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銀河に迫る危機2

説明される危機の対象の生物はヴォクトさんの「ビーグル号の冒険」のものに似ていますが、似ているだけです。

 地球側外務大臣及び特使は驚いたが、銀河の危機と言ってもピンと来ずにどういう顔をしていいか悩むという感じであった。外務大臣ソマダラ・ビエンチン氏は尚も続ける。

「本件について、最も深くご存じなのはシムラン・ミカサム導師ですので、導師から説明してもらいます」


 ミカサム導師が立ち上がると、さっと会議室の天井に立体として見える銀河が映し出され、導師はおもむろに説明を始める。「これは、我々の星系が含まれる銀河ですが、青く示されているのがわが帝国の版図で長径2500光年ですから、10万光年の中ではほんの点に近いですね。そしてこれが旧ラザニアム帝国の版図でまさににもっと小さい点ですね」ミカサム導師が立体像の位置的な説明をして続ける。


「先ほどの危機というのは、最初はちょっとした兆候でした。私どもは、約1000年前からほぼ銀河系全体の様々な知的種族を観測しています。この手法は超空間通信の発展形で、超空間通信により恒星の座標を頼りに恒星系の近傍に通信のステーションを定めて、さらにそこからその恒星内で通信が行われている場合にその近傍に通信のステーションを移すという形で観測を行っています。

 これは、必ずしも酸素呼吸生物のみでなく、今まで、巨大惑星人、塩素呼吸生物、エネルギー体の生物も含まれています。数としてはアンモニア呼吸の巨大惑星人が一番多く、エネルギー体はまだ5つしか観測されていません。

 今のところ観測ができたこうした生物の住む惑星としては300万程度で、その内80%が巨大惑星であり、19%が酸素呼吸生物で塩素呼吸生物は1%以下です。この銀河には我々の観測によると光を発している恒星系が約1千億あり、割合で言うとその3割が惑星系を持っています。

 さらに電波をコミュニケーションに使っているレベルの生物が住むのはそのまた1%程度というのが観測結果です。従って全体では3億程度の一定の技術レベルにある生物がいるということですね。

 従って、まだ我々の調査は銀河全体の表面をひっかいたにすぎませんが、調査は出来るだけ銀河全体に及ぶように実施されており、このように大体全体を網羅しています。光が点滅している点が観測されている惑星がある恒星系です」


 導師がそう言うと、銀河系の立体映像のあちこちに点滅している点が現れ、確かに全体にほぼ均等にばらまかれている。

「この中に地球もたまたま含まれていますが、我々の観測はパッシブな形でありますので対象には気がつかれていません。その意味では、ラザニアム帝国に滅ぼされた知的生物については、電波を使う所までいっていなかったものもあったためもあるせいだと考えられますが、そのうちのわずか1つが観測対象含まれており、確かに電波の反応が消えています。

 しかし、これは観測結果としてのことですので、その結果をもって何かの調査をするということは予定していなかったために、只の観測で終わっています。それとその数が言ってみればわずか1つの問題であったために見逃されたという点があります。

 しかし、先ほど言ったちょっとした兆候というのは、場所としてこの赤く光っている部分です。ご覧のように私どもの帝国のある位置からは最も遠い位置でありまして、その意味では重要性が低いとみなされていました。」

 

 そう言って導師は皆を見渡してさらに続ける。「問題というのは観測点の電波が消えるすなわち生命活動の兆候が消えていくという現象で、始まったのは100年程前からです。気が付いたのは10年ほど前に10個ほどの惑星から電波発信が消えた結果です。

 先ほど言ったように、我々の観測点が3億の内の300万ということを割り付けると10個の生命の消滅は実際には1000個の消滅を表しているので、これは相当なものです。しかし、我々の版図からは遠い彼方の話であり、またその範囲が直径500光年に留まっていたので、それほど関心は持たれていませんでした。しかし、5年ほど前から状況が一変しました。ご覧ください」


 銀河の立体映像の中に、赤い虫食いが最初のものに加えてほかに3か所増えており、しかも最も近いものはシーラムム帝国から1万光年程度の地点である。立体映像にさらに様々な色のゾーンが5つ示されたが、いずれもシーラムム帝国近傍で規模は同程度かそれ以上の範囲のものだ。

 その中に赤い虫食いにもっとも近いものは、たぶん2千光年程度か。


「この5年程前にこの範囲で消滅が起き始めました。さらに3年前にはこの範囲、さらに今年この範囲で、各々5~10個の生命兆候の消滅です。さらに最初に発見されたゾーンではさらに周辺の消滅が増えています。ちなみに、この5つの様々な色のゾーンは私どもと交流のある比較的大規模な星間国家の版図です。

 ご覧のように、この消滅ゾーンはこの色のゾーン、ここにご出席のミザスカス民主共和国に約2千光年の距離に迫っています」


 ミカサム導師は再度皆を見渡して、全員が息をのんで聞いているのを確認して続ける。

「これが危機の実態です。そして我々は、無論調査船を派遣しました。そして、これが生命兆候が消えた惑星の様子です」導師の言葉とともに迫ってくる惑星の映像が写される。


「この星は人口40億人の酸素呼吸知的生物が住んでいました。惑星間の宇宙飛行は行っていたはずで当然それなりのレベルの文明を築いていたはずなのです。

 しかし、夜のゾーンを見てほしいのですがまったく明かりが見えず、少なくとも文明の兆候は見えません。ただここで乗員に問題が出ます」


 映像が切り替わる。宇宙船内でシーラムム帝国人の乗員が何かの計器をチェックしていたところで突然苦しみ始めるが、ものの1分ほどで目を剝いて倒れる。

「この映像は船内のロボットの記録に残っていたものですが、このように乗員が突然苦しみ、すぐに死に至ります。しかし、これをよく見てください」

 導師の言葉で乗員が苦しんでいるとき、その頭付近にもやもやした透明のものがうごめいている。


「あれは、人の生命力が吸い取られているのだとわれわれは解釈しています。結局この調査船には20名が乗り組んでいましたが同様な現象で全員が死にました。無論あれはアバターですが。

 人間がいなくなっても、調査船の飛行には支障はありませんので、地上を調査するように命じました。しかし、調査船は強大な斥力装置の牽引力のようなもので強引に惑星に引きずり降ろされ地表に激突しました。しかし、映像はこのように取れており、リアルタイムで送られてきました」


 昼間の部分の地上が迫ってくるが、あちこちにビルの廃墟が見え、その間の土地には森林と水たまりがあり人間がいる兆候は見えない。しかし、あちこちにトカゲみたいな生物が動いているのが映像に捕らえられている。

「映像の分析結果からは、知的生物の存在する兆候はありませんでしたが、その代わりに原始的な生物が数多く生息しているのが観測されました。この惑星で分かったことは以上でしたが、巨大惑星人の協力を得て巨大惑星の同様に連絡を絶った惑星を調べました。なお、これらの調査は全てロボットによりました。

 また、こうした惑星の周辺の空間の成分調査も行いましたが、その結果として一応のこれらに問題に関する結論を得ました」導師は再度皆を見渡して続ける。


「これらの問題を引き起こしたのは一種の生物です。問題を起こした惑星の周辺の空間の成分を調査するとその成分に一定のパターンがあることがわかりました。

 大体、惑星の表面から上空100km程度まで大気中も同じ密度ですね。この規模の極めて巨大な生物で非常に密度が低いのですが、これは生物の生命力を餌というか食料にしているのです。

 ですから、知的生物というのはかれらにとって効率が悪いので、先ほど見たように森林にして、低級の繁殖速度の高い生物を繁殖させようとしているようです。巨大惑星でも同じようなことをしています。

 これらの生物、名前をイーター(食らう者)という名前を付けていますが、イーターの最大の問題の一つはこれらを滅ぼす方法が見つからないことです。大変低い密度で、非常に広い範囲に広がっている生物をどう殺すか答えは見つかりません。

 もう一つの大きな問題はイーターが超空間を自由に渡れるようなのです。とりわけ5年ほど前からテリトリーを徐々に広げていくのではなくて、離れた場所に新たなテリトリーを作るようになったのはその表れだと思います。

 さらに、もう一つの問題はその極めて早い増殖速度です。どうも5年間に我々の観測惑星50個くらい滅ぼしていますから、実際は5000個ですね。しかもこれは幾何級数的に増えます。おそらく20年から30年以内に全銀河を覆うでしょう。これには我が戦闘艦も無力なのです。これが銀河に迫る危機なのです」

 導師が一旦言葉を切る。


 司会の外務大臣ソマダラ・ビエンチン氏が話し始める。「なかでも現状で問題であるのは、イーターが長大な距離を飛んで、突然テリトリーを作り始めることです。この状態ではそれこそ明日我が帝国の版図に彼らのテリトリーが出来ないとも限らないのです。

 その意味で彼らが超空間を自由に操れるようであるのに、わが方は部分的にしか理解していない点が大変大きな問題であったのですが、この点が今日、地球のお二方の努力で解消されたと伺っています」

 

 これに関してはミザスカス民主共和国の代表が大きな興味を示した。「その超空間の利用については我が国においてもその研究はしているが今のところはかばかしい進展がみられていないのだ。その問題が解消されたというのはどういうことであろうか?説明願いたい」


 ミカサム導師が再度説明を始める。「では説明いたします。まず、超空間そのものはこの図のようにモデル化も出来ており、理論的に解かれている。しかしながら、通常空間との関係については、超空間ジャンプ、通信、エネルギー遷移など活用はしながら、残念ながら有意な解がなかったのだ。

 この点については、我が国でも継続的に研究を進めてきているが、まだ解決のとば口にもたどり着けていない。それについて、何とこの地球の2人が僅か2日で解決してしまったのだ。


 その結果はこの通りだ。なおこの図も、今からの説明も地球人、牧村誠司、恵一によって開発されたものであることをお断りしておく。これはいわゆる完全解ではないが、観測点の座標を生かして近似値を出そうというもので、今の段階では不十分なものであるが、観測点を増やしていくことで十分な精度が得られる。

 例として、比較的多くの観測点のある領域のモデルを見てみると、このように十分な精度であることが判ると思う」


 導師は最初に恵一が示した解のモデル図を示し、彼が強い興味を示した観測点が多い部分のモデルを拡大した。導師の持っているレベルの技術であれば、一度説明で示されたすべてのデータ、ソフトは入手してしまう。

 恵一も、導師が自分の説明の内容を図まで使って自分の説明よりさらに的確に解明していくのに驚いたが、考えれば当然その程度の技術は持っているなと自分を納得させた。また導師はちゃんとその資料が恵一達により開発されたことをきちんと断っている。


「そこで、今の解でもこうやって銀河宇宙に重ねてみるとどうなるか」天井の銀河系に超空間と通常空間のモデル図が重ねられる。

 するとイーターの影響範囲を占める赤いゾーンが、通常空間と超空間の重なりの特異点である点と大体一致することが見て取れる。導師は少し興奮して言う。

「私もこうなるのではないかと思っていたのですが、まだ精度において問題あるとはいえ、今のモデルでもイーターの転移点は通常空間と超空間相互の特異点、すなわち両空間が重なるか非常に近い点である可能性が非常に高いということが言えます。

 すなわち、イーターの転移点は予想することが出来る可能性が高いのです」


 導師の興奮に巻き込まれた聴衆を見返して導師はさらに続ける。

「すなわち、もっとこのモデルは精度を高める必要がありますが、今のものでもさっきの画期的な成果が得られる可能性が非常に高いのです。私は、わずか2日でこの成果を出して頂いた牧村誠司君及び義弟の恵一君の2人に深く感謝するものです。またこの感謝は銀河系のイーターを除くすべての生命からになると確信しています」


 そう言ってミカサム導師は、胸に手を当てて誠司と恵一に深々と頭をさげる。「われわれも、このような機会を与えて頂いて、かつやり遂げたことを評価して頂いたことを感謝します」誠司と恵一は立ち上がって導師をまねて礼をする。

 

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