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惑星ホランゾンの原住人類発見

 ジュリアス・キサンバは、ランクルを操縦しながら、母親の様子を見て、ダッシュボードに入れていた昼食用の菓子パンを取って袋から出して彼女に渡す。彼女はためらっていたが、そっと少しかじって飲み込んで、それからは夢中で食べ始めるので、急いでドア脇のケースに入っていた水を渡す。


 彼女はそれをとって、ごくごくと飲んでさらにパンを食べ始めてすぐ食べ終わる。ジュリアスはもう一つ残っていたパンを渡し、彼女はそれも今度はゆっくりだが食べ始める。食べ終わると落ち着いたようで、何かしゃべって頭をさげる。

 たぶんお礼をいっているのだろうと、「いいよ、いいよ、良かったよ。今日は珍しくパンを買っていたからな」と意味は分からないだろうなと思いながら話しかける。

 基地が見えてきた。ジュリアスは基地に隣接する診療所の玄関にランクルを横付けして、ドアを開いて飛び降り、後部座席のドアを開いて男の子を抱きあげ玄関へ飛び込む。

 母親も杖を操って、袋も忘れず持って懸命についてくるのを横目に見ながら、「先生!先生!」と叫ぶ。「こっちよ!」ドアが開いて、医師のサマーラの褐色の顔が覗いてさらに言う。


「この部屋に運び込んで」ジュリアスは指示通り子供を抱いて中に入り、そこにあった診察台に乗せると、医師がすぐに額に手を当て、それから口を開かせ中を見る。少年の顔色は紫かかり、もう息も絶え絶えだ。


「だいぶ悪いわね。破傷風なら特効薬があるのだけど、果たしてこの子の生理に合うかどうか。でも治療をしないと長く持たないわ。思い切って注射をします」

 医師は言って、手早く棚においてあった薬を取り、注射器に吸い込ませる。


「では、やるわ!効くように祈っていて」言って、消毒薬で少年の腕を拭いて、血管を出して一気に注射をする。薬液を注入し終わると、針を抜いて捨て、「あとは祈るだけよ」そう言って、看護婦に手伝わせながら、次に注射した反対側の手の切り傷を手当する。


 さらに、手真似で母親を脇のソファに座らせて彼女のくるぶしに巻いた包帯を外して患部を見てさわり、母親が痛がるのを見て、「すこしひどいわね。ギブスをした方がいいわ」と言って、看護婦に命じる。


「この患部のギブスと松葉杖を持ってきて」持ってきた鋼製のギブスを足にあてて、手早く包帯で固定したところで、看護婦が母親に松葉杖を渡す。

 母親は松葉杖を使って、足を引きずりながら我が子を診ている医師の横に並ぶ。

「よさそうね。少なくとも悪くはなっていない。少し呼吸が深くなったわ。では、病室で寝かせましょう。まず着替えね」そう言って、看護婦と一緒に服を脱がせる。


 脱がせてみると、服は無論だが体もだいぶ汚れていたので、看護婦が湿らせたタオルで吹いて病院用の下着と服を着せる。その際に見た少年の足の指はやはり4本であるが、鼠径部は殆ど地球人と一緒であった。移動用の寝台を上昇させて、診察台に並べて寝台に少年を写し、病室に連れて行ってベッドに寝かせる。ちょうどそこに、基地の支配人のサニー・ジルコニアがやって来る。


「おお、ジュリアス、大発見だな。政府が今は大騒ぎだぞ。なんせ、下手すると惑星ホランゾンはシャーナ人に返さないとならん。政府の調査部のリッパード・コナー部長が今向かっているから、あと3時間くらいでつくだろう。それからシャーナ語のソフトを手に入れて翻訳機にシャーナ語を入れてきたぞ。英語とジャーナ語だ」


「おお、ありがとう。だいぶ彼女も疲れているようだから少し寝かせよう。話してみるよ」首から翻訳機をかけて英語で話しかけると、ジャーナ語で音声が出てくる。

「俺の名前はジュリアス、君の名前は?」母親は驚いたように翻訳機のスピーカを見ていいたが、恐る恐る返事をする

「私の名はスズリスです。治療して頂いた息子はムーズスです」そこで、医者のサマーラが話しかける。


「息子さんのムーズスは、傷口からばい菌が入って病気になったので薬を注射しました。お子さんに注射の薬が合うかどうか心配だったのですが、あったようで今は良くなっていると思います。でも最低でも5日くらいはここにいなきゃいけないでしょう」それを聞いて、スズリスは目に見えてほっとした顔をしてお礼を言う。

「ジュリアスさん本当にありがとうございます。私たち2人は命を助けられました。お礼を申します」


「いえ、当たり前のことをしただけです。それから、実はあなたにお話を伺いたいということで、私どもの政府から人が来るのですが、まだ、だいぶ時間がかかるのでゆっくりお休みください。食事はいかがですか?」ジュリアスが応じて、さらに食事が要らないか聞く。


「ええ、出来れば頂きたいです。2日水だけでなにも食べていないものですから。それと出来れば体を綺麗にしたいのですが」スズリスが少し遠慮きみに言う。


「ああ、シャワーを使ってください。それと着かえた方がいいわね、着かえはもっていますか?」サマーラが置いている袋を見て言う。

「下着はあるのですが、上着はありません」

「じゃあ、看護婦の服をお出しします。マリー、シャワー室に案内してあげて、包帯は濡れないようにカバーしてあげてね。それから、服を一着だしてあげて」サマーラの指示に看護婦のマリーが従う。

 スズリスは、こうして看護婦の制服を着て、軽く食事をした後に息子の横のベッドで2時間近く眠ることが出来た。


「スズリスさん、スズリスさん!」彼女はゆり動かされてはっと目が覚め、何か悪いことがあるのではないかとはっと緊張したものの、状況を思い出しほっと緊張を緩めた。目をあけると、ナース帽をかぶった褐色の顔が彼女の上にかがんでいる。


「済みません、お疲れのところを、お話を聞きたいという人が来ていまして、起きて頂けませんか」翻訳機から声が流れる。「え、ええ、大丈夫です」と起きあがる。、

 案内された部屋には、テーブルがあって褐色の肌のジュリアスと基地の支配人のサニー・ジルコニアに、肌の色が白く目が青い政府の調査部のリッパード・コナーが待っている。

 新たに来た男性が「私は政府のものでリッパード・コナーと申します。どうぞお座りください」と言って自分も座る。コナーの質問に答えて、スズリスが述べたのは以下のことであった。


 彼らシャーナ人の星ミルシャーナに、ラザニアム帝国が攻撃してきたのは地球時間に換算して35年前であった。その時点では、シャーナ人の文明レベルは原子力の利用に入ったばかりで、月にようやく人の乗ったロケットを送り込んだ段階であった。

 無線機はあるが、インターネットはまだ実用化していない段階であり、地上交通は車が使われ、当然航空機も盛んに使われていた。世界は3つの大陸にそれぞれ国があって特に争うこともなく、それなりに貿易をして互いに観光もして共存していた。


 食料生産ついては、コメのような作物と小麦の類が主食で、家畜の乳の活用はしていたが、あまり肉食はせずに、もっぱら水産物で動物性のたんぱくをとっていた。

 このような文明状況であり、軍備もろくなものはなかったので、ラザニアム帝国の1次攻撃に抗するすべもなく、いいように軌道上から岩石によって爆撃され、文明のあらかたは滅びてしまった。


 しかし、第2の大きさの大陸であるニュー・アフリカ、シャーナ人はミズンマ大陸と呼んでいたが、そこには地底深く複雑な大延長の洞窟が広がっており、主として農業生産に携わって都市に住んでいなかった相当な人数がそこに逃げ込んだ。

 かれらは、ある程度の機械類も持ち込むことが出来たので、それなりの文明は残すことが出来たが、やはり困ったのが食料であり、地上で耕作できないため、洞窟でも育つキノコや、外でこっそり採取する木の実や小動物と言ったもので、飢えは甚だ身近なものになっており、この限界状態では知識も徐々に失われていった。


 無線機でいろいろ連絡をとって、ミズンマ大陸で生き残った者たちは大洞窟に逃げ込んだが、他の大陸で生き残っていた人たちは、20年前に連絡が取れなくなったということだ。

 ラザニアム帝国も洞窟にシャーナ人が逃げ延びていることは知っていて、時々銃を持って狩りをされることで毎回100人前後の犠牲者が出ていた。そのこともあって、その人口は最初洞窟に逃げ込んだ頃数えたときには3千人程度であったが、3年前には1千人以下に減っていたので、そう長くない将来にはシャーナ人は滅ぶと、悲観するものが多くなった。


 しかし、数年前から様子が変わってきて、まず定期的に行われていた狩りがなくなったし、かっては全く無視していたララマズ(ホギュウ)を異星人が大規模に狩り始めているほか、遠目にみる地上滑走車が全く違うというようなことがわかってきた。

 しかし、こうした中でも洞窟の中の社会はだんだん荒みはじめて、腕力が強いものが暴力的に支配するようになってきた。殺人こそは起きないが、暴力沙汰は日常茶飯事で、腕力の強いものが女性を犯して囲い込むことも多くなっている。


 スズリスは、3つあるグループの一つの人望のあった元の洞窟のリーダーの娘で、夫はその後を引き継いだりーダーだったが、外の世界で狩りをしていて、猛獣に襲われて殺されたのだ。

 次のリーダーは粗暴な男で、それまではそれなりに秩序のあるグループであったものが、今や強いものが支配する世界になってしまった。さらに、スズリスも自分のハーレムに加えようと襲ってきたので、とうとう息子を連れて逃げ出したのだ。


 スズリスは外の世界が変わったということは確信があり、惑星の支配種族が変わって、もう銃を持って狩られることはないと思ったので外に出たものの、思ったより物騒な世界で地形も険しく、息子は怪我から熱を出して動けなくなるし、自分も猛獣に追われる内にひどい捻挫をして絶望したところで、ジュリアスに助けられたのだ。

 ジュリアスに助けられて、今のこの惑星の人々がラザニアム帝国人と違うことは確信したそうだ。なにより彼らだったら、スズリスを見るなり銃で撃つかどうかして殺そうとするが、ジュリアスは逆に猛獣から救ってくれて息子を助けようと一生懸命だった。それを見て彼女も本当の意味で安心したとのことである。


 スズリスの話が終わってコナーが話始める。「説明をありがとうございました。大体はわかりました。私どもの地球の、技術や社会の発達度合いは似たようなものでした。

 でも、貴シャーナ人のように国同士で仲良くとはいかず結構いがみ合って戦争も何度もいましたが。ただ、わが地球が幸運だったのは、ラザニアム帝国の侵攻の直前に技術的なブレークスルーがありまして、結果的にラザニアム帝国の侵攻をはねのけたばかりか、彼らの宇宙艦隊を滅ぼして外征能力を奪いました。

 その結果、この星ミルシャーナは彼らが他種族から奪った星ということで、取り上げて我々地球人の植民を行っております。これは、あくまで主が居ないということでしたが、あなた方シャーナ人は我々とそん色ない文明を築いておられたので、明らかに文明人種ですから、本来の持ち主はあなた方です。


 ですから本来はお返ししなければならない。しかし、すでにこの星に植民した地球人の人口は4億人を超しており、我々としてもすでに多大な投資もしてしまっているということが一つ、もう一つはあなた方の人口は1千人余りということですね?」コナー部長は話を切って尋ねる。


「ええ、その程度ですね。でもこのままの状態が続いて一年たったらもっと減りますね」

 スズリスが答える。


「であれば、現在わずか1千人の人口では、たぶん100年後でもあなた方の人口は10万人には達しないでしょうから、あなた方のみで社会を作り元の文明を築くことは極めて困難だと思います。

 我々地球人もこの惑星の人口は大体20億人どまりにすると考えていますので、この星の大きさからすれば十分スペースはありますし、食料等の資源についても問題はありません。

 ですから、あなた方が私たちとこの星に共存する場合は、あなた方が望むスペースを設けることは問題ありません。無論、その場合は我々はあなた方の定着に全面的に援助いたします。

 共存に同意して頂ければ、すぐに救助隊を編成して、食料等を届けると共に全員の住宅を準備して、すぐに移転できるようにします」


 スズリスはしばらくコナーの顔を見つめていたが、うつむいて考え込む。確かに重い決断であり、通常で言えば個人で決められるようなものではない。しばらくして、彼女は顔をあげて、強い目でコナーの目をみてきっぱり言う。

「選択の余地は残念ながらないと思います。私たちはもう滅びるだろうとあきらめかけていました。子供達にももう十分な教育ができず、獣に還っていく過程でした。ここでは、仮に食料を始めさまざまな援助をされても私たちのみではかってのような社会は作れないと思います。

 あなた方との共存を選ぶしか道は無いでしょう。私が説得します。まず食料を用意してください。それを持って、まず私の居たグループを説得し、彼らをその与えて頂ける住居に住まわせて、それを見せる形で他のグループを説得します。

 それで、私たちの生活の原資としてはどういうものを用意して頂けるのでしょうか?」

 この時が、まもなくシャーナ人の代表になって永くその利益代表を務めたスズリス・マテルスの代表としてのデビューの瞬間であった。


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