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対シーラムム帝国の会議と牧村家の最近

 会議はさらに続き、シーラムム帝国との友好条約及び通商条約の話になり、マリア・キャンベルが説明する。シーラムム帝国との友好条約については、要は交流に努めて仲良くしましょうというもので、特に異論はなく、皆が結ぶことに同意して議会も問題なく批准に賛成するであろうと予想された。

通商条約も全く対等な条件で通商をしようと言うもので、逆にシーラムム帝国のような巨大な国が、地球レベルの国とこれほどイーブンな条件で結ぶのはややいぶかしく思われるほどである。


「しかし、いずれにせよ、宇宙に出てからの歴史が10万年以上ですか、そのように古くまた大きな国と対等の関係を結ばれることは喜ばしいことですね。沢山学ぶべき点はあるでしょうし、とりわけ交易には大きなメリットがあると思います。

 ただ、保護国・属国を沢山抱えているということで対等な関係の星系は少ないようですね。さらに、一方でラザニアム帝国のやり口と言うか、文明レベルの低い民族を滅ぼしたことを咎めようとするということは、文明的に劣る民族を迫害あるいは搾取することはないように思います。そのあたりは、どうなんでしょうか?」阿賀大統領の言葉にキャンベルが答える。


「その点は、私も気になったので聞いてみたのです。その結果としてその根拠になるデータももらったのですが、保護国または属国として置かれている民族は、無論シーラムム帝国に従属しているわけです。

 また、保護国は完全な自治権はもっていますが、帝国の指導を受けている立場で、属国は自治権ももたずに帝国の総督と言うか人工頭脳に統治してもらっている立場ですね。いずれも経済的に見れば、効率のいいやり方をいわば押し付けられて、うまく経済が回っており、その自分が生み出した富を帝国に持っていかれるということもありません。

 帝国の説明によると、ほおっておくと中で内戦を起こしたり、周辺星域と戦争や小競り合いをしょっちゅう起こすので、そうしたことのないように彼らが統治しているということですね。でも明らかに対等ではありませんので、帝国人は相手を下に見ているし、下として扱っていますね。

 ですから、保護国または属国として置かれている民族が、その状態に満足しているわけではありませんので、対等に扱ってもらうように努めているものもいるようです。一方で、今の状態の方がましと考えている民族も多いようですね。

 これらは、自民族の特権階級によって搾取されて来てそれを自ら改められなかった者達でどうもその大多数は元に帰りたくはないようです。少なくともシーラムム帝国人は他民族を迫害したり、搾取はしませんからね。

 実際、彼らは知能も高くその経済システムは極めて効率よくて物質的には極めて豊かであり、自ら劣った民族を多く慈悲深く従えている大帝国の市民であるという誇りまでもって生きることが出来るわけです。たぶん、帝国には貧民はいないと思いますよ」


「ふーむ、たしかにラザニアム帝国の場合はその版図の諸惑星で、彼らの1次攻撃に耐えられないものは抹殺してきたわけですが、シーラムム帝国人はそうしなかったということは、ラザニアム帝国の版図では生き残っていなかった比較的遅れた民族が保護国または属国として導かれるというのはわかりますね。

 まして、彼らの宇宙に出てからの歴史の長さを考えれば、それだけの数の保護国または属国が多いのも良くわかりますね。しかし、それにしても今の地球の同盟諸国はその文明レベルからすると帝国と対等に付き合ってもいいと思いますが、シーラムム帝国の場合には保護国や属国として残っているものが多すぎるように思いますね」


 阿賀の言葉に外務大臣ファアガ・フェルナンドが答える。「慈悲深き統治者からの効率の良い支配を受けていると、それから独立しようというインセンティブが働かないのではないでしょうか」


「うーん、例えば10年前に、地球がシーラムム帝国の接触を受けていれば、結構喜んでその支配下に入ったかも知れないですね。戦争の心配もなくなるし、貧困も解決してくれたでしょう。その代償は、シーラムム帝国をあがめ奉り、その人々を上位者として認めること。うーん、シーラムム帝国の保護国や属国が多いのもよく判りますね」牧村誠司が言うが阿賀大統領がまとめる。


「その通りですが、我が地球は、慈悲深きシーラムム帝国でないむしろ凶暴なラザニアム帝国の侵攻をはね返して、彼らを屈服させ、さらにシーラムム帝国の挑戦を受けてこれもクリヤーし、堂々と対等な存在として認められたのですよ。

 さらに、我々は自分の手で貧困を解決し、人々の知能を伸ばすことで一段高い進化への道をたどっています。これは自分たちの子供に誇っていいことだと思いますよ」

 阿賀大統領の言葉にみな深く頷く。


 そこで、再度キャンベル女史が口を開く。「ところで、阿賀大統領、外務大臣、シーラムム帝国の議会で審議するというのラザニアム帝国の件は我が連邦としての見解を出す必要があると思いますが」


 これに外務大臣が答える。「うん、その件は地球としてはラザニアム帝国に対して警察権は持たないし、特に条約を結んであるわけでもない。増して、宇宙における新参者としてラザニアム帝国に対して過去の行為、多くの民族を滅ぼした行為をさばくことは出来なかった。

 しかし、戦争の勝者として、その奪った惑星を取り上げて、かつ隷属させていた民族への賠償を課した、と言うことだと思う」


 阿賀も頷く。「そう、その見解でいいと思いますよ。シーラムム帝国はまた彼らの論理があるでしょうから」キャンベル女史はそれに肯いて合意する。

「そうですね。私もそんなところだと思います。でも、証人として立つことを求められたら、わが地球、それから同盟諸国へ打診しましょう。また危うく滅ぼされかけたシャーナ人は外せないですね。結局その後55の惑星を調べましたが、生き残った民族はほかに見つかりませんでしたね」


 最後に、マックラン中将がいう。「これはご報告しましたが、カザル准将からの話の件です。シーラムム帝国にはライバル関係の大規模な星間帝国あるいは共和国が5つあって、不定期のようですが、疑似戦争というかゲームを行うそうです。

 まあ、われわれの艦隊に喧嘩を売ってきたのは、その一環で力を試すという意味もあるようなのです。

 断る権利はあるようですが、たぶんシーラムム帝国の同盟国の一員として正式に参加を求めてくると思います。これは、中型戦闘艦つまりガイア型レベルの戦闘艦が200機ずつで戦うそうです。また、参加する場合には、アバターの技術を提供するそうです」


 誠司は、ニューヨークでのフラットに帰って、7歳の星太5歳になる娘のさやかとひとしきり話をする。 星太は今のコンドミニアムに隣接するインターナショナルスクールの小学校1年生で、さやかはその幼稚園に行っている。どちらも、このセキュリティの整ったコンドミニアムの範囲の現地の子供とよく遊んでいるので、英語は達者だが、無論学校、幼稚園での教育の結果、日本語も達者である。

 

 なお、セキュリティの面では、最近は所得3倍増計画の中で、アメリカ合衆国も他の先進国と同様貧困対策に力を入れるようになり貧困地帯のインフラ整備と職業訓練を進めてきた。

 さらに子供の知能強化処置の結果、とりわけ数の多い貧困地域出身の若者が高収入を得られるようになって、すでに貧困地帯が無くなる地区が増えたために、有数の危険ゾーンであったニューヨークの下町も殆ど危険性が無くなっている。

 また、これには地球頭脳の締め付けで犯罪組織が存続できなくなったことが大きい。


 誠司一家は大体、一ヵ月ごとに日本とアメリカを往復し、残り半分は日本の銀河宇宙港の近郊の学校・幼稚園に通っている。これについては、過去問題だった時差ぼけは特効薬が作られ1日で適応できるようになっている。

 さて、星太とさやかの知能は上位5%程度の最優秀な部類に入り、集中力もあって当然学業は最優秀である。当然、当節の子供らしく2人ともゲームをするが、星太にはコンピュータを与えており、相当インターネットでいろんなことを調べまくっているようだ。

 さやかには小学校に上がってからコンピュータを与えることにしている。


 星太については最近驚くべきことがわかった。それは、誠司が家でマドンナを操作しているときに起動したまま少し席を外した間に、星太が『マドンナちゃんはどこにいるのですか?』と打ち込んでエンターキーを押したのだ。

 これに対して、誠司以外のものが操作しても反応しないはずのマドンナが返事を返したのだ。

「星太ちゃんがもっと大きくなったら、教えてあげるわ」と。


 ちなみにマドンナとしての今のパソコンは3代目であり、丈夫で長持ち、軽いが取り柄の汎用品である。結局マドンナは誠司が使う特定のコンピュータに宿るということがわかって、前代のマドンナの宿ったコンピュータは大事に保管している。

 さらに、コンピュータについては実際にはそのメモリー、表示機能やプリンティング機能のみを用いているので特に高性能のものでも意味はなく、いわゆる汎用品の方がいいということになっている。


 これが起きたときは日本の家に居た休日の日だったが、星太から「マドンナは意地悪だ。だいたい、大人はなんでももっと大きくなったらっていうんだもの」と画面を見て訴えられたので、誠司は驚いて問う。「なに!星太はなにか聞いたの?」


「うん、マドンナちゃんはどこにいるのですか?ってね」星太の返事に「ええ、それが答えか?」誠司が驚いて再度問う。


「そうだよ、ね!マドンナは意地悪だよね」

「う、うん、でももう少ししたらマドンナがいろんなことに答えてくれるよ。それまで待つのだね」

 誠司は星太の返事にとりあえず答え「ゆかり、ゆかり!ちょっと来て」と大声で台所にいるゆかりを呼ぶ。彼女も何事かとやってきて「どうしたの?大声を出して」尋ねる。


「ほら!星太が打ち込んだ質問にマドンナが答えたそうだ」と誠司が画面を指さす。

「ええ!マドンナがあなた以外の人の操作に答えたの!」ゆかりは驚いてそう言って画面をのぞき込む。


「もっと大きくなったらって、いつだろろうかね」誠司が言うので、「聞いてみればいいじゃないの」ゆかりが答える。「それもそうだな」早速マドンナのキーを叩く。


 答えは「知能強化処置後です」と簡単明瞭であった。

「いやあ、助かるなあ。僕以外に使える人がいるとね。ほかにいろんなことができるし。でも知能強化は12歳になっているけれど、知能の高い子は早めてもいいという研究結果だったと思うけど。どうだろう?」誠司の言葉にゆかりが反論する。


「まあ、知能強化は早めてもいいけれど、その後にそれなりの勉強時間を措かなくてはいけないわ。意味が分からないことを延々と質問させるのはかわいそうよ、それに例えば、10歳で知能強化ができるとしても、そんなに早く仕事をさせられないわ」

 当然のことながら、ゆかりの意見が入れられて、星太は慎重な検査の結果10歳をめどに知能強化の処方をすることになった。そして、その後2年間は集中的に勉強させ、その後に少しずつマドンナ操作を担わせることになった。「私も、つかえるかしら?」さやかも当然聞いて試してみたが、反応せずに本人は落ち込んでいたものの、幼児でもありすぐその状態に慣れた。


 さて話が逸れたが、会議の夜誠司は妻のゆかりと議論する。

「最近はシーララム帝国のニュースが多いね。まあ、あの宇宙艦の映像だけでも一見の価値があるよね。なにせ1億トンの重量で長さ2800mだもんな。昔あった、スターウオーズの宇宙艦に似ているよね」


「ええ、あの戦闘映像はすごい人気らしいわ。宇宙防衛軍への入隊希望者がすごく増えているとか」


「うーん、でもあれで200人以上亡くなっているのだよね。本当は、シーララム帝国側も15万人位死んでいるはずなのだけど、全員がアバターだったということでどうも割り切れないよ」ゆかりのコメントに誠司が応じる。


「そうね、シーラムム帝国は属国や保護国が沢山あってその人口を合わせると人口が8千億人位とか、その辺から、あまり亡くなった人の肉親の思いとかは鈍感なのかも知れないわね」


「その割に、ラザニアム帝国が沢山の民族を滅ぼしたのを深刻に受け止めているようだよ。かれらの議会にかけて、ラザニアム帝国の処罰を決めるようだ」


「でも、そう言うのはあっていいのかな。地球の場合のアフリカ、南米や北米で白人がやってきたことって、ラザニアム帝国のやり口近いわよ。

 アフリカの黒人を北米に奴隷に売ったのなんかはある意味もっとひどいわね。にもかかわらず、今はシレッと人権とか言って人のことを非難している。そうはいっても、それを誰かが裁けるかと言うと、これは難しいわね」


「うーん、あり得るとすれば、被害を受けた被害者からだけどその場合の報復は過激になりがちだからね。いずれにせよ、シーラムム帝国がどのような論理でラザニアム帝国を裁こうとするか興味があるな」誠司が言う。


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