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第3話

後日、ロンソワ公爵が家に謝りに来た。土下座で。暗褐色の髪にサファイアブルーの目をしたロンソワ公爵は顔中を汗にして平謝りしている。

話を聞けば、ロンソワ公爵はかなり早い段階でハロルド様を見限っていたらしい。12歳の時点で侍女をお手付きしたりと、かなりの女好きだったようで「この子は将来女で身を持ち崩すだろう。公爵位はサミュエルに譲ろう。」と思っていた。ところが10歳の頃サミュエル様と私がキスをしているところを見た使用人がいたらしく、ロンソワ公爵に告げ口。ロンソワ公爵は「まさかサミュエルまで女好きに育ってしまったのか…!」と冷や汗だらだら。お茶会自体は女性がやや苦手なサミュエル様を女性に慣れさせるためではあったが、キスまで行くとは思ってなかったらしい。どこの馬の骨ともわからん伯爵令嬢を大事な跡継ぎに近付けてなるものかと使用人各位に「サミュエルがシスティーナ・ティリルに出す手紙とシスティーナ・ティリルがサミュエルに送ってきた手紙は全て没収してサミュエルの目の届かないようにすぐに焼却処分するように。」と伝えていたらしい。

サミュエル様は手紙の返事が無い事に思い詰めながらも他の女性に揺れ動く事もなく、見た目はまともに過ごしていたため、ロンソワ公爵は「良かった。一時の気の迷いだったようだ。」と結論付けてハロルド様の廃嫡に動き出していた。その間ずっとサミュエル様も私に、私もサミュエル様に手紙を出し続けていたのだが、命じたロンソワ公爵は命じた事を忘却の彼方に飛ばしていて、事態を把握していなかったらしい。使用人たちは命じられた通り淡々と職務をこなしていて誰も何も言わなかったのでサミュエル様が出した手紙が千通を越していたことにすら気付いていなかったようだ。そして例の疵物事件である。私の事を忘却の彼方に飛ばしていたロンソワ公爵は寝耳に水とばかりに驚倒したらしい。

サミュエルのやらかしてしまった事は到底許されることではないのはわかる。わかるが、その上でお嬢さんをサミュエルの妻に貰えないだろうかと頭を下げてきた。

私たち家族は顔を見合わせた。長年に渡り私とサミュエル様を苦しめていた事は許し難いが、嫁に貰ってもらわなくてはならないのはこちらなのである。もう私はサミュエル様が平民だろうが公爵だろうが嫁に行く気満々なのだから。


「もう二度と早まった真似をしないと言うのなら、今回の事を見逃しましょう。しかしながら、我々が憤慨しているのはサミュエル様の過ちにではなくロンソワ公爵様の所業にだと言う事だけは誤解なきようお願いいたします。」


お父様が締めくくって終わった。

ロンソワ公爵と一緒に来ていたサミュエル様はシリウスと遊んでいた。


「シリウス、お兄ちゃんに遊んでもらってたの?良かったわね。」

「うん!お兄ちゃんが作る紙飛行機すごいんだよ。びゅーって飛ぶの!」

シリウスが作ってもらった紙飛行機を手にとってびゅーっと動かす。


サミュエル様がシリウスの頭を撫でている。


「子供って可愛いね。ティナは結婚したらすぐ子作りしたい?それともしばらく2人が良い?」


こ、子作りですかあ…私は頬を赤くした。この世界は地球のようなゴム製の避妊具がある。貴族なんかだと王妃の御懐妊に合わせて出産時期を調節する家庭なんかもある。娘を王太子妃にってね。


「しばらくは2人が良いかも…」

「ねーねー、お姉ちゃん。子供ってどうやったらできるの?」


シリウスの純真な目が痛いです。


「それはお父様とお母様に聞きなさい、シリウス。」

「わかった。聞いてくる!」


シリウスは思いついたら即行動だ。もうお父様とお母様の元に行ってしまった。ロンソワ公爵の前で話を切り出されたお父様とお母様はさぞかし困る事でしょう。


「シリウスと遊んでくださってありがとうございます。」

「ううん。楽しかったよ。自分の子供欲しくなっちゃった。」

「そうですか…」

「ティナは僕との赤ちゃん欲しくない?」

「さ…最終的には欲しいです。」


サミュエル様はニコニコ微笑んでいた。


「ティナとの誤解が解けて良かった。」

「サミュエル様は私をキズモノにして誰とも結婚させないつもりだったんですか?」

「すっかり振られたと思い込んでいたから…ティナをキズモノにして社交界から引っ込ませて、攫って監禁して凌辱して僕の事だけ求めるように壊しちゃおうと思ってた。実はもう監禁用の屋敷確保してある。一生ティナを飼育するつもりでいたから中々可愛い屋敷を選んだんだよ?」


ヤンデレ搭載…だと…!?


「壊れたティナを想像するのも興奮したけどやっぱり普通のティナが良いや。」


思い留まっていただけてナニヨリデス…


「でも今まで貰ったお小遣い全部使って買った家だから全く行かないのも勿体ないかも。今度泊まりに行く?周りはスラムだけど窓には鉄格子が嵌まってるから安全だよ!」


笑顔でそんな事言われても…鉄格子って…それスラムの人も家に入れないから安全かもしれないけど私も外に出られないってことだよね…本気で監禁するつもりだったっぽい。


「私は風景が綺麗で、治安のいい場所にある、アトリエと音楽室付きの屋敷が良いです。」

「じゃあ、監禁用に確保していた屋敷を売って、ティナの希望通りの屋敷を買おうか?」

「監禁用の屋敷がそんなに高く売れます?」

「貴族の家で『生涯幽閉』って決まった人間がそういう家に監禁されるみたい。鍵も凝ってるから意外と高額だよ。」

「へえ…」


なんて事をお話しした。サミュエル様にサミュエル様の曲をイメージして描いた作品が『虹』だとお話したら『虹』を見てみたいと仰られたのでアトリエに案内した。サミュエル様は『虹』を見て茫然。


「あの曲がこんなに美しく表現されるなんて…!」


すごく喜んでくださった。サミュエル様は「雨上がりの何となくウキウキした気分」を曲で表現していたらしい。雨上がりと言う部分は受信できました模様。私が書いた数々の絵を紹介した。サミュエル様は水の精霊が恵みの雨を慈愛している絵に目を留めて「今度は僕がこの絵をイメージした曲を作るよ。」と仰っていた。


「これは?」

「あ、それは駄目です…」


サミュエル様が一枚の裏返ってるキャンバスに手を伸ばしたので止めた。


「なぜ?秘密にするような絵なの?」


私は真っ赤になった。


「やっぱり見せて。」


サミュエル様はキャンバスを表にしてしまった。


「……僕?」


それは10歳当時のサミュエル様の肖像画だ。私の脳裏に張り付いて離れなかった照れくさそうな微笑を浮かべた姿だ。いつも凹んでしまった時や、どうしようもなくサミュエル様が恋しい時、この絵を見て自分を励ましていたのだ。


「ティナってかわいい…」


とん、と唇に唇をぶつけられた。一瞬触れるだけのキス。ちょっと物足りない。


「もっとしたいけど、深くすると、それ以上もしたくなるから今日は我慢ね。」


常に避妊具持ち歩いているわけでもあるまいし、それに婚約すらまだ正式に交わされていない間柄だ。急ぎ過ぎるのは良くない。私は頷いた。


「婚約楽しみだね。お父様が婚約披露の時にお兄様を廃嫡して僕を跡継ぎにするのを発表するって言ってた。お兄様には直前まで内緒だけど。」

「社交界デビューであんな事やらかしても跡継ぎになれるんですね。」


私的には問題ないけど、世間的には社交界デビューで未婚のご令嬢に急にべろちゅーはナシだと思う。私も抵抗しなかったから無理矢理ではないけど。


「普通はなれない。でも比較対象が酷過ぎた。お兄様が精通が来てから今までで堕胎させた子供の数は10じゃきかないよ。」

「避妊してないのでしょうか?」

「生でやるのが好きみたい。遊んだご令嬢の数はその2倍以上はいるし、市井の女性や使用人も含めると数え切れないから。」


あらら。


「それに僕らのは、『父親に愛を引き裂かれてすれ違ってしまった恋人たち』って悲恋からの美談仕立てにされてるっぽい。今度僕たちをモデルにした劇を上映するんだって。見に行こうか?」

「ちょっと恥ずかしいですよ。」

「ふふっ。どれだけ美談になってるのか確かめるのも面白いと思うよ。」


サミュエル様は悪戯に微笑んだ。確かにサミュエル様とお出かけはしてみたいけど。


「婚約披露までに少しは友達作っておかないとね。ティナはお茶会?」

「ええ。お誘いがあればお茶会に出席します。お母様もいくつか主催なさると思うし。サミュエル様は狩猟ですか?」

「ううん。音楽会。僕も演奏するけど色んな人が集まって演奏するの。ティナもおいでよ。男女で別れてるわけじゃないから。」

「では、参ります。」


あれこれ予定を約束し合った。


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