その2
「この花、どうやって咲かしてるんですか〜?」
午前中のアルバイトが終わって帰り際、山口さんは花壇の世話をしているおばちゃんに声をかけた。
あたしは横目にそれを見る。
「簡単よ。これはね・・・・・・」
その花の咲かせ方について、「これはね」以降を覚えていない時点で、いかにあたしが興味を持っていなかったかが分かる。
うれしそうに話すおばちゃんに熱心に耳を傾ける山口さん。
「何でだろう〜。やまぐっちゃんからもらった時はすっごい元気だったのに、あたしが世話したら枯れちゃった〜」
そう言ってあはは〜と笑うのは山口さんと同期の先輩だ。
「構いすぎなんだよ」
山口さんは笑う。サボテン枯らしちゃうタイプでしょ?という質問に対して、先輩は「あ、分かる?」と言った。
「ほっときすぎてもいけないけど、構いすぎてもダメ。それにそれぞれ個性がある。だから同じ種類のものでも、同じように世話して両方きれいに咲くなんてことはないんだよ」
血液検査の表を見ながら、山口さんは言う。
「やまぐっちゃん上手だもんね〜」
「育てた植物と、たまたま相性がよかったのよ。あ、後発不可入れ忘れてる」
横でこそこそとコンピュータ入力をしていたあたしは、はっとなって、入力しなおす。
「や、山口さんは朝早く起きるんですか?」
更衣室で鉢合わせしてしまったため、最低限話す。以前起きるのが早いと誰かと話しているのを聞いたことがあり、それで聞いてみる。
「うん〜そうだね。朝5時に起きる」
朝5時!どんだけ早起き!?
「それで犬の散歩して〜朝食作って〜洗濯して〜洗い物して〜掃除して〜ここに来る」
あっさり言っていることはすさまじい。
「それだけこなして来てるんですか?」
「そうだね〜だからここで休んでる。こんな楽な職場ないよ〜。座ってられるし」
いや、それはそうだが。
「それに、帰って掃除とかしたくないしね」
朝だってしたくない。
なんかの基準が山口さんとあたしでは違っているのだろうか。
あたしは「すごいですね」と言って控え室を出る。
「あなた、もういけるんじゃない?」
研修期間は人によって違う。
ここは基本二人体制なので、一人出来なきゃそのままもう一人の負担になる。
「うん。いけると思うよ」
そう相槌を打ったのは山口さんだ。
あたしはどきり、とかしこまった。
「いけるね?」
その問いかけに、あたしは曖昧に微笑む。