミュエル様伝いにアラン様に伝えてもらった。全員で曲合わせをする日、アラン様は真っ赤な薔薇の花束を持ってやってきた。これは…!と思って私もアンジェリカ様も緊張する。


「アンジェリカ嬢。貴女をお慕いしている。公爵家という高き位から、我が伯爵家へ落としてしまうことにはなるが…どうか私を選んでもらえないだろうか。」


アラン様が花束を差し出す。アンジェリカ様ははた目にもわかるほどに真っ赤に染まった。


「わ、わ、わたくしも…わたくしもアラン様をお慕いしております。絶対に!絶対にお父様を説得してみせますから、どうかお見捨てにならないでくださいまし。」

「アンジェリカ嬢…愛している。」


花束を受け取ったアンジェリカ嬢は嬉しそうに、初々しく微笑んだ。

曲合わせは上手くいった。


「ティナ。素敵な声だね。みんなに聞かせてしまうのが少し勿体ないと思ってしまったよ。」


サミュエル様からお褒めの言葉を頂いた。


「有難うございます。皆様が私が歌いやすいようにと、素敵な演奏をしてくださったので気持ちよく歌えました。」

「本当に切ないほどに綺麗な声で、胸が締め付けられるようでしたわ。」


アンジェリカ様もほう…っと溜息をついた。


「『恋』が主題の曲になると聞いたときはどんなものかと思ったが、確かにこの歌声にはすごく合っていると思う。」


アラン様も褒めてくださった。そうなのだ。今回のテーマは『恋愛』なのである。タイトルは『君の呼び声』。作詞作曲はサミュエル様がされた曲だ。アンジェリカ様もアラン様もご自分のパートはご自分の演奏しやすいようにちょっと編曲されているが、ベースはサミュエル様の書いた曲。これがまたすごーーーーーーく素敵なのだ。こんな素敵な曲を歌えるなんて!と楽譜を貰った時はドキドキした。


「音楽祭、楽しみですね。」


みんなでワイワイ練習を続けた。


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