表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/74

所得3倍増計画完了

遅くなりすみません。

これにて完結です。応援してくれた方に感謝します。


 今年は2030年で、所得3倍増計画の最終年であり、まもなく計画完了の式典が大々的に催されることになっている。誠司は、1年前に家族とともに銀河防衛機構の本部であるデカタル星から地球に引き上げてきて、今はニューヨークのフラットに戻っている。

 星太は10歳、さやかはもう8歳になっており、どちらも小学生になっている。星太については、誠司以外にマドンナを使えることが判っている人材ということで、慎重な検査と調査の結果、10歳で知能強化処置を受けることになったため、すでに1ヵ月まえに処置を終了しており、その後の集中的な知識の吸収とその応用方法の訓練に入っている。


 知能強化処置も、最初の処置から8年以上が過ぎて処置後の教育方法も洗練されて来ている。特に最初の頃は、知能が1.5倍から2倍に伸びた子供を普通の大人が教育しなくてはならなかったので、それに対応できる教育者がいなかった点が非常に大きな問題であり、結局映像や、書籍などのテキスト資料に多くを頼るしかなかった。

 しかし、今では処置を受けた者達が教育者として育っており、映像やテキスト資料の充実による効率のよい知識の吸収に加えてその知識をどう使うかという応用の面では処置を受けた者達が活躍して、通常12歳の処置後3年程度で実務に入れるレベルに達している。


 しかし、処置を受けて3年後の15歳で社会に出るのは余りに過酷ということで、15歳から18歳まではいわゆるトレーナーとしての扱いで、給料をもらいながら半ば仕事、半ば教育ということになっている。

 基本的に教育期間は18歳までであり、その後はOJTで働きながら学んでいくということになるが、これは従来の社会もそのようになっていたわけであるから、この点は変わらないということである。結局、強化された知能により、人々は、従来であれば大学院でも吸収しきれなかったほどの知識と応用能力を18歳にして身につけることが出来ることになる。


 そこにおいて、問題は知能強化に年齢制限があることで、標準の処置は年齢12歳から行われ、16歳以上では効果が薄く、20歳では殆ど有為な効果は出ないことである。すなわち2022年に日本の西山大学で開始され。2025年に至って世界中の殆どすべての子供に広まった知能強化処置はその時点で16歳から19歳のものは効果が低く、さらに20歳に達していたものは受けられなかったのである。

 もっとも、ブレインルーブ剤によって成人でも10%程度の知能改善効果がある他、老齢による知能減退は避けられ、さらにこの薬剤の常用によって知的作業の活性化が著しいため、2割近い人々が週1回程度の服用をしているので、この薬の消費量たるや莫大なものになっている。

 

こうしてすべての若者が、かってで言えば天才的な知能を持つことになったことによる社会の大きな不安定化の懸念があったが、地球頭脳の指導による処置後の若者に対する教育やさまざまな広報活動により大きな混乱が起きることは避けられている。

 しかしながら、当然であるが知能強化措置を受けた若者を単純肉体労働や工場のラインの一員として働かせることは本人のモチベーションを保つことができないので不可能である。このため、作業用ロボットや人手を省く自動機械の急激な開発・普及が進んでいる。

 この結果、単純労働の部分は減って来ているが、さまざまな建設作業においては、肉体労働の部分はロボットにやらせても、監視・操縦なしで自動で行える作業は少なく必要な操縦者の数は余り減らないことが判ってきた。


 これが自律的な判断を行えるロボットであれば、人の数は減らされるのだが、技術的には可能でもそうしたロボットの運用は地球連邦としての雇用確保のため、及び安全のための方針で軍用に限られている。

 このように、地球上では地域開発等の経済活動は極端に増えているが、こうしたロボット化もあって、生産効率は著しく上がってきているため、急激にその生活圏を植民惑星ホープとホライゾンに広げて、その雇用の場を増やしているのが実情である。


 ニューヨークの居心地のいいフラットで、星太とさやかが仲のよい友達と遊びに行った休日の午後、誠司が妻のゆかりにしみじみ話しかける。

「ゆかり、もうすぐ所得3倍増計画終了だけど、思えば地球もとんでもないところに来たね。

 ゆかりに最初に出会ったころは、僕たちにとっては日本がすべてで、その日本が中国とか韓国ときな臭かったため新兵器の開発を迫られていたよね。その後ラザニアム帝国との生存をかけた戦いがあって、その後シーラムム帝国にも出会い、銀河防衛機構にも加わってイーターと戦うことになると日本人としてではなく、どうしても地球人として考えるようになるよね」


 それにゆかりがゆったりと答える。「うーん、確かに、この12年間かな。この地球の動きはすごいよね。人口こそは殆ど80億人強で横ばいになったけれど、すでに惑星ホープに10億、ホライゾンに12億人が移住して、むしろホープ、ホライゾンの一人当たりのGDPが地球より高くなってきているわね。

 地球自体も58億人で人口はだいぶ減ったけど、その分都市部の過密さが解消され、いわゆるスラム街や電気もないような集落、未開発な集落は一掃されて、住み心地が良くて清潔な住宅地に生まれ変わったわね。また、その結果としてとりわけ途上国と言われた国に住んでいる人々も、かっての日本程度の生活は出来るようになったわ。

 でも、そうなったのはやはり、そうした地域にとりわけ多い若者に施した知能強化の効果が大きいと思う。大体人口の2割近くの知能が2倍近く上がって、優先的に割り当てられた情報機器を操るようになった社会が変わらないわけがないわ。

 所得3倍増計画の中でやられてきたことだけど、この計画が成功裏に終わろうとしているのは地球頭脳あればこそであるし、主体の地球連邦が地球型惑星10個をもっているという資産の裏付けあればこそよね。実際のところ、あなたに出会ったころに今のような世の中は想像もつかなかったわ。ところで、誠司さん、昨日の銀河防衛軍のイーター退治の報告はどうなったの?」


「うん、順調だよ。知っての通り、僕たちがデカタル星にいた2.5年前でイーターの封じ込めはすでに成功して、ジラーラク連合のようにイーターに侵されつつあった星系も20ほど救うことができた。また、1.5年前には、イーター吸引機を設置した超大型艦の1000艦及び護衛及び攻撃艦3000艦の改修が完成して、いまや全艦が4つのイーター汚染区域に配置されて、イーター吸引と消滅にかかっている。

 予定ではあと5年で作戦は終了の予定なので、その後も今の規模の1/10程度はイーター対策艦として残して、定期的なパトロールをすることになっている」誠司の答えにゆかりが満足して言う。


「よかった。私たちもその作戦に貢献できたと思うと嬉しいわ。でも、最初に具体的にイーターによる被害を受けた情報がリアルに入ったジラーラク連合の事例の報道は、遠い彼方のこととは言っても地球連邦の人々にすごく衝撃を与えたわね」誠司がその言葉を受ける。


「ああ、惑星に住んでいる数十億の知的生命のみならず、すべての動物が生命を吸われて絶滅するのだからね。これまで、どれだけの知的生命が犠牲になったか。知的生命が犠牲になった惑星の数としては、今のところの推定では、地球型の惑星が500、巨大惑星で700程度と言われているので、惑星に人口を10億人としてもその人口は1兆人を超えているね」

「うーん、イーターというのは、まさに銀河規模の災厄だったわね」ゆかりが言う。


 2030年4月10日、ニューヨークの地球連邦議事堂で地球連邦政府主催による所得3倍増計画の終了の記念式典が開かれた。

 連邦すべての構成国、反ラザニアム帝国連合(その後銀河中央に地球およびラザニアム帝国及びかってその支配下にあった星区を含むこの星域がラーナラ星区と呼ばれていることを知り、ラーナラ星区連合と改名した)の構成諸国、及び新生なったラザニアム帝国改め共和国さらに銀河中央からもシーラムム帝国が大使または代表を送ってきた。


 これらの内の数人から祝辞があったのち、今や真に地球人を代表する地球連邦国阿賀大統領からの話である。当然この話は地球連邦のすべての国と地域で放送されている。


「地球人の皆さん、そして本日遠路おいで頂いた皆さん、本日をもってわが地球連邦政府は設立以来4年となりました。そしてまた、8年前に立ち上げた所得3倍増計画の最終年最終日でもあります。

 かって、地球政府設立準備機構のアラン・カージナル代表がその計画の発動を宣言した時、我々地球人は現在のラーナラ星区連合諸国のなかでも経済的レベル・社会的レベルにおいても最も遅れた民族であり、その改善が急務であることからこの所得3倍増計画が立ち上げられたものであります。


 その達成のターゲットは一人当たりGDPを3万クレジット(CD)、その所得分類の最低レンジの所得を1.5万CDとするものでした。当時、地球人一人当たりのGDPは9千CD、所得分類の最低レンジの所得は1千CD足らずでしたからずいぶん野心的な計画でありました。

 そして、この目標は皆さんもご存知の通りすでに達成しました。一人当たりのGDPは1年前の統計で3万2千DC、所得分類の最低レンジの所得が1.3万CDでしたが、3カ月前の速報値で、それぞれ3.5万CD、1.5万CDですので、どちらの目標も達成できたことになります。


 これを達成するにあたって、計画に従事した皆さんのご苦労を心からたたえるものでありますし、一方でとりわけ所得の最低レンジの底上げにはいわば偏った投資が行われたわけでありまして、これはかっての先進国に皆さんの我慢を強いるものであったわけですので、その我慢にお詫びするものであります。

 また、忘れてはならないのが、地球頭脳の働きです。地球頭脳なかりせば、総計100兆CDにも及ぶ投資を適正にふりわけ、その投資に伴う活動をコントロールすることは全く不可能であったでしょう。

 さらに言えば、この計画に当たっては先ほど言った莫大な投資が必要でしたが、その原資を得たのは地球防衛軍の働きです。一つにはラザニアム帝国から鹵獲したガイア型戦闘艦の売却益、さらには、とりわけかの帝国との戦いの結果確保できた10個の地球型惑星による地球連邦政府に対する信用がこうした莫大な投資を行う裏付けとなったのです。


 今回の計画においては、結果的には富の偏在の解消が出来ました。

 計画を始めた時点での、諸国の家の国の最高所得は一人当たり8万CDに対し、最低は1千CDでした。現在は、国の構成が変わっておりますが、最高9万CD、最低2万CDとその格差は大幅に縮まっています。

 また、かって金が金を産むという仕組みが極端な貧富の差を生じさせる原因となって、世界の数十人の金持ちのもつ財産は地球人半分の持つ財産に等しいという状況を生み出してきました。

 それに対しては、わが地球連邦政府は、商法、税制、及び各種規制を通じて明確に規制する方向に動いてきました。かってであれば、そうした規制などは金持ちが海外に逃げ出す原因になるということで、むしろ規制を緩める方向にいったその結果が、先ほど言ったような富の偏在を許すことになったのです。

 しかし、今や地球及びその植民惑星は一つになったのです。ずいぶん抵抗はありましたが、地球連邦を構成するすべての国でこうした商法、税制、及び各種規制などの仕組みは共通になっております。


 さらに、この所得3倍増計画という大社会変革が成功したのは、知能強化処置の進行が深くかかわっていると私は思います。現在、地球連邦構成員83億人の約15%が知能強化処置を受けて、すでにその後の教育も終わっています。

 これらの若者は、かってであれば天才と呼ばれる知能を持ち、しかもふさわしい教育と訓練を受けており、また優先的に各種情報機器を与えられています。かれらの心理的な傾向については多くの調査結果が出ており、共通して言えることは物欲には乏しく、また知的好奇心が強いということです。

 すなわち、こうした人々で構成されている社会でひとの無知に付け込む、またはいわゆるずるい方法で富を得ることはまず不可能ですし、そうしたシステムは直ちに改められます。実際に、こうした若者からの提案によって、富の偏在をなくすシステムへの変更した項目は数多くあります。


 そして、地球人は今申し上げたような仕組みを作り、今のような経済状態、社会状態になりました。この結果、今、地球人は地球が軍事的には中心であるラーナラ星区連合諸国の中の一員として恥ずかしくない存在になりえたと思っています。

 一方で、皆さんも地球連邦も参加している銀河防衛機構によるイーター退治の状況の報道を見られたと思います。この、イーター対策ではわが地球の研究員、具体的は連邦中央研究所の牧村誠司物理化学部長が大きく貢献しており、その結果イーター退治もあと5年程で片付く見込みです。


 このように、われわれ地球人は、ラザニアム帝国の脅威を防ぐことで、多くの星系国家に貢献し、さらにシーラムム帝国という銀河に冠たる国家とも協力関係にある訳でしたが、その不釣り合いに未熟な部分も今日この計画の完了を持って解消できたと言っていいのではないでしょうか。

 私も、まもなくこの座を去りますが、次の世代の人々がこうして築いた地球人の在り方をより改善してくれることを望んで、私の話を終わります。ありがとうございました」


 大きな拍手が沸き起こった。

 誠司とゆかりは並んで拍手しながらすこし涙ぐんでおり、星太とさやかも一生懸命拍手している。


後半部で更新が遅くなって済みません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ