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第4話

お茶会である。今日はアルパス伯爵夫人の主催なさるお茶会だ。ペールブルーのドレスに身を包んでお茶会に行った。お茶会の作法は守りつつもみんな私に興味津々だ。いつ、どうやってサミュエル様と出会って恋に落ちたのか聞きたがった。私はサミュエル様との出会いを語って聞かせた。如何にサミュエル様が魅力的な少年だったか。キスの事はぼやかして伝えたけど。みんなうっとりと溜息をついていた。美談に仕立てられてるって言うのは本当だったっぽい。まあ6年にも渡る純愛だから美談で間違いないんだけど。監禁凌辱の事を持ちだすと一気に美談感が薄れるけどね。勿論みんなには言わないけども!アンジェリカ様だけは何故かそわそわ私を見ているが。アンジェリカ様私に何か用かな?

アルパス伯爵夫人の御自慢の花溢れる庭を見せてもらった。みんなでわいわい歩いているとアンジェリカ様が寄ってきた。そっと他のご令嬢の輪から離れる。


「あの、システィーナ様…」

「はい?」

「もし意味がわからなかったら聞かなかった事にしてほしいのですけれど…システィーナ様って転生者ですか?」

「……。」


吃驚した。その発言が出るって言う事はアンジェリカ様も前世の記憶があるのだろうか。


「……すいません、意味のわからない事を言って…」


黙っていた私に、アンジェリカ様が違うと判断したようで言葉を濁そうとした。


「あ、いえ、転生者です。もしかしてアンジェリカ様も?」

「そうなんですか!やっぱり!わたくし以外の転生者の方にお会いするのって初めてです。どこの国の転生者ですか?」


アンジェリカ様の顔に喜色が浮かんだ。


「地球の日本です。OLをしてました。」

「わたくしも地球の日本です!女子高生でした。システィーナ様は『恋に咲く』をご存知ですか?乙女ゲームなんですけど…」

「申し訳ありません。存じ上げませんわ。察するにこの世界がそのゲームの舞台で、マリー様がヒロインですか?」

「どうしておわかりに!?」


社交界デビューの日、サミュエル様とマリー様がしていた言い合いの話をした。その言い合いを聞いてマリー様がヒロインでサミュエル様が攻略対象のゲームがあるのかしら?と推測していた話をした。


「そうなんです!ゲームでは愛する事を知らないはずのサミュエル様が執着とも呼べるほどの愛情をシスティーナ様に抱いていて吃驚したんです。もしかしたらサミュエル様ご本人かお相手のシスティーナ様が転生者なのかもって…」

「私は転生者ですけれどサミュエル様の事は完璧に偶然ですわ。私はゲームの設定を知らないので、この世界を現実だと思って生活していますから。でもマリー様は多分転生者で、この世界をゲームのように思ってますのではないかしら?」

「ですよね。わたくしにとってもこの世界は現実なのですが、現実だからこそゲームの設定があると困った立場に置かれていると言うか…」


アンジェリカ様は所謂悪役令嬢らしいです。『恋に咲く』は乙女ゲームの中では王道、鉄板、煎じ過ぎて味のしなくなった設定らしい。男爵令嬢の下克上ものと言えばピンとくる人にはピンとくる。男爵家の庶子に生まれたヒロインが男爵家に引き取られることから始まるストーリー。ヒロインは市井で暮らしていた庶民も同様。礼儀作法はてんでだめ。でも明るくて、優しくて、前向きで…その性格を持ってして数々の貴公子の心を癒していく。第二王子であるエドワード様の婚約者であるアンジェリカ様だが、エドワード様の周りをうろちょろするマリーが気に食わない。そりゃあ自分の婚約者の周りを別の女がうろちょろしてたら気に食わないよ。同意できるが同意しちゃだめらしい。アンジェリカはマリーを苛めに苛め倒し、最後は罪が露見して修道院に入れられるか国外追放だと言う。


「エレーヌ修道院は『奴隷の館』と呼ばれるほどのきつい強制労働のある修道院なんです。国外追放だって、今まで貴族をやってきた令嬢が犯罪者として国外に出されて無事に生きてけるとは思えないんです。」

「マリー様を苛めなければいいだけでは?」


アンジェリカ様が首を左右に振る。


「マリー様が、わたくしに悪口を言われたって言って回ってるんです。そんなことしてないのに。エドワード様にも涙ながらに訴えたみたいで、エドワード様…半信半疑なんです。」

「婚約解消できませんの?正直エドワード様が素敵な男性には聞こえませんわ。アンジェリカ様のような素敵なご婚約者がいるのに、少し見目の良いお嬢さんに泣きつかれたくらいで婚約者を疑うような男はろくなものではないと思います。」

「でもアンジェリカの初恋なんです。」

「ん~…アンジェリカ様、本当にエドワード様の事お好きですか?」

「え?」

「前世を思い出した時、前世の自分と今世の自分がぐちゃぐちゃに混じり合って新しい自分になるみたいな感覚しませんでした?旧自分の気持ちは新自分にとってノーカウントですよ?本当にエドワード様が好き?一緒にいてドキドキする?触れられて嬉しい?」

「……。」


私はアンジェリカ様の綺麗なエメラルドグリーンの瞳を覗き込んだ。


「…わからないです…。一緒にいると緊張してドキドキしますが、それが恋のときめきなのかちょっとよくわからないです。ずっと一緒にいたので触れられると馴染みますが、嬉しいかと聞かれると首をかしげざるをえません。」

「キスできる?性交は?エドワード様の赤ちゃん欲しい?」

「……しろと言われればできる気はしますが、喜んでする事じゃないですね。どうやらわたくしはエドワード様を好きではないようです。」

「なら『いつでも婚約解消に応じますからね?』と伝えてみてはいかがでしょう。アンジェリカ様がエドワード様に想いを寄せていなければその苛めは成立しませんから。」

「そうしてみます。」

「そもそも、婚約はどちらのお家のお申し出なんですか?」

「王家からですわ。率直に言って貴族が多すぎるのです。エドワード様の為に新たに貴族家を立ち上げるのは余力が無いから、今ある貴族家にエドワード様を婿入りさせたいと言う意向で…わたくしはシェスカ家に遅くに出来た一人娘で、後は続かないだろうからって言うので丁度良かったみたいです。」

「王家からわざわざ申し出ておきながら、別の女性によろめいた揚句に断罪するなんて結構酷いお話ではなくて?」

「ええ、本当に…」


アンジェリカ様はゲームの事をあれこれ聞かせてくれた。ハロルド様も攻略対象で『真実の愛を知らない』と言う設定らしい。チャラ男属性っぽい。アンジェリカ様のご贔屓だったキャラクターはアラン・トルキア伯爵子息。黒髪黒目で武士って感じの寡黙で逞しい人らしい。『口下手で誤解されやすい』って言うのが悩みみたいなんだけど、その分口に出す事はお世辞抜きの本心で、誠実な人なんだと。もし彼がマリーに骨抜きになっちゃったりしてたらがっかりかも。と言っていた。



***

ロンソワ家でサミュエル様とお茶をした。苺のタルトが供された。とても美味しい。紅茶もすごくいい香りだし。


「ティナは誰か仲の良いお友達は出来た?」

「アンジェリカ・シェスカ様と仲良くなりましたわ。サミュエル様は?」

「ハイド・クラーシスとアラン・トルキアと仲良くなったよ。」

「アラン様…」


まさかサミュエル様の口からその名を聞くことになるとは思わなかったので、意外感いっぱいだ。


「何?ティナ、アランに興味あるの?」


サミュエル様が渋い顔をした。


「ヤキモチですか?」

「妬くよ。アランは顔もいいし、逞しいし、性格も男前だもの。ティナがよろめいて寝取られたりしたら僕はどうしたらいい?」


ヤキモチ妬いてるサミュエル様可愛い。同意のうえでの寝取られは絶対に発生しないので安心してほしい。寝取られとか一番嫌いなジャンルだ。


「私が好きなのはサミュエル様だけですよ。アラン様はお顔も存じ上げませんし。そうではなくて、アンジェリカ様が…その、少しアラン様に憧れていて…アラン様はアンジェリカ様のことどう思ってるのかなあ…と気になってしまって。」


サミュエル様はちょっとホッとした顔をして、それから訝しげな顔になった。


「アンジェリカ嬢ってエドワード様のご婚約者じゃなかった?」

「それが少々破局の危機で…。」


マリー様の言いがかりをエドワード様が半分くらい信じていて、アンジェリカ様との信頼関係が大きく揺らいでいる事を伝えた。


「マリー嬢って僕に『愛する事を知らない』って言ってきた子でしょう?思い込みの激しそうな子だったよね。しっかりした婚約者がいながらあんな子の言うこと真に受けるとかエドワード様って大丈夫なの?」

「どうなんでしょう?エドワード様とは面識が無いのでわからないです。サミュエル様の方がお詳しいのでは?」


たしかロンソワ公爵のお姉様が王妃様だったように思う。従兄弟同士ってことだよね。多分それなりに家同士での付き合いがあるのではないだろうかと思っているのだが。


「エドワード様ってお兄様と同い年で、お兄様はかなり親しくされてるみたいだけど僕は殆ど話したことない。」

「そうなんですか…」

「第一王子のランドルフ様とは結構話すんだけどねー。まあ、真面目な人だよ。真面目な割には程々に柔軟性もあるし。覇王にはなれないけど賢君にならなれると思うよ。」


ランドルフ様は第一王子、今年20になられたはずだ。


「エドワード様が第一王子でなくて良かったですね。」

「まあそうだけど。伯母様もお父様も子育て失敗してるんだね。お父様なんて兄弟両方とも駄目だし。」

「サミュエル様は駄目じゃないじゃないですか。」

「失恋したからって監禁凌辱を企むのはどうかと思う。」


サミュエル様…自分でわかってるならなんでその選択肢を選んだの?


「駄目だってわかってるけど、危険思想だってわかってるけど、ティナに振られたらと思うと黒い心が隠せなくて…どんなに悪いやつだと、危ないやつだと思われても、無理矢理にでも手に入れたくて、身体は無理矢理手に入れる事は出来るけど心は手に入らないんだって思ったら悲しくて、僕の手に入らないくらいなら壊してしまいたいと思ったんだ。ああ、でも純粋に壊れて僕だけを求めるティナは可愛いだろうなあ…とも思ってるから危ないやつで間違いないよ?こんな風に僕を育てたお父様は子育て失敗だよね?」

「子育てって難しいですね。ヤンデレも意外と大丈夫だった自分に驚いてます。」


ヤンデレだけは絶対ないと思ってた。愛情表現がこえーよ。なんでもっと普通に愛せないの?と常々思っていた。ヤンデレの恋愛対象にだけは絶対なりたくないとも。しかしヤンデレの恋愛対象にいざなってみると、自分が相手のヤンデレに惚れてると意外と平気な事が判明した。


「やんでれ?」

「病んでいる+でれている。の合成語です。私は狭義で指しますが好意が強すぎて精神的に病んでいる状態ですね。物語で読んだ時はこれだけはないな。と思ってたけど意外と平気でした。でも私が壊れちゃうと私が楽しめないです。私は私の意思でサミュエル様を愛し、2人で恋を楽しみたいです。こういう健全な恋はお好みでないですか?」

「ううん。すごくいい。ティナがそう言ってくれる限りは壊すのは見送るよ。」


そうしてください。「見送る」だけで今後万が一振るような事があったら壊されるんだろうけど。ヤンデレも意外と平気だったし、壊れてみたら壊れてみたで意外と幸せかもね。


「話は戻すけどアンジェリカ様のことどう思ってるか、それとなくアランに聞いてみるよ。まあ、色好い返事であったとしてもエドワード様の婚約者でいるうちはどうしようもないだろうけど。」


そんなことを話しながら二人でお茶を楽しんだ。そしてそして!サミュエル様が私の絵画をイメージして作曲した曲をバイオリンで演奏してくれた。すっごーく綺麗な曲だった。曲名は『慈雨』だそうだ。バイオリンを演奏するサミュエル様のお姿がまた素敵で、ドキドキさせられた。格好良いよねえ。サミュエル様はいつも格好良いけど、バイオリンを演奏しているお姿は二割増しで格好良い。


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