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第1話

新システィーナ爆誕から、流れるように初恋に移行していきます。ひねりって何?おいしいの?

私はシスティーナ・ティリル。ティリル伯爵家の令嬢だ。食べることと美しいものを愛でる事が大好きな、一般的な貴族令嬢だ。5歳のある日、階段からすっ転げて頭を打った拍子に前世の記憶なるものがドバドバと脳内に流れ込んできた。前世で私は地球の日本と言う国に住む、酒と恋愛小説を好む一般的なOLだった。何につけてもおっとりのんびり屋なシスティーナの人格は新たに入ってきた私の人格に圧迫され、擦り削られ、刻まれ、撹拌され、あっという間に新私システィーナになってしまった。

私は我が手を見た。ぷっくりしている。今までの生活と食事内容を振り返ってみる。

おいおい、システィーナさんよ。これじゃあ立派な白豚への道を歩んでしまうぜ?現に今の体型はぽっちゃり系だ。まだ酷い豚ではないがその道に進む過程にあると言えよう。私は早速厨房へ突撃した。


「ジャニス!」


料理長のジャニスは私を見て相好を崩した。


「システィーナお嬢様。お菓子の催促ですかな?」

「いいえ、逆よ。お菓子は限りなく控え目にしてほしいの。それから食事も食べる量を少しずつ減らしていって標準の5歳児の食事量にしたいのよ。ジャニスだって私が食べ過ぎている事はわかっているでしょう?私、もうこれ以上太りたくないの。食事の内容もそのつもりでお野菜多め、油少なめにしてほしいわ。」


ジャニスは吃驚した顔をしていた。


「お願い。」


私はジャニスを拝んだ。


「わかりました。女性にとっては体型と言うのは最重要課題らしいですからな。このジャニス、お嬢様の為にメニューを考えましょう。」

「ありがとう!」


その日の晩からメニューが変わった。量も少し減ってるし、野菜がたっぷり。お肉もささみなどを使ったヘルシーなものになっていた。そのくせ味は変わらず美味しい。


「ティナ。今日は妙に食事の量が少なくないかい?ジャニスと喧嘩でもしたのかい?」


心配してくれるのは優しいお父様。名をクラークと言う。茶色の髪に瑠璃色の瞳の美男子だ。


「いいえ、お父様。ティナはダイエット中なのです。」

「ダイエット?子供がぽっちゃりしてるくらい気にしなくてもいいんじゃないかな?」

「ぽっちゃりで許されるのは子供のうちだけです。私があのまま食べる量を際限なく増やしていって横に横に成長し続ければ、どういうご令嬢になるか想像つきますでしょう?お父様は5歳児の平均的な食事量を把握してらして?それと比べて私の食事量がどうだったか思い出してくださいませ。」

「……そうだね。ティナは少し食べ過ぎていたかも…ごめんよ。こういう事は普通親が注意してあげるべき事だよね。ティナがあんまり美味しそうに食べるからついそのままにしてしまったよ。」


放置も一種の虐待だからね?まあお父様は愛情故にそのままにしてしまったのだろうから許すけど。


「ティナちゃんは今でも可愛いけど、痩せたらきっともっと可愛くなるわね。楽しみだわ。」


このほわわわわ~んとしたのがエステルお母様。お母様はものすごい美女である。さらりとした銀糸の髪が美しい。嬉しいことにその素敵な髪色と髪質はちゃんと私に遺伝している。


「お父様、食事制限だけのダイエットは失敗しやすいですわ。運動もしたいんですの。何か運動着のようなものを用意して欲しいのですけれど。」

「分かったよ。ティナ。」

「それから、お勉強をしたいです。普通のお勉強とマナーとダンスも。あと絵画なんかを習いたいですわ。」

「今日は急にどうしたんだい?やりたい事が随分あるじゃないか。」


いえね。のんびりしてたら人生は詰んでいくと言う前世さんの有難い人生訓があるもので。磨けるうちに自分を磨いてリア充に…いや、リア獣に!ワイルドに行くぜ!


「ティナは生まれ変わったのです。お母様のような誰もが溜息をついて眺めるようなレディになりたいのです。」

「うんうん。流石エステルの娘。きっとティナならエステルのような真のレディになれるはずだよ。」


快くお父様とお母様の許可を得て、お風呂に入ってから出てきて柔軟、筋トレを行った。



***

運動、勉強、礼儀作法、ダンス、絵画と日々は忙しく過ぎてゆき10歳。もう子豚ちゃんとは言わせねえぜ。すらりとしなやかな手足の女の子になった。まだ体つきに女の子らしい丸みはないけどほっそりと優美だ。真っ直ぐな銀糸の髪に、長い睫毛に囲まれたぱっちりとした瑠璃色の瞳。ツンと高い鼻にぷっくりした薔薇色の唇。滑らかなミルク色の肌をしている。仕草は見惚れるほどに優雅で、書く字は美しく、絵画では密かな才能を開花させているとのこと。頑張りました。頑張ったでしょう?褒めていいのよ。とはいえ安心したらそこが終着地点。これからも努力は続けます。他に大きな変化と言えば、弟が生まれた事かな?今年2歳になるシリウスと言う子で、茶髪に瑠璃色の瞳をしたお父様そっくりな幼児である。とても可愛い。これで私はどこかに嫁に行くしかなくなったけど。


「ティナちゃん。ロンソワ公爵家のお茶会の招待状が届いてるのだけど行く?」

「それはお母様宛てでは?」

「お子様もどうぞご同伴くださいって書いてあるのよ。まだご婚約者も決まっていないらしいから、めぼしいご令嬢を招いているのかも。」

「ロンソワ家の御子息はどんな方ですか?」

「ティナちゃんより二つ年上で、それはもう綺麗な子供らしいわよ。天使と名高いわ。」


ふうむ。目指せリア充としては見逃せないイベントですな。


「参りますわ。シリウスはどうされるのですか?」

「乳母のハンナに任せて一日お留守番よ。」


シリウスよ。お姉ちゃんは戦場に行ってくる。応援していてくれ。

当日、藍色のふんわりとした綺麗なドレスに袖を通した。お母様に連れられて、ロンソワ公爵家へ。案内されてご夫人方は、ご夫人方の輪の中へ。子供は纏められてお茶とケーキを振舞われた。


「初めまして。ハロルド・ロンソワです。よろしくお願いしますね。皆様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


ハロルド様は淡い金髪にサファイアのような目をしていらっしゃる。天使のようにお可愛らしい顔つきの子供だった。12歳の色男。

自己紹介タイムで私も無難な自己紹介をした。そこからがすごい。貴族令嬢の苛烈な戦いだ。


「ハロルド様、わたくし刺繍が得意でハロルド様にイニシャルを刺繍したハンカチを持ってきたんです。」

「ハロルド様、わたくし詩が得意でハロルド様に贈る詩を…」

「ちょっと邪魔よ!」


砂糖に群がる蟻のようにハロルド様に令嬢たちが群がっている。流石優良物件。皆さんハンターになっている。周りが殺気立ってある意味盛り上がっているけど、逆に私は冷めた。ハロルド様に選ばれたりしたら私苛められそうだし。ハロルド様は止めておこう。美味しくお茶とケーキを味わっていると音楽が聞こえてきた。この音色は…バイオリン?すごく素敵な音楽。雨上がりの薔薇に妖精たちが踊っているような…ふわふわと、夢みたいなメロディ…イマジネーションが掻き立てられる。この曲を…この曲のイメージを描きたい。

私は音に惹かれるように歩きだした。綺麗な薔薇園を抜けて中庭を横切り音のする方へ、薬草園のような所から少し高くなっている段差の上にバイオリンを奏でる少年の姿を見つけた。一心不乱にバイオリンを弾く彼は音楽の神が降りてきているかのように神々しい。私はうっとりと彼を見つめた。さらりと風にたなびく暗褐色の髪。瞳は今は少し伏せられて楽器だけに集中している。音に惹かれてきたが、ヴィジュアルも実に素晴らしかった。この少年物凄く顔立ちが整っている。年は同じくらいかな。すごく格好良い。

演奏が止んで彼がこちらを見た。


「どうしたの?」


少年は優しく微笑む。

少年が段差を降りてきた。弦を片手に移してもう片手で私の頬を撫でた。少年の手は凄く冷たい。


「温かいね。」


少年が笑うので私の頬の温度はますます上がった。


「迷っちゃった?」


穏やかな瞳は神秘的な灰色をしている。その瞳に映されるだけで何やらドキドキと動悸がする。どうしよう、緊張する。


「いえ、その…曲が聞こえて…」


へどもどと答える。


「煩かった?」

「いえ。とても素敵でした。」

「…そう。ありがとう。」


少年は綺麗に笑った。


「さっきの曲をモデルにして絵を描いてもいいですか?」

「構わないけど…君が描くの?」

つたないですが。」

「へえ。見てみたいな。」


目が合うと恥ずかしくて逸らしてしまうのだが、それでもお顔が見たくて赤くなりながらチラチラ視線を向ける。


「恋の視線?」


指摘されて真っ赤になる。こ、恋なんだろうか。前世の私にとって遠い昔過ぎて思い出せず、システィーナ暦始まって以来の胸の高鳴りだ。


「ふふっ。そういう視線お兄様がご令嬢から沢山浴びてたけど、僕が浴びることになるとは思わなかったな。なんか、こそばいね。」


少し照れくさそうな微笑を浮かべる姿がとても素敵で思わず目が釘付けになる。彼が私の髪に触れ輪郭をなぞった。


「君、かわいいね。僕はサミュエル・ロンソワ。名前を聞いてもいい?」

「し、システィーナ・ティリルです。」


ロンソワってことはハロルド様の弟さんと言うことだろうか……私は少し落胆した。公爵家次男なら他家に婿入りするだろう。お嫁に貰ってもらわねばならない身の私とは結ばれない。子爵か伯爵あたりの長男だったら良かったのに…


「ティナって呼んでもいい?」

「はい。」

「座る?」


サミュエル様が草の上にハンカチを敷いてくれた。有難く座る。サミュエル様が隣に腰掛けた。


「ティナは今日のお茶会に招かれて来てたんでしょう?お兄様と仲良くしなくていいの?」

「ハロルド様はちょっと敷居が高すぎました。ご令嬢方の熾烈な争いが恐ろしくて…それに…」

「それに?」

「さ、サミュエル様の方が素敵だし…」


私は真っ赤になりながら言った。


「……。」


ああ、サミュエル様が黙ってしまった。引かれたのだろうか…前世で読んだ数多くのロマンス小説たちよ、こういう時どうしたらいいか教えておくれ。前世の記憶に問いかけても答えはない。あわあわとなんて言っていいものか言葉を探す。

サミュエル様がすいっと私の頬に手を当て唇に口付けた。


「!」

「内緒だよ?」


悪戯っぽく微笑む。引いていたわけではなかったようだ。うわーうわー!初ちゅー奪われちゃった!!ドキドキ高鳴る胸に手を当てて真っ赤になって俯いた。


「ほんと、かわいい…」


サミュエル様がちゅっちゅと頬と耳にキスした。


「な、なんか手慣れてません…?」


すごい自然な流れでキスしてるけど。実は遊び人だった説は否定して欲しいんだけど。


「君、僕の事いくつだと思ってんの。初めてに決まってるでしょう?」

「だ、だって…」


また唇にキスされた。


「だってもでももないの。キスするのは初めてだけど結構気持ち良いね。唇ぷにぷにだし。」


そして再びキスされた。今度のキスは長い上に、続けて角度を変えて食まれた。ぷにぷに感を楽しんでいるようだ。


「ティナもきもちい?」


聞かれたので「うん。」と答えると再びキスされた。児戯のようなキスだけどすごく気持ち良い。私が気持ち良い理由は唇がどうというより相手がサミュエル様だからだろうけど。これで気持ちが通じ合ってたらきっともっと気持ち良かった。


「他の人にはしちゃダメだよ。」


耳元で囁かれたので夢中で頷いた。


「ティナの趣味とか聞いてもいい?」


キスの嵐から解放されて普通の会話になった。


「趣味かどうかわからないですけど、絵画です。見る方じゃなくて描く方。」

「いつもどういう絵を描いているの?」

「この前は……」


趣味の話や勉強の話など色んな話をした。お互いの兄弟の事とか。ハロルド様は大層な女好きらしい。しかも自分と同い年くらいの令嬢からお姉様方まで幅広い年齢層で。お父様が手を焼いているらしい。私の可愛い弟、シリウスの話もした。まだ2歳の幼児。元気いっぱいで動き回って使用人さんたちを困らせていると言う話。話題は尽きることなく、夕刻私を探してロンソワ家の人がやって来るまでお喋りを続けた。私は「どこに行ってたの?探したのよ?」とお母様に叱られた。


10歳児が原っぱでちゅっちゅ。

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